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どんなに酷い動物虐待でも「初犯は執行猶予」の現実…「厳罰化」に向けたハードルとは
島昭宏弁護士

どんなに酷い動物虐待でも「初犯は執行猶予」の現実…「厳罰化」に向けたハードルとは

昨年、元税理士の男性が、野良猫に熱湯をかけたり、バーナーであぶったりするなど、虐待を加えて、13匹を殺傷した事件が明るみになった。この事件を受けて、今年予定されている動物愛護法の改正をめぐっては、「虐待の厳罰化」をもとめる声が強まっている。

動物保護に関心のある市民の間では、法律のありかたにも関心が高まりつつあり、こうした中で、動物愛護法について勉強する会が6月30日、東京都内で開かれた。主催は、犬猫の殺処分ゼロをめざしている一般財団法人「クリステル・ヴィ・アンサンブル」。

講師として登壇した島昭宏弁護士は、厳罰化について「動物と共生していくことが、人間社会をより良いものにする、ということをもっとうまく説明できるよう、議論を繰り返しながら、国民意識を高めていくこと必要だ」と話した。

●現行法上、動物虐待事件は「執行猶予」がつけられる

現行法では、動物虐待について、次のような罰則が定められている。

「愛護動物をみだりに殺し、または傷つけた者は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処する」(動物愛護法44条1項)

一方、刑法では、3年以下の懲役の場合、「執行猶予をつけることができる」とされている(刑法25条)。そのため、元税理士の事件では、わかっているだけで13匹の猫が殺傷されたが、執行猶予付きの有罪判決(懲役1年10カ月・執行猶予4年)となってしまった。

島弁護士は「どんなに動物を虐待しようが、上限は2年以下。どんなにひどい事件でも、(初犯ならば)執行猶予の対象になってしまう。何度も何度も繰り返さない限り、実刑はないということだ」と説明した。

●「保護法益」をとらえなおす必要がある

元税理士の事件をめぐっては、実刑をのぞむ署名もたくさん集まっていた。それゆえに、この事件を受けて、厳罰化をうったえる声がさらに強まった。島弁護士によると、厳罰化にはハードルがあるという。

その一つが「保護法益」(ある特定の行為を規制することによって保護される利益のこと)だ。何を守るか」によって、その罰則は「どの程度であるべきか」が決まってくる。

動物愛護法の目的は、(1)国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資すること、(2)動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止すること――とされている。

この目的から、動物虐待の保護法益は「動物の生命・身体の安全」そのものではない。自分のペットを虐待しても罪に問われることから、「財産犯」(人の財産を侵害する犯罪)でなく、公然性(不特定多数が見えること)がもとめられていないため、「風俗犯」(社会の風俗を乱す犯罪)でもない。

一般的に、保護法益は「動物の愛護管理の良俗」と考えられている。厳罰化にあたっては、この保護法益をとらえなおす必要が出てくるという。

●「器物損壊罪と比較する議論がまちがっている」

また、刑法には「器物損壊」があり、「他人の物を損壊し、または傷害した者は、3年以下の懲役または30円以下の罰金若しくは科料に処する」(同261条)と定められている。動物は「モノ」とされていることから、動物虐待の罰則も「器物損壊罪を基準にすべき」という考え方もある。

しかし、島弁護士は「器物損壊罪と比較する議論そのものが、まちがっている」と指摘したうえで、次のように話した。

「ただ、『動物は命があるものだから』というだけでおしすすめて、厳罰化するのは難しい。『動物と共生していくことが、人間社会をより良いものにする』ということをもっとうまく説明できるよう、議論を深めていくことが大事だ。そして、国民の感覚や関心が高まると、もっと(厳罰化に)近づいていくことになる」(島弁護士)

●「生き物苦手板」の問題が深刻になっている

ネット上には、動物虐待の動画・画像を投稿している人たちが一部に存在している。とくに、ネット掲示板「5ちゃんねる」(旧2ちゃんねる)の「生き物苦手板」は、目を覆いたくなるようなひどい状況となっており、深刻な問題となっている。

元税理士も、この「生き物苦手板」に投稿していたとされており、ほかの人たちの書き込みに煽られるうちに、どんどん犯行がエスカレートしていったとされている。こうした動物虐待動画の投稿等についても、一部で「罪に問うべきだ」という意見があがっている。

島弁護士は「新しい犯罪類型として、深刻になってきている。ほかの犯罪にも、つながっていく問題だ。煽られて、その人の犯罪がどんどんエスカレートしていき、もっと社会に広がっていく」「ただちに手を打たないといけない」と危機感を募らせた。

動物愛護法の違反ではなく、インターネット犯罪としてとらえたうえで、「『公然性』とおこなわれた場合は、そうでない場合よりも、法益侵害が直接的だから、罰則を重くする、という理屈が成り立つ」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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