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海外旅行で飛行機事故に遭ったときの補償を左右する「モントリオール条約」ってなに?
航空機の事故そのものは減少傾向にあるというが・・・

海外旅行で飛行機事故に遭ったときの補償を左右する「モントリオール条約」ってなに?

インドネシア有数の観光地バリ島で4月中旬、旅客機が着陸に失敗して海に墜落し、約50人がけがをするという事故があった。海外旅行を計画している人たちには、肝を冷やす事故だったのではないだろうか。

実は、航空機の事故そのものは減少傾向にある。航空機事故などの情報をまとめたウェブサイト「The Aviation Safety Network」によると、2012年に発生した重大機体喪失事故は23件(乗客14人以上のもの。社有機や軍用機は除く)で、第二次世界大戦以降で最も少なかった。

とはいえ「万が一」という事はありうる。不幸にして飛行機事故に遭ってしまった場合、どれぐらいの補償が受けられるのだろうか。飛行機事故はそもそも件数が少ないこともあって、補償制度などの情報が広く認知されているとは言えないのが現状だ。航空会社の約款を読んでも「SDR」などという見たこともない単位が出てきて分かりにくい。海外旅行で飛行機事故にあった際の補償金額の相場や補償される範囲について、金子博人弁護士に聞いた。

●モントリオール条約が適用されるかどうかで「雲泥の差」

「国際線の航空事故で死亡・障害を負った場合、どれだけ賠償されるかは『モントリオール条約』(2003年発効)の適用があるかないかで、大きく変わります」と、金子弁護士は指摘する。

「モントリオール条約が適用された場合、賠償額には上限がありません。金額は通貨価値によって変動しますが、約1700万円(現時点のレートで換算)までは、航空会社に過失があろうがなかろうが補償されます。それを超えた部分も『反証が無いない限り過失があったと推定』され、過失があれば支払われます。さらに万一訴訟の際も、乗客の居住地で裁判が起こせます」

——では、適用されないとどうなる?

「古い『ワルソー条約』(1953年)やヘーグ議定書(1967年)が適用されます。これだと賠償額の上限が約280万円(25万金フラン)になってしまいます。また、反証が無い限り航空会社に過失が推定されるというのは共通していますが、もし航空会社に『過失が無かった』と判断された場合、賠償もなくなります。裁判の場所も制限され、契約締結地か航空会社の住所地でしか起こせません。旅客への補償はまさに『雲泥の差』と言えます」

——モントリオール条約が適用されるためには、どういう条件が必要?

「出発地と到着地の両国がいずれも、条約に加盟している必要があります。間に乗継があっても、チケットが連続していればOKです。日本、欧米先進国、韓国、中国などは加盟国ですが、インドネシアは非加盟国。総じて途上国には非加盟国が多いので注意が必要です。

もう一つの注意点が、『国内線には条約の適用がない』ことです。原則として事故地の一般法か、航空会社の約款が適用されるので、発展途上国では、賠償は極めて低額となります」

●往復チケットか片道チケットかで、結論が変わってくることもある

このように金子弁護士は説明する。具体的に、どんな場合にモントリオール条約が適用され、どんな場合に適用されないのか、金子弁護士によると、次のとおりだ。

「例えば、バリ島で事故にあったとします。

(1)日本からバリまでの直通往復チケットを買っていた場合は、出発地、到着地の両方が「日本(加盟国)」なので、モントリオール条約の適用OKとなります。

(2)ところが、チケットが片道だった場合、日本発インドネシア(非加盟国)着になるので、NGです。

(3)また、バリまで行くのに、まず日本・ジャカルタ間の往復を買って、『別に切り離して』ジャカルタ・バリ間の国内線を購入していた場合、その国内線については、モントリオール条約の適用はNGです。

(4)日本・ジャカルタ・バリの往復を『連続したチケットとして買っていれば』、間にジャカルタ・バリ間の国内線が入ってもOKです」

このように、モントリオール条約が適用されるかどうかは、かなり複雑な「場合分け」となるようだ。

なお、モントリオール条約では、賠償額が世界共通の通貨単位である「SDR」(特別引出権)という単位に基づいて表記されており、日本円での価値は円相場によって常時変動している。記事中の約1700万円という額は、条約の規定(11万3100SDR)と2013年5月17日時点のレート(約152円)により算出したものだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

金子 博人
金子 博人(かねこ ひろひと)弁護士 金子博人法律事務所
「金子博人法律事務所」代表弁護士。国際旅行法学会の会員として、国内、国外の旅行法、ホテル法、航空法、クルージング法関係の法律実務を広く手がけている。国際旅行法学会IFTTA理事。日本空法学会会員。

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