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税金の使い道決めて、みんなの夢をかなえたい ふるさと納税でクラウドファンディング
塗装費用を募集している「玉電車両」(1925年製造)

税金の使い道決めて、みんなの夢をかなえたい ふるさと納税でクラウドファンディング

返礼品競争の激しさが問題視され、総務大臣から各自治体に抑制を求める通知も出された「ふるさと納税」。2008年5月の開始から10年が経過した現在、実態として、「ほぼタダ」で好きな品物や商品券をもらえる制度になっているが、この制度を社会的な事業の寄付金集めに活用する動きも徐々に広がっている。「ガバメントクラウドファンディング」とも呼ばれており、寄付文化の乏しい日本で、新たな流れを作り出す可能性もある。(編集部・新志有裕)

●税金が流出する東京23区から出てきた動き

返礼品競争が激化し、豪華返礼品を用意する自治体に寄付をする人が増えることで、返礼品競争に加わっていない都市部の自治体の住民の税金が、他の自治体へ流れるようになった。特に、東京23区が大きな影響を受けている。例えば、東京都世田谷区では、2015年度に2億6000万円だった区民税の減少額が2017年度には31億円に拡大。2018年度には、40億円にものぼる見込みだ。

世田谷区は、制度の見直しを訴える一方で、寄付金の使い道を明確に示し、返礼品に依存せずに寄付を募る「クラウドファンディング」方式で、ふるさと納税の活用を進めている。このうち、目玉として注目されているのが、区内に展示している古い電車の車両の塗装をするための寄付金集めだ。

この車両は、「玉電車両」と呼ばれ、東急玉川線(渋谷ー二子玉川、三軒茶屋ー下高井戸)で走っていた1925年製造の車両(デハ80形)だ。1970年に江ノ電に寄贈され、1990年に引退後、区に無償譲渡され、現在は、東急世田谷線宮の坂駅に隣接する宮坂区民センターに展示されている。

区として車両の補修自体は2016年度に終えたが、塗装が劣化したため、塗装費用510万円と記念イベントの実施費用150万円の計660万円を求めて、2017年12月から、ふるさとチョイス(https://www.furusato-tax.jp/gcf/256)などで寄付金集めを始めた。

返礼品は、ジグソーパズルや羊羹、トートバッグなどで、3万円の寄付に対して、3000円程度のものだ。寄付金額に対して、1割程度で、総務省が掲げる「寄付金額の3割」を大きく下回っている。返礼品目当ての人にとっては、全く「美味しくない案件」だが、鉄道ファンを中心に、区内と区外が半々程度で寄付が集まっているそうだ。

2017年12月からスタートして、第1弾、第2弾と展開し、6月8日現在、660万円の目標に対して、432万5000円。世田谷区世田谷総合支所の竹内明彦・地域振興課長は「『昔乗りました』など、愛着を持った方からの激励の声が寄せられています。区役所への寄付で、これだけの激励の声が届くことは珍しいです」と話している。

寄付者からは実際に、「使用使途が明確なふるさと納税に賛同いたします」「プロジェクトを通じ、また子ども達に夢を与える存在になってくれることを願っています」などの賛同コメントが寄せられている。

金額的には数百万円程度で、とても区民税の減少額を補えるものではないが、竹内課長は、「これまで税金の使われ方がなかなか理解されてきませんでした。税金が区民のためになるということをわかりやすく伝える機会になっています」とその意義を強調している。

●NPOと連携して、社会的な事業に活用

一方で、NPOと組んで、より社会的な問題に取り組もうとする自治体も出てきた。広島県の神石高原町は、犬の殺処分ゼロを目指す特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンの「ピースワンコ・ジャパン」プロジェクトと連携。2018年度は、犬の医療費や養育費、犬舎や譲渡センターの建築・改修費などで10億円の事業費を見込んでおり、ふるさと納税で寄付を募っている(https://www.furusato-tax.jp/gcf/259)。

同団体は、活動資金の調達方法をめぐり、ふるさと納税を活用するアイデアを聞いたことをきっかけに、同町に提案して実現。町からNPOに資金を交付する仕組みを活用する。2014年にふるさと納税を活用したクラウドファンディングを開始して、寄付金を犬舎の建設などに充ててきた。

國田博史・国内事業部長は「ふるさと納税によって、寄付のハードルが劇的に下がっています。支援者の層がかなり広がったことを実感します」と手応えを語る。返礼品を不要とする人も3割程度いるという。

同団体は、佐賀県のNPO支援の仕組みを活用して、佐賀の伝統工芸の支援も、ふるさと納税のクラウドファンディングで募っている(https://www.furusato-tax.jp/gcf/272)。こちらは商品開発や展示会などにつなげるための寄付金を募るものだが、一般的なふるさと納税と同様に、返礼品にも力を入れている。

國田氏は、「返礼品は伝統工芸品に限定しています。入り口は返礼品であっても、そこから、伝統工芸を深く知ってもらうきっかけにしたい」と話している。寄付者を「市民パトロン」と位置づけ、工芸事業者との交流につなげるツアーなども企画しているという。

●「官製通販」とも揶揄される仕組み、新たな流れを生み出せるか

ふるさと納税をめぐっては一時期、豪華な特産品に加え、還元率が7割を超える商品券なども登場し、なりふり構わず寄付金集めに走る自治体も現れた。より極端な事例では、一部の寄付者が入手した商品券を転売し、彼らにとっての小遣い稼ぎになることもあった。

総務省は返礼品競争の抑制を求める一方で、新たな活用法も示してきた。2017年10月に示した「ふるさと納税のさらなる活用」では、「事業の趣旨や内容、成果をできる限り明確化」することと、「ふるさと納税をしていただいた方との継続的なつながり」を掲げており、起業家と連携したクラウドファンディングの活用も推奨している。2018年4月からは、自治体が寄付額と同額まで補助金を出して、支援を上乗せできる制度も始めて、流れを変えようとしている。

様々な制度上の欠陥が指摘され、「官製通販」といった批判の声も未だ根強い中、新たな流れを広げることができれば、総務省が掲げる「寄付文化の醸成を図る」ことにつながるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

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