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「石を投げれば弁護士にあたる」イタリアで進む「脱弁護士」事情、登録費用に若手が悲鳴
ローマ最高裁判所で行われた「仕事始め」の模様(2017年1月26日)

「石を投げれば弁護士にあたる」イタリアで進む「脱弁護士」事情、登録費用に若手が悲鳴

弁護士はいつの時代に生まれたのか。一説では、古代ローマの時代には法廷で活躍し、医師と並んで尊敬される職業だったという。その地・イタリアの首都ローマでは、「石を投げれば弁護士に当たる」と言われるほど、弁護士が多いそうだが、現在は経済的な理由で「脱弁護士」する若手も続出している。

イタリア人弁護士の夫をもつ、ローマ在住のライター、タケイ・ルチアさんがイタリアの弁護士事情をお届けする。

●登録人数は「24万3680人」

日本で「弁護士です」と自己紹介されることがあれば、「おっ」と驚く珍しい職業なのかもしれませんが、イタリアでは「石を投げれば弁護士に当たる」と言われるほど、日本と比べても弁護士の数は多いんです。

いったい、どれぐらいの弁護士がイタリアにいるのでしょうか。2016年の弁護士登録人数は、24万3680人にのぼります。内訳は、イタリア国籍を有する弁護士が23万2515人と圧倒的に多く、公共機関の弁護士(4574人)、大学の研究者(1470人)、ヨーロッパ共同体メンバーでイタリアで働く外国人弁護士(5121人)もいます。

日本の弁護士登録数が、3万8821人(2017年12月1日)にすぎないことを思うと、イタリアの数の多さは圧倒的です。ローマには2万5405人、ミラノには1万8881人の弁護士がいますが、この2都市の合計で日本の弁護士数を越えてしまうのです。

イタリアの人口は日本の約半分、6300万人弱(2016年国勢調査ISTATより)で、人口1000人に対して4人弁護士がいます。日本は計算上、人口1000人に対してたった0.6人と、1人にも満たないわけですから、この数の多さが伝わるのではないでしょうか。

ちなみにイタリアでは女性の割合も高く、現在、男性52.4%、女性48.6%と、ほぼ半々となっています。日本の女性弁護士の割合が18.3%に過ぎないことからすれば、イタリアの女性進出ぶりに驚かれるのではないでしょうか。と言っても、ここまで増えたのは、この10年のことです。1981年の女性弁護士割合は、たった7%にすぎませんでしたが、1995年には21%に、2005年は36%と、女性弁護士数は年々増加してきました。

●不景気で「脱弁護士」する人も

先ほど、イタリアでは「石を投げれば弁護士に当たる」と言ったのですが、調べてみると、1990年には、たった4万2366人でした。それが2000年は8万8658人、2010年には15万6934人、そして今や24万人にまで膨らみました。

しかし実は、2008年から不景気により、「脱弁護士」が進んでいます。2015年は8000人、2016年には4488人の弁護士が登録名簿から名を消しましたが、若手弁護士に多く、その理由も大半が経済的理由でした。

というのも、弁護士として登録するには「Cassa Forense」という弁護士の年金機構への支払いが必要となるのですが、これが高額で負担になるのです。たとえば、弁護士になって1年目〜3年目で、年収がゼロであっても、年間1800ユーロ(23万7600円)を納めなくてはなりません。4年目以降になると、さらに負担が大きく、最低でも3600ユーロ(47万5200円)を納めなければならないのです。

この支払いが大変で、弁護士名簿から名前を消す「脱弁護士」が若手で進んだのです。なお、その他の仕事で支払う余裕ができたら復帰して再登録することもできます。

弁護士といっても、このように裕福とは限りません。年収もイタリア人の平均的な年収と同様で、ほんの一握りの大物、有名弁護士が活躍する一方、経費がかかるため自宅兼事務所で働く弁護士も多いのが実態です。

弁護士の平均年収も高いとは言えず、1996年は4万4885ユーロ(約594万円:1ユーロ=132円)、2001年は4万6545ユーロ(約616万円)、 2007 年は4万777ユーロ(約632万円)となったものの、2008年は3万7444ユーロ(約495万円)にまで落ちた頃から景気が悪くなってきました。2015年には3万8277ユーロ(約503万円)となります。

しかし、ベルルスコーニ元首相の脱税など大捕り物が多いイタリアでは、超有名大物弁護士は巨額の収入を得ているとも言われます。

●先生を意味する「ドットーレ」と呼ばれる

ローマ時代の昔から今で人々の尊敬を集める職業といえば、弁護士と医者。現在も「ドクター(Dottoreドットーレ)」と呼ばれます。この点は日本と同じでしょう。

人数は多いですが、弁護士になるのが難しい点は日本と同様です。法学部がある大学で4年以上学び、学士の学位を得ます。後に18か月の弁護士事務所へ実習生として実習を積んだ後、公的な弁護士試験を受験する権利が得られます。弁護士試験は国家試験で、筆記と面接試験です(裁判官や検察官は別の試験です)。

試験会場は、イタリア国内にある控訴裁判所がある大都市26か所でおこなわれ、合格したら、国内139か所ある弁護士会に登録するというのが流れです。が、少し前まで、26のどの都市で試験を受けるかによって、運命は大きく異なりました。

たとえば、私の夫が合格した1999年、ローマの合格率が20%だったのに対し、南部の都市カラブリアは98%の合格率でした。住民票があるところで試験受けるのですが、南イタリアのほうが合格率が高いので、住民票を移動してまでも南に試験を受けに行ったものです。しかし、現在は、是正されてこういうことがなくなりました。

●特に重要なのは「正しいイタリア語」を使えること

また二次試験は口述試験となります。実はこれが難しいのです。イタリアで弁護士になるためには、特に重要なことは、正しいイタリア語を書き、そして話すこと。イタリア人でもイタリア語を勉強していないと正しい言葉は話せず、難しいのです。普通の人は住んでいる地域で少し言葉やアクセントが違います。なにせイタリアは20州で構成されるイタリア共和国ですから。

誰もが目指す人気の職業とは言えませんが、おしゃべりで、頭の良い、暗記力の優れた人に向いている職業かもしれません。そして、日本同様にステイタスがある職業であることは間違いありません。そして、年収300万円位のマチ弁(イタリアにもいます!)は、結婚して夫婦共働きで生活したほうが楽なのも、日本と同じではないでしょうか。

【著者プロフィール】

タケイ・ルチア現在ローマ在住。芸術研究家、聖絵画研究家、演出家(scenografa 1994年卒業Accademia di belle arti)、芸術博士(Dott.ssa storia delle arti 2014年 Universita di roma sapienza)。その他、イタリア国観光ガイド、通訳、添乗員免許取得。夫は、刑事事件を主に扱う弁護士。

(弁護士ドットコムニュース)

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