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「X容疑者の経歴は?」一報から1時間以内に作られるトレンドブログ、速さ競いデマも
容疑者の勤務先について誤情報を掲載し、謝罪するトレンドブログ

「X容疑者の経歴は?」一報から1時間以内に作られるトレンドブログ、速さ競いデマも

人の名前を検索すると、「Xの本名や彼氏は?気になる結婚の噂もチェック!」「Y容疑者の顔画像や経歴は?フェイスブックとツイッターも!」といったタイトルのブログが複数出てきたことはないだろうか。

このようなブログは、「トレンドブログ」などと呼ばれ、テレビで話題になった芸能ニュースや事件の容疑者に関するゴシップ記事が掲載されている。

容疑者逮捕のニュースが報じられると、瞬間的な検索ニーズに応えてアクセスを集めようと、ブログ運営者はこぞってその日のうちに容疑者の情報をまとめる。サイトに掲載する広告が、収益の柱となっている。

最近では6月に東名高速道路で夫婦が死亡した事故をめぐって、トレンドブログが10月11日、容疑者の勤務先について誤情報を掲載。勤務先と掲載された会社にはいたずら電話が殺到し、会社は休業にまで追い込まれた。このトレンドブログは、デマと判明した後、謝罪をし、最終的にブログ自体を閉鎖した。

●逮捕の一報から1時間以内に作成されるトレンドブログ

記事が作成されるまで、どのくらいのスピードなのだろうか。弁護士ドットコムニュースで10月6日、殺人容疑で逮捕された男の名前を逮捕の一報が出た3時間後に検索してみると、1ページ目に表示される9件のうち、既に8件がトレンドブログだった。

その8件のうち、一報が出てから1時間以内に書かれたブログは3つ。それ以外も全て2〜3時間以内に作られており、「Xの犯行理由や画像、顔写真!」「Xの顔画像や動機とfacebookは?」といった似たようなブログのタイトルが並んだ。

●数日後のテレビ番組の出演者を狙ってブログ作成

こういったトレンドブログは、どのようにして作成されているのだろうか。速報性が求められる容疑者逮捕系のブログではなく、事前に準備することが可能な芸能ニュースに関するブログ記事を書いたことがあるという都内在住のユカさん(仮名)に話を聞いた。

ユカさんは在宅でできる仕事を探そうと今年春、クラウドワークスに登録。そこで初心者でもOKと書かれている「【初心者や主婦の方も歓迎!】ブログ記事のライター募集」という案件に応募した。トレンドブログの運営者が、1記事につき400円で記事を外注しているといったものだ。

クラウドワークス上でメッセージを送ると、「サンプル記事の作成」を依頼され、「その内容次第で最終的な合否について連絡する」と伝えられた。内容は5日後に放映されるテレビドキュメンタリーで特集される経営者について書くもので、文字数1500字以上という決まりがあったという。

「『Xの経歴や出身大学は?年収や名言がすごい!』というタイトルで、前文の他、見出しを加えて、結びまで一つの記事を作るというお題が来ました。一緒にマニュアルや記事構成のサンプルも送られて来ましたが、細かい書き方は指示されません。なのでネットで似たようなブログを検索して、書き方を真似して送りました」。

さらにユカさんは指名された著名人のXについて、これまで聞いたこともなかったという。情報はどのようにして集めたのだろうか。

「とりあえずXさんの名前を検索して、公式のホームページなどがなかったのでWikipediaや他のトレンドブログから情報を引っ張ってきました。コピペはダメだと事前に言われていたので、文章の感じは変えたりして。画像はグーグル検索をして出てきたものを使いました。こんなので大丈夫かな?と思っていたのですが、それがそのままブログに掲載されてしまったので、なんだか罪悪感がありました」。

1つの記事を作るのにだいたい2時間近くかかったというが、正式に採用された後には毎日テーマが送られてきたという。内容は近く放映予定のテレビ番組に関連したものが多く、「私はブログを運営している側ではありませんでしたが、毎日1記事ペースで原稿を求められたので予想以上に大変でした」と振り返る。

ユカさんのような事前準備型ではなく、容疑者逮捕のような速報型では、個人や企業がほぼ専業でネットに張り付いて量産しているケースもあり、グーグル検索の上位を狙った激しい記事濫造合戦が繰り広げられている。

●アルゴリズムの穴をつく「トレンドブログ」

こうしたトレンドブログについて、検索エンジンに詳しい辻正浩さんは「検索エンジンが進化して、こうしたトレンドブログをやりやすくなってしまった」と指摘する。どういうことだろうか。

「検索エンジンには、QDF(Query deserves freshness)というアルゴリズムがあります。今注目を集めている情報について、新しい情報を優先させるというものです。特定のキーワードの検索数が急激に増加したら、何か事件や事故が起きたと考え、新しい情報を優先することになっています。

例えば有名な会社が不祥事を起こしたとします。そのことに興味を持った人は会社名で検索するでしょうが、その場合多くの人が知りたいのはその会社のWebサイトに記載されている公式情報ではなく不祥事の最新ニュースでしょう。ユーザーはそこで新しい情報を求めているのに、そこで昔からあるページに行き着いてしまっては、ユーザーの意図とずれてしまいます。それを改善してきたわけです。

グーグルは2011年11月、『検索結果がよりタイムリーに』と、新鮮な情報を検索結果に表示できるようアルゴリズムを更新したと発表しています。その後も興味関心に沿う新鮮な情報を優先する様々な変更が加えられ続けまして、トレンドブログを行いやすくなってきています。最新の情報を素早くまとめるトレンドブログが検索上位にきてしまうのは、アルゴリズムの穴をついていると言えます」

●トレンドブログの収益となる「広告」にも問題

アルゴリズムの改善で、皮肉にも速報的に情報をまとめるトレンドブログがやりやすくなっているという。辻さんはトレンドブログがはびこるもう一つの問題点として、「広告」の問題を挙げる。

「検索エンジンだけでなく、広告で収益をあげさせてしまうアドネットワークにも問題があります。

一番稼げると言われる『Google AdSense』の審査は厳しくなってきてはいますが、他に審査がゆるいネット広告があります。

グーグルがトレンドブログを締め出したとしても、収益が半分以下にはなりますが、ブログ運営者は結局他のネット広告に流れていくでしょう。現在多くのトレンドブログの収益の柱となっているGoogle AdSense広告がトレンドブログに使えなくなったとしても、抜本的な解決にはならないのが難しいところです」

●通報をすることが唯一の対抗策

前述のユカさんのように記事作成を外注しているブログもあれば、個人や複数人で仕事のように運営しているブログもある。トレンドブログを巡っては、デマを掲載・拡散するといった問題も起きている。

「Yahoo!ニュースに張り付いて速報を狙ったとしても、同じようにトレンドブログを書く人が何十人もいて勝てないわけです。そうすると『他の人が出していない情報を出さないと』と、誤った情報や暴力的な情報に手を出してしまう。インターネット上にどんどんゴミをばらまいています。

東名高速道路の事故の容疑者に関する誤情報を掲載し、問題となったトレンドブログ『モノローグ』は、サイトを閉鎖しました。ただおそらく閉鎖せずに続けていても、問題ある記事に多くの通報が寄せられていたはずですので広告は貼れなくなっていたでしょう。今年7月には俳優の西田敏行さんを誹謗中傷する記事を掲載したとして、偽計業務妨害容疑で男女3人が書類送検されました。

誤情報など問題のあるブログは、広告の通報フォームからどんどん通報をしていく。これがユーザー側の唯一の対抗策ですね」

ユーザーとしても、欲しい情報が出てこないというのは深刻な状況だ。検索結果の質は今後上がっていくのだろうか。

「フェイクニュースなど検索結果の情報の信頼性が叫ばれるようになった今、グーグルはアルゴリズムを改善することで、情報の正しさというのを判断しようとしています。2年ほど前には、記事自動作成プログラムによって作られた記事が検索結果の上位に来ていた時期もありましたが、最近はほとんど見なくなりました。

また、話題のキーワードで検索すると『トップニュース』という上部の枠に最新情報が表示されるのをよく見ると思います。ここには半年前までは個人ブログも表示されていましたが、大手サイトしか表示されなく変更されました。そのようにグーグルがアルゴリズムの改善を続けていますが、まだいたちごっこが続いている部分があります。

今すぐに変わるということは難しいですが、あと1年もすれば今のトレンドブログの問題も改善されていくことを期待したいです」

このようなトレンドブログは、内容によっては、西田敏行さん誹謗中傷ブログのように偽計業務妨害罪に問われる可能性があるし、名誉毀損罪などになるケースもありうる。また、他人のコンテンツの盗用などがあれば、著作権侵害が問題になることも考えられる。検索結果を汚す問題はもちろん、違法性のある有害な記事には特に注意が必要だ。

(弁護士ドットコムニュース)

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