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DV被害者の住所を「元配偶者」に誤交付、足立区役所は猛省…どんな救済手段がある?
写真はイメージです(Ushico / PIXTA)

DV被害者の住所を「元配偶者」に誤交付、足立区役所は猛省…どんな救済手段がある?

自治体の住民対応で、あってはならない事態がまたしても発生した。東京都足立区は4月11日、ドメスティックバイオレンス(DV)被害により支援措置を受けていた区民の住所が記載された戸籍付票を、元配偶者の代理人弁護士に対して誤って郵送していたと発表した。区は申請者に謝罪した。

●逗子の事件、意識していたが

区は2018年2月1日、DV支援措置の申請を受けて戸籍付票などの発行を禁止する措置を取っていた。ところが翌日、元配偶者の代理人弁護士からの申請を受け、区の担当者が誤って郵送したという。本来は手続きの途中で発行禁止を知らせるメッセージがパソコン画面に表示され、こうした問題は避けられるはずだった。

区は「何らかの理由で発行作業が継続された」(戸籍住民課)としている。発覚したのは、申請者が「元配偶者の代理人が自分の戸籍謄本を持っている」と区に指摘したのがきっかけ。区は今後、担当者らに事情を聴くなどして原因を調べる。戸籍住民課の課長は「誠に申し訳ないミスだった」と猛省。再発防止を徹底したいという。

現状、足立区の対応をきっかけに刑事事件などに発展したり、申請者が転居を余儀なくされているわけではないという。ただ、場合によっては「逗子ストーカー殺人事件」のような重大事件に発展する危険性もはらんでいる。同事件では、元交際相手に刺殺された女性(当時33)の住所を、当時の市職員が加害者側に漏らしたとして大きな問題になった。

足立区の戸籍住民課長も「逗子の事件を意識し、注意喚起を図っていたつもりだった」という。それでもミスが起きてしまった。時に大量の住民情報を扱う自治体業務で、一切のミスをなくすというのは難しいのかもしれない。ただ、自治体の対応ミスをきっかけに何かに巻き込まれた場合、住民側は法的にどのような請求ができるのか。三輪貴幸弁護士に聞いた。

●行政不服審査の請求や国家賠償請求を検討するのも手

ーー自治体のミスに、住民はどのような請求ができますか

「自治体の対応ミスが、誤った行政処分がなされた、というようなミスであった場合、当該処分を受けた方が、行政不服審査の請求をする、という救済方法が法制度として用意されていますから、この請求を検討するというのが一つです。

自治体の対応の具体的な内容が、行政処分には該当しない場合や、行政処分の効力が発生してしまい、すでに処分を取り消すのでは遅い、という場合には、事後的な救済手段である国家賠償請求を検討することになると思います」

ーー国家賠償請求とはどういったものでしょうか

「国家賠償請求は、公権力の行使に当たる公務員の職務上行為に違法性があり、行為者の故意又は過失がある場合、その行為による損害の賠償を請求できる、というものです。なお、被害者は加害者たる公務員に直接賠償を請求することはできません」

ーー部署によっては大量の業務をする自治体に対応ミスをゼロにするよう求めるのは現実的ではないのでしょうか

「自治体は様々な業務を日常的に大量に処理をしていますので、対応ミスを完全に防ぐことは難しいかもしれません。国家賠償はこのような場合の事後的な救済を目的とした法律、制度です。事後的な賠償では間に合わない事例も多数存在はしますが、法的には事後救済止む無し、ということになっています。

自治体に対して事前の対応強化を求めていく、ということとなれば、自治体に対する提言を積極的に行っていくという政治的な活動によることになると思われます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

三輪 貴幸
三輪 貴幸(みわ たかゆき)弁護士 樟葉法律事務所
2008年、大阪の法律事務所にて弁護士業務を開始。2015年、樟葉法律事務所開設。埼玉弁護士会所属。2016年、さいたま市非常勤特別職(行政不服審査専門員)就任。さいたま市役所法務・コンプライアンス課所属

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