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2015年09月11日 10時53分

「街の構造物」だったホームレス、接して気付いたことは? 支援団体の大西連氏に聞く

「街の構造物」だったホームレス、接して気付いたことは? 支援団体の大西連氏に聞く
大西連氏

「貧困は、すぐそばにある」と言われて、驚く人は少なくないはずだ。だが、日本人の6人に1人が相対的貧困状態にあるとされるなか、「僕たちと貧困を隔てる壁は、限りなく薄く、もろく、そして見えづらくなっている」と訴えるのは、9月8日に発売された書籍「すぐそばにある『貧困』」(ポプラ社)の著者で、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの理事長を務める大西連氏だ。この本で伝えたかったことはいったい何なのか、大西氏に話を聞いた。(取材・構成/具志堅浩二)

●見た目では「生活困窮者」かどうか分からない

書籍の企画が立ち上がったのは、3年前のこと。

「貧困問題は、今や多くの人が知る日本の社会問題の1つになりました。書籍も、女性、あるいは子どもの貧困問題や、ホームレスなど、各論的なテーマを掘り下げたものが多数出版されています。

それでは、貧困とは一体何なのか。その全体像はぼやけてしまっている感があります。現場の立場で言えば、女性の貧困も子どもの貧困もバラバラに存在するのではなく、つながっているんです。1人1人のストーリーをていねいに追うことで、『貧困とは何か』が見えてくるのではないかと考えました」

昔から貧困問題に関心があったわけではない。中学、高校時代には、通学途中でホームレスを見かけることはあったものの、いわば『街の構造物』の一部としか思っていなかったという。

はじめてホームレスと言葉を交わしたのは2004年の冬、高校生のときだった。終電を乗り逃がした深夜の渋谷で、ホームレスに誘われて暖を囲み、話をした。「今まで無関心だったホームレスが、言葉を話す1人1人の人間であることを知ったことは、大きな経験でした」。

しかし、高校を卒業してフリーター生活に突入すると、いそがしい日々のなか、その記憶は薄れていった。

生活困窮者の支援に関わりはじめたのは、2010年3月のこと。バイト仲間から誘われて、新宿中央公園での炊き出しと夜回りにボランティアとして参加した。

目の前では、炊き出しを求めて集まった約500人が広場を埋め尽くしている。リアルな生活困窮者を、視覚や聴覚、嗅覚といった五感で生々しく感じ、衝撃を受けた。

慣れてくると、「1人1人を見ると、若者や女性、車いすの人など、よくイメージしがちな『ホームレス』の範囲に当てはまらない人々もいることに気付きました。また、見た目では生活困窮者かどうかわからない人もいました。とにかくいろんなクエスチョンが頭に浮かび、何だか不思議な感覚でした」

頭の中にあるたくさんの「?」をそのままにしたくない。浮かんだ疑問の答えを追い求めるため、活動を続けることになる。

●生活保護申請は通ったが、路上生活に戻ってしまった

その年の7月には、サトウさん(仮名)という男性の生活保護申請のため、新宿区の福祉事務所に同行。ここでも、想像と現実のギャップに気付かされる。

「困っている人が訪れると、大変でしたね、このような支援がありますよ、などと結構ウェルカム的な感じだと思っていたのです」。ところが、職員の対応は思いのほか冷淡で、同行者の存在を嫌がった。

懸命なやり取りの末、生活保護の申請は通り、サトウさんからはいったん感謝された。大成功か、と思いきや、紹介された宿泊施設が劣悪な環境だったため、結局、路上生活に戻ってしまう。再び路上で出会うと、サトウさんからは「あんたに頼んだのは失敗だった」などとののしられた。

書籍では、その他のエピソードも紹介されているが、結末はいずれも苦い。せっかく猫が飼える部屋が見つかったのにホームレスは河原に戻り、更正しかけていた元暴力団員はまた服役してしまう。

「きれいな結末のエピソードやかわいそうな人の話など、わかりやすい話は書きたくなかった。場合によっては本人にも少々問題があるような、リアルなエピソードを書きたかった。私が書く意味はそこにあると思うんです。

わかりやすい話は、貧困をどこか他人事で遠い話に思わせてしまうと思うのですが、貧困は本当に遠い話なんでしょうか。人の息吹を正直に描くことで、貧困は遠くにではなく、すぐそばにあること、自分たちの生活と地続きであることを書きたかったんです」

30~40の候補の中から、「すぐそばにある『貧困』」がタイトルに採用された理由も、そこにある。

大西氏自身、格好のよい書き方はしていない。問題に直面するたびに悩み、苦しむ様が率直に描かれている。

助言を求めるとていねいに応えてくれる先輩の稲葉剛氏(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事)については、「友であり、仲間であり、私を先導してくれる存在。困ったとき、身近に聞ける人がいるということは、とても恵まれていると思います」。周囲の人々にも育てられ、少しずつ成長してきた。

「様々な方々に読んでもらいたいのはもちろんですが、貧困問題に興味を持ったときに、入口となる本として選んでもらえればうれしいですね。まずこの本から読み進めて、その次にはより専門的な書籍に進んでもらえればと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

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