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2018年12月01日 09時42分

木村草太さんが語る「国民投票」論 「一番危険なのは議論低調のまま通ること」

木村草太さんが語る「国民投票」論 「一番危険なのは議論低調のまま通ること」
首都大学東京の木村草太教授

憲法改正を目指す安倍晋三首相だが、改正に反対する一部野党との駆け引きは活発化している。今後の動静については見通しが立たないが、仮に改憲案が発議された場合には、国民投票が実施されることになる。

国民投票とはどんな制度なのか。日本維新の会前代表・橋下徹さんと共著で『憲法問答』(徳間書店)を刊行した首都大学東京の木村草太教授(憲法学)に話を聞いた。(ライター・亀田早希)

●改正の項目ごとに行う国民投票

――憲法改正には、衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成で改憲案が発議された後、国民投票で過半数の賛成を得る必要があります。国民投票では、どのような投票をすることになるのでしょうか

「改正を発議された項目の条文案が示され、その是非について投票します。さらに、関連する項目ごとにバラバラに投票するため、たとえば、9条と環境権について同時に発議された場合は、別に投票します」

――憲法改正の発議をするにあたって、国民への周知など準備にどれくらいの期間が必要なのでしょうか

「テーマによると思います。わかりやすいテーマについて投票するなら、国民に説明する期間は半年もあれば十分ではないでしょうか。議論が必要なものについては、もう少し必要だと思います。『参議院の地域代表化』のように複雑なテーマだと、衆議院や地方自治との関係など検討すべきことが多く、2年、3年議論しないと伝わらない場合もあるでしょう」

●改憲の議論はわざとわかりにくくされている

――改憲についての議論は、主張が極端でわかりにくい印象があります

「多くの国民は、日本国憲法の内容に、すぐに変えないと困るというほどの不満をもっていません。ですから、世論調査でも、改憲が最優先の政治課題だと答える人は少数です。憲法改正を最優先課題として熱心に進めようとしている人は、一般国民の興味や考えとは離れた独特の興味を持って議論をしているということではないでしょうか。

日本の憲法改正議論の大きな特徴は、政策的な必要からではなく、『とにかく今の憲法を否定したい』という思いからの改憲提案が多いことです。

今の憲法の否定が先立つと、『改正できるのであればどこでもよい』という態度になります。しかし、一方で、解散権の制限など、『現在の権力者に不利益になる改憲』は、世論の支持があっても避けられる傾向があります。

国民は、このような傾向の中で議論されていることを理解し、政策的な必要性がきちんと示されているかどうかに注意すべきでしょう。また、提案者が、改憲の政策的な必要性を十分に説明していなければ、反対しておいたほうが無難ですね」

―—有権者としては論点をきちんと理解したうえでポジティブに改憲議論に参加し、投票を行いたいのですが

「これは改憲を提案する側の責任が非常に大きいと思います。改憲をテーマに絞って活動する非常に限られた勢力によって、一般国民の関心がほとんどないままに議論が進む構造ができ上がっていることは大きな問題でしょう。

加えていま、自衛隊を憲法に明記しようとする動きがありますが、その自衛隊の任務の範囲について極めてあいまいな文言にするという計画が進んでいます。これまでのように抑制的に自衛隊を運用するという説明も成り立ちますが、一方で、後で解釈によって範囲を拡大していく狙いがあるように読める条文の作りになっている。

つまり、どこまで本気なのか分かりませんが、『今と変わらない』という説明で国民の関心を低くしたまま国民投票を行い、議論を盛り上げずに通しそうとしている。これは非常にまずい。

2015年に成立した安保法制の集団的自衛権行使容認については、専門家の間で非常に強い違憲の疑いがかけられており、その是非については、国民の間にモヤモヤしたものが残っている状態です。

いま、国民投票をやるならば、安保法制の集団的自衛権行使容認部分をいったん廃止し、集団的自衛権の行使容認を明記した改憲発議をして、国民に問うべきでしょう。それなら、争点が明確ですし、国民のモヤモヤを解決する非常にいい国民投票になるはずです」

――私たちにできることはありますか

「『発議するなら争点を明確にしろ』という声を政治に伝えていくことだと思います。いまの説明だと、『現状維持』と『今と変わらない』の2択を迫るという意味のわからない国民投票になる。

なので、争点がよくわからないものはとりあえず反対するという圧力をかけて、『正々堂々と国民投票をやろう』と声をあげればよいのではないでしょうか。

改憲派でも『いい加減な国民投票なら賛成できない』とメッセージを出す、護憲派も『反対票を入るけれど、争点を明確にした上で、可決された場合には、国民の意思の反映だから受け入れる』という姿勢を示すことが必要だと思いますね。

声のあげ方はいろいろあると思いますよ。『結局何をやるのかわからないよね』と揶揄の言葉を発するだけでもいいでしょう」

憲法改正

●国民に問うならば明確な争点で

―—書籍『憲法問答』では、橋下さんの国民投票や住民投票について前向きな姿勢が印象的でした

「橋下さんは、『自分の中の不動の正義』を押し付けるために政治権力を行使するのは危険だと考えておられるようです。もちろん、橋下さんの政治的な見解はいろいろあるのですが、それが絶対ではなく、みんなで議論して、最後は選挙や国民投票・住民投票で決めるべきということを強調しておられました。

選挙された人や住民投票であっても、人権侵害や独裁を承認してはいけないのですが、絶対的な答えを見出しがたい政治問題については、橋下さん自身の見解も絶対視しないという姿勢でした。

論敵を激しく罵倒する橋下徹というイメージからすると意外だったのではないのでしょうか。

加えて、重要な政治課題に対して国民が投票で決着をつける、政治参加の体験としての国民投票を推奨していることも分かりましたね。

そのうえで、橋下さんは書籍のなかで、ご自身の憲法9条改正案として『憲法9条1項、2項は自衛隊組織の設置を妨げない』と提案していますが、これでは国民は何を問われているか分からない。ですから、それでは、橋下さんの狙いは達成できないのではないかと指摘しました。

自衛隊を憲法に明記し、日本が武力攻撃を受けた場合以外の武力行使を認めていくのであれば、その際の責任者は誰か、海外派遣の際の国会での手続きはどうするのか、国会や国民への情報開示の原則はどうするか、といった組織や手続きについての憲法規定が必要になります。

自衛隊の明記を主張するなら、組織の設置だけでなく、任務・権限の範囲や責任者、手続きなどの規定を置いて、それをどう統制するかも提案すべきでしょう。対談を通じて、こうした指摘の意味は、橋下さんにも伝わったと思います。

今お話ししたようなことが明確になれば、国民はより活発な議論ができると思います」

【木村草太(きむら・そうた)さん略歴】

1980年生まれ。東京大学法学部卒業、同助手を経て、現在、首都大学東京法学系教授。専攻は憲法学。著書に『キヨミズ准教授の法学入門』『憲法の創造力』『テレビが伝えない憲法の話』『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』『憲法という希望』『木村草太の憲法の新手』『社会をつくる「物語」の力 学者と作家の創造的対話』(共著)『憲法問答』(共著)など。

(弁護士ドットコムニュース)

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