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2018年06月09日 10時58分

「夫婦別姓訴訟の分断は本当に困っている人のためにならない」 サイボウズ・青野社長が批判に「反論」

「夫婦別姓訴訟の分断は本当に困っている人のためにならない」 サイボウズ・青野社長が批判に「反論」
「青野という名前が大好きなんです」と語るサイボウズ・青野社長

日本では、夫婦の別姓を認めず、民法750条で同姓を義務付けている。これに対し、選択的夫婦別姓を求める活動は40年にわたって続いているが、その壁は厚く、いまだ実現していない。近年では、民法750条は女性差別にあたるなどと訴えた裁判で、最高裁は2015年12月、「夫婦同姓は合憲」とする判決を下し、夫婦別姓を求める多くの人たちを落胆させた。

それから2年たった今年1月、ソフトウェア企業「サイボウズ」の社長、青野慶久さんら4人が日本人同士の結婚で、夫婦別姓を選択できないことは憲法違反だとして、東京地裁に提訴した。前回の夫婦別姓訴訟と異なるのは、代理人である作花知志弁護士によって、従来の民法ではなく、戸籍法という観点からの裁判になったことだ。

作花弁護士は、戸籍法では、日本人同士の離婚、日本人と外国人の結婚と離婚、外国人同士の結婚と離婚の時に別姓の選択が認められているが、日本人同士の結婚だけ、別姓が認められていないとして、法の欠缺(不備)を指摘。日本人同士の結婚で、「民法上の氏」は同姓のままだが、「戸籍法上の氏」は別姓が選択できるよう、戸籍法の改正を求めている。

この新たな夫婦別姓訴訟はメディアでも大きく報じられ、多くの人たちの共感を呼んだ。しかし、思わぬところから批判も受ける。その一人、井戸まさえ氏は、この訴訟は1996年に選択的夫婦別氏制度導入を提言した法制審議会で批判を受けて採用されなかった案の類似で、「オールドな案」とネットメディアで批判。青野さんたちによる保守系政治団体へのロビー活動を非難し、本来の夫婦別姓訴訟とは異なるとした。

しかし、本当に戸籍法に焦点を絞った夫婦別姓訴訟は「オールドな案」で、従来の夫婦別姓訴訟と対立するものなのだろうか。6月11日の第2回口頭弁論を前に、青野さんに聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●提訴後に現れた「前から撃つ人」と「後ろから撃つ人」

——提訴後の反響は?

「ほとんどの方は、大賛成で『GO!』とおしゃってくださっています。ただ一部、『前から撃つ人』と『後ろから撃つ人』が現れたという感覚がありますね」

——それはどういう人たちなのでしょう?

「『前から撃つ人』は、『日本の文化を壊すつもりか!』というご意見の方たちです。予想はしていましたから、『選択制ですので、同姓の伝統も守られます』とご理解をお願いしています。『後ろから撃つ人』たちは、私たちの訴訟は『本来の夫婦別姓じゃない』というご批判ですね。

では、『本来の夫婦別姓』とは何なのか。私の考えている『夫婦別姓』は、同姓にしたい夫婦は同姓を選び、自分の姓を選びたい夫婦はそれぞれ自分の姓を選べることです。それ以外にないと思っています。私たちが訴訟で訴えている戸籍法の欠缺(欠けていること)を埋めてくれれば、それが実現できるわけです。

でも、戸籍法の改正だけで納得しない方たちが一部にいらっしゃいます。夫婦同姓を義務付けた民法750条を改正することが、本来の夫婦別姓であると。民法上の氏も別姓でなくてはならないとの主張です。私もできることならば、民法を改正した方がいいとは思います。しかし、だからといって私たちの訴訟がダメだという理由にはなりません。民法750条改正にこだわってきた方たちは、こちらを撃つのではなく、どんどん民法改正を目指す活動をしていただければと思います」

●採用されなかった法務省「C案」に類似しているという批判への答え

——井戸まさえさんもネットメディア「現代ビジネス」(4月19日付)で、青野さんや作花弁護士たちの夫婦別姓訴訟をご批判されています。その中で気になったのは、「ニュー別姓訴訟」(現文ママ)は、1996年の法制審議会で提案されたものの、批判が多く答申内容から漏れた「C案」と呼ばれる試案に類似している「オールドな案」というご指摘でした。

ご批判の骨子だと思いましたので、作花弁護士にもあらためて確認したところ、今回の訴訟の主張とC案はまったく異なるというご回答でした。C案とは、簡単に言えば、特別法を作って旧姓の使用を公文書などでも可能にするものです。法務省によるC案の解説にも「この呼称は氏でなく、『氏に代わる個人の表示』」と明記されていました。

「そうですね。C案は法律上の氏ではなく、特別法によって新たに『呼称』を作り、その使用を公的に認めるという案です。しかし、私たちの提案は、もともと法的に不備のあった戸籍法上の氏を婚姻時に選べるようにしましょうということで、完全に法律として認められた本名であり、C案とはまったく違います。

よく欧米とも比較して、欧米の夫婦別姓とは違うなどとも言われますが、それは確かにそうです。なぜなら、他の国には『戸籍』がなく、民法上の氏がすなわち本名になりますが、日本の場合は、戸籍法上の名前が本名として使われるという特殊な事情があるからです」

●前回の夫婦別姓訴訟原告が実現させた作花弁護士との出会い

———前回の夫婦別姓訴訟と今回の夫婦別姓訴訟、実はつながりがあるそうですね。

「前回の訴訟の原告の一人であるライターの加山恵美さんが、判決の日(2015年12月16日)に、同じく再婚禁止期間訴訟で最高裁にいらしていた作花先生と出会ったことがきっかけです。ある日、加山さんが作花先生のブログに事実婚夫婦を原告に今回の訴訟を起こすと書いているのを見つけ、さらに法律婚で姓を変えて被害を被っている人を探していることを知って、もともと仕事で面識のあった青野と結びつけようと思われたわけです。

加山さんが昨年8月に運命のメッセージを送ってくれて、作花先生が裁判するそうですが、ご興味ありますか、と。『めちゃあります!』と即答した覚えがあります。この話には、本当に頭にきてましたから。それからすぐに作花先生と初めてお目にかかり、ご提案を聞いてみたら、めちゃロジックが面白くて。これは訴訟で勝てる可能性があるのではないかと思いました」

●「あっちに近づく奴は許さんという態度では、訴訟も民主主義も分断」

——法制審議会で答申されたにもかかわらず、政治は動かない。だったら司法の力で実現しようとしたのが、前回の夫婦別姓訴訟でしたが、それも最高裁で残念な判決が出ました。夫婦別姓がなかなか実現しない背景には、夫婦同姓を維持したいという考え方があります。

「作花先生の案であれば、これまで反対してこられた方たちも受け入れやすい部分があるかなと思いました。僕は反対派の方が悪いと言うつもりはありません。世の中、急激な変化に対して抵抗感を示される方がいるのは、むしろ自然な状態です。だから、世の中を変えるには、中間案を出していく必要がある。それが大丈夫だと確認できれば、また一歩進める。夫婦別姓も同じです」

——しかし、保守系政治団体へのロビー活動が批判を受けました。

「本当に夫婦別姓を心の底から実現したいのであれば、反対派も取り込んで一歩でも進まなければなりません。自分の主張や運動自体が目的になってしまっては、本当に夫婦別姓を進めることはできません。

世の中には色々な意見の人がいて、どれが正しい、どれが間違っている、ではなく、色々な意見の人たちと議論しながら方向性を探っていく。これが民主主義だと思っています。しかし、あっちは敵、こっちは味方と分けて、あっちに近づく奴は許さんという態度では、夫婦別姓訴訟だけでなく、民主主義にも分断を生みます。誰にとっても良くないと思います。何より、本当に困っている人たちのためになりません」

●「訴訟を起こして、多くの方が苦しんでいることを実感した」

——今回、青野さんご自身が従来の訴訟にみられる民法改正ではなく、「戸籍法上の欠缺を埋める」という作花弁護士の提案に賛同した理由を教えてください。

「民法改正はやるべきだと思っています。相当、やらないといけない。大体、戸籍筆頭者を決めろというのも、夫か妻、どちらかが優位になってしまい、よろしくないです。この法律の建て付けは、同性の本質的平等からも直した方がいいと思います。

日本でも、将来的には民法上の夫婦別姓を実現して、民法上の氏を本名として作り直さないといけない。ただし、そうなると同時に戸籍をどうするのかということまで決める必要があります。これは大変な一大作業で時間がかかり、そんなのは待ってられないというのが、今、本当に困っている人たちの心の叫びだと思います」

——まずは戸籍法の改正、ゆくゆくは本丸である民法改正ということですね。前回の夫婦別姓訴訟の弁護団が、新たな原告とともに民法改正を訴えた第二次夫婦別姓訴訟を東京地裁や広島地裁で起こしました。この訴訟をどうみますか?

「先生たち、攻めてるなー!と。私は法律の専門家ではありませんが、訴状を読んでそのボリュームに圧倒されました。争点もめっちゃ詰め込んできています。あれはすごいと思いました。国もあれだけの争点に対して、反論してこないといけないわけですから、議論を深める意味でもとても良いし、応援しています。

今回、訴訟を起こしてみてうれしかったのは、こんなに自分たちを応援してくれる方がいたことです。最初はこんなに話題になると思いませんでした。だから、社内にもちゃんと言ってなかったぐらいです。でも、訴訟を起こすというニュースがYahoo!ニュースのトップになったり、色々なメディアが取材に来てくださり、夫婦別姓は本当に多くの方たちが問題だと思って、苦しんでおられるんだなと実感しました」

——ありがとうございました。

【おわり】

(弁護士ドットコムニュース)

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