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なぜ人間は「猫」を殺してはいけないのか? ペット法学からみた「動物愛護」の課題
渋谷寛弁護士

なぜ人間は「猫」を殺してはいけないのか? ペット法学からみた「動物愛護」の課題

犬や猫など、愛護動物を殺したり、傷つけた人に対する厳罰化など、「動物愛護法」改正の気運が高まっている。ペットに関する法律と政策を研究する「ペット法学会」の事務局長をつとめる渋谷寛弁護士は、慎重な議論をもとめている。拙速な議論では、ペット業界だけでなく、国民の理解も得られにくいと考えているからだ。動物をめぐる法律のあり方・考え方について、渋谷弁護士に聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・山下真史)

●「国民の間で気運が高まっていない」

――法改正のポイントはなにか?

改正のポイントはたくさんあります。前回(2012年9月公布・2013年9月施行)の改正で、せめぎ合いの激しいところが残っています。

たとえば、厳罰化です。昨年、税理士による猫虐待事件が話題になりました。人間を複数殺した場合、死刑になることがあり、国民感情も「死刑で当たり前」です。しかし、生命を奪う行為でも、動物の場合は「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」です。他人の飼い猫などの場合、器物損壊罪に問われることもありますが、それでも「3年以下の懲役・30万円以下の罰金もしくは科料」です。「3年以下の懲役」は、初犯だと、なかなか実刑にならないライン。まして社会的制裁を受けていると、執行猶予がつきます。

――現行の「7週齢」規制(生後7週間経たないと、子犬、子猫を親から引き離してはならないルール)を「8週齢」に伸ばそう、という議論については?

ペット業者の「営業の自由」を侵害することにならないような立法事実が必要です。科学的なデータのほかにも、国民感情も重要になってきます。ただ、動物愛護について、国民の間でそれほど気運が高まっているのか、個人的に疑問です。子犬・子猫から飼うのはよくない、と理解している人はまだまだ少ない。きちんと訴えていく必要もあるでしょう。

国会を無理に通しても、ペット業者から違憲訴訟を起こされたら大変です。「営業の自由」を侵害すると主張されたら、「違憲」という判断がされる可能性もあります。そうなれば、今までの運動の勢いが逆風にさらされます。「動物愛護団体つぶし」のような動きも出てくるおそれもあります。

●「子犬・子猫を衝動買いしてしまうことが間違っている」

――ペット業界の問題点は何と考えているか?

動物を繁殖するブリーダーの中には、「犬猫」を商品としてたくさんつくって、売ってしまえばいい、と考えている人も少なくありません。そういう中で、健康のよくない動物も生まれてくる。その場で処分されている動物がいるとしたら悲しいです。

――どうすればいいのか?

元も子もないのですが、結局は、消費者の意識が変わらないことにはどうしようもない。小さくてかわいい子犬・子猫を衝動買いしてしまうこと、それが、そもそも間違っています。きちんとした時期に親から離した子犬・子猫を買うという人が増えていく必要があるでしょう。そのためにも、ペット業界側に「8週齢」規制の導入を再検討してもらう必要があるでしょう。

●日本は「厳しいルール」がなじまない

――動物愛護法は「人と動物の共生する社会の実現」がうたわれています。根本的なところはどう考えればいいのか?

動物愛護法は、動物の「管理」と「愛護」からなりたっています。「管理」は端的にいえば、他人に迷惑かけないということ。「愛護」は、動物のためということです。そこから「終生飼養」、つまり、その動物が寿命をむかえるまでの一生涯、適切に飼うのが良いとされています。

一方、欧米の場合、病気の動物については、苦痛をあたえずに、安楽死させるという発想があります。命の捉え方に違いがあるのです。日本と欧米、どちらが人間中心的な考え方か、とはいえません。動物にアンケートをとることはできませんから。

人間は倫理・道徳の観点から、動物とどう接していくか、動物にとってどういうルールがいいのか、考えるわけですが、文化、時代、地域でも変わってくるでしょう。日本では、江戸時代の考え方と戦後の考え方が混在しています。

――日本の考え方はどういうものか?

日本には、仏教の「殺生禁断」、つまり、「生き物を殺してはいけない」という価値観があります。また、動物や昆虫にも生まれ変わる「輪廻転生」があるため、「なるべく生き物を殺さないようにする」という価値観もあります。そういう宗教的なものが根底にあるのです。

しかし、厳しいルールはなじみません。たとえば、江戸時代には「生類憐れみ令」がありました。しかし、厳しすぎたせいで、賛同を得られず、やがて撤廃されました。だから今でも、急な勢いで「動物愛護」を押し付けると、国民が反発してしまうおそれがあります。歴史から学ばないといけません。

●「人間はもっと動物のことを考えるべき」

――欧米はどういう考え方なのか?

欧米は、キリスト教の影響だと思いますが、「動物は、人間が支配・管理するもの」という考え方があります。だから、病気や重傷の動物には、苦痛をあたえず、安楽死させるところにいきつく。「アニマルウェルフェア(動物福祉)」という考え方もあります。安楽死を多用するのは、「愛護」ではなく「福祉」です。日本でも「動物福祉」を主張する運動がありますが、「福祉」にすればなんでも解決するか、という問題が残っています。

――人間と動物が共生するためにはどうすればいいのか?

人間と動物が共存していくためには、人間はもっと動物のことを考えるべきです。

古代から、人間は、犬や猫をはじめとして、動物と暮らしてきました。食用・食料のために育てて、殺して、食べてきた。人間は武器を持ち、動物より強大なので、支配・従属関係がある。しかし、「地球上で人間は何をしてもいい」と決まっているわけではありません。

少なくとも動物が生きやすい環境は考えたほうがいい。散歩のときに、犬に服を着させるのは本当にいいのか、東京くらいの寒さだったら、死ぬわけではありません。服を着させて、犬が本当に喜んでいるんだったら、その飼主との関係でそれでいいんじゃないか、とも思います。動物のことを考えて、じっくり議論していくことが大事です。

(弁護士ドットコムニュース)

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