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カジュアルに学ぶ「憲法カフェ」5年目、1000回超す人気…太田弁護士が語る手応え
太田啓子弁護士

カジュアルに学ぶ「憲法カフェ」5年目、1000回超す人気…太田弁護士が語る手応え

カフェでスイーツを楽しみながら弁護士に憲法の話を聞くーー。そんな新しいスタイルが話題を呼んだ「憲法カフェ」。今年で5年目を迎え、全国で開催1000回を超す人気が続いている。

企画するのは若手弁護士約500人でつくる「明日の自由を守る若手弁護士の会」(略称:あすわか)。国防軍の創設などを掲げた2012年の自民党・憲法改正草案に危機感を抱き、国民に〝憲法とは何か〟を知ってもらおうと2013年に会を発足した。活動の中でメンバーの1人、太田啓子弁護士が発案したのが憲法カフェだ。草の根の支持を着実に広げてきたこれまでの道のりについて、太田弁護士に聞いた。(フリーライター・宇尾ミユキ)

●「敷居を低く」「分かりやすく」を追求

「当時私は自治体に放射能対策を求める活動もしていて、ママ仲間に『憲法の勉強もしてみない?』と持ち掛けたのが始まりです。反応は今一つでしたが数カ月待ち続けて2013年4月、ようやく個人のお宅に子連れで集まって勉強会を開くことができたんです」

「3・11以降の社会と政治に不安と不信を感じていたママたちなので、憲法も、はじめはとっつきづらいと感じていたかもしれませんが、いざ話し出すと、権力の暴走を縛る必要があって編み出された仕組みが憲法なんだよとか、表現の自由の規制には強い警戒が必要ですよね、などの話は、すっと伝わったようでした。それから彼女たちの口コミで広がり、私も開催してくれそうな店を探し歩き、カフェやレストランなどで開くようになりました」

評判となりニュースで取り上げられるようになってからも、どうしたらもっと多くの人たちに足を運んでもらえるのか模索し続けた。女性誌の影響力が大きいと聞き、知人の伝手をたどって人気ファッション誌にアプローチしたところ、異例の憲法特集が組まれ紹介された。

「反響がすごくて活動に弾みがつきましたね。『敷居を低く、おしゃれで楽しく』をモットーにこれからもやっていこうと思いました。これまで政治に特に関心がなかった人たちの興味を引くためには、やっぱり公民館の会議室で『憲法改悪を阻止するための緊急学習会』と銘打ってやるよりも、カジュアルな場で気軽に話すスタイルがいいんだなと」

普段は月に1~3回のペース。場所はカフェに限らない。主催する個人やグループの希望に合わせ、これまで幼稚園、保育園、PTAでの勉強会、生協、子育てサークルやお好み焼き店、助産院…様々な場所に呼ばれて行った。「SNSで告知を見たので」と子連れや赤ちゃんを抱いた親たちも気兼ねなくやってくる。いも掘りイベントに合わせ畑で開催したり、週末の午後にバーを借りきって「お父さんのための呑み学び講座」を行ったことも。

あすわかの弁護士たちが各地で出向く勉強会も「憲法カフェ」という名称でまとまり、それぞれ独自のレクチャーで人気を呼んでいる。改憲をめぐる難しい議論を分かりやすく伝えるために会で作成したリーフレットは、マンガやイラスト満載で読みやすい。

●「目からうろこが落ちた」と参加者たち

「憲法に関わる国会質疑やニュースを聞いてもよく分からないという人が多い。まずは理解するための基本的な知識を身につけてもらいたいんです」と話す太田弁護士。カフェ冒頭で恒例となっているのが○×クイズだ。「国民は憲法を守らなくてはいけません…○と×のどちらでしょうか?」

これは憲法の基本でありながら一番誤解されている問題。×という答えに驚く人が多いという。「憲法を守らなくてはならないのは国民ではなく国家です。憲法とは、権力の濫用から国民の自由を守るために国家を縛っているルールブックだと思ってください。この考え方を立憲主義と言います」

続いて安保法制の成立にいたるまでの議論や、最近では共謀罪をめぐる国会質疑をかみくだいて説明していく。参加者とのやりとりも楽しみの一つだが、ある日「子どもが戦地に行くリスクが一番少ない職業は何ですか?」と質問された時には、しばし考え込んだ。

「いろんな職業を思い浮かべているうちに大正解がパッとひらめいて。総理大臣なんです。お子さんを総理大臣にして誰も戦争に行かなくて済むような政治をしてもらったら一番安心です、と答えたんですけど、我ながら何ていいこと言ってるんだろうと思いました(笑)」

参加者からの感想は「目からうろこが落ちた」「カルチャーショックだった」などの声が多いそうだ。うれしく感じる一方で、そもそもなぜ国の根幹である憲法をきちんと義務教育で教えないのか、不満が膨らむ。「国民に基本的な知識があるという前提で、改憲するしないの議論をすべき。いずれは子どもたちにも教える場をつくりたい」

カフェ活動を始めてからこれまでの4年の間に特定秘密保護法が成立し、集団的自衛権行使容認の閣議決定が出され、安保法制が成立した。「憲法をめぐる政治状況はどんどん悪化していて、そのスピードに追いつけない、という感じは正直ありますね」

「でも行動しなかったらもっとひどかったかもしれないと前向きに考えています。幸か不幸か、政治に無関心な人たちはまだまだいるので、その人たちの関心を掘り起こすために何をすべきかを考えていきたいです」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

太田 啓子
太田 啓子(おおた けいこ)弁護士 湘南合同法律事務所
2002年弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。離婚、相続、雇用関係を多く扱う。性差別、性暴力、「憲法カフェ」などをテーマに雑誌・テレビで発信し、政治を自由に語る場「怒れる女子会」も企画する。2児の子育てでも奮闘中。子連れでの法律相談も歓迎している。 共著に「これでわかった!超訳特定秘密保護法」(岩波書店)、「憲法カフェへようこそ」(かもがわ出版)。

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