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「客殺し」のパチンコ不正改造、メーカーと警察の責任を分析…年内に72万台回収へ
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「客殺し」のパチンコ不正改造、メーカーと警察の責任を分析…年内に72万台回収へ

不正に改造されたパチンコ台が流通している問題で、業界団体である全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)は6月27日、検定機と性能が異なる可能性のあるパチンコ台を2016年末までに回収・撤去する方針を示した。

報道によると、撤去対象の台は、パチンコ台の製造業者である日本遊戯工業組合(日工組)のリストに示された台が対象で、合計約72万台に及ぶとみられている。

パチンコ台の多くは、盤面の中央にある「始動口(へそ)」に玉が入ると抽選が始まる仕組みになっている。デジタル抽選で「大当たり」になると大量の玉が出る。不正は、デジタル抽選の回数を増やすため、始動口に玉が入りやすくなる方向にくぎが曲げられていた。

一方で、盤面の左右などにある「一般入賞口」に入ると「小当たり」として10個程度の玉が戻るが、一般入賞口には玉が入りにくくされていた。こうした改造が、都道府県の公安委員会の承認を得ていないことから、警察庁が業界側に早期の撤去を求めていた。

今回の一連の騒動は、いったいなにが問題となっていたのか。賭博法規制や風営法の問題に詳しい山脇康嗣弁護士に聞いた。

●問題の3つのポイント

今回の自主回収問題の構造は、実は非常に複雑です。本質を理解するためには、次の3つのポイントをおさえる必要があります。

(1)パチンコ店(ホール)に対し、営業停止命令などの処分がなされたものではないこと

(2)パチンコ台メーカーに対し、検定取消しの処分がなされたものではないこと

(3)検定機と性能が異なる「可能性のある」型式に係るパチンコ台を、メーカーが「自主」回収するという建て付けとなっており、責任の所在が曖昧となっていること

●パチンコ台の「釘曲げ」は何が問題なのか?

パチンコ店は、国家公安委員会規則で定める射幸性基準を逸脱するパチンコ台を設置してはなりません。また、パチンコ台の性能を変更しようとするときは、あらかじめ公安委員会の承認を受けなければなりません。

承認を受けずに釘曲げ(不正改造)を行った場合には、風営法上、営業停止処分や刑事罰の対象となります。パチンコ店が行う典型的な釘曲げは、「一般入賞口」を狭めつつ、イベント日などに客寄せとして「始動口(へそ)」を広げることによって大当たりを出し、いわば当たりと外れをはっきりさせて射幸性を煽るというものです。悪しき業界慣行として、かねてからパチンコ店による釘曲げはありました。

しかし、今回は、パチンコ店に対して営業停止命令などがなされたわけではなく、メーカーによる自主回収という建て付けとなっていることからわかるとおり、パチンコ店自身による釘曲げ自体が直接的に問題となっているわけではありません。

●パチンコ台の検定を受けるのは、パチンコ店ではなくパチンコ台のメーカー

パチンコ店にパチンコ台が設置されるまでには、次のようなプロセスを経ます。

(1)指定試験機関である保安通信協会による「試験」

(2)公安委員会による「検定」

(3)検定通知書などを添付して公安委員会による「承認」

パチンコ台の試験と検定を受けるのは、パチンコ店ではなく、パチンコ店にパチンコ台を納入(販売)するメーカーです。メーカーが、パチンコ台を保安通信協会に持ち込み、試験の結果、型式が技術上の規格に適合していると認められれば、公安委員会から検定を受けられます。

技術上の規格は、射幸性を一定範囲に抑える観点から定められています。今回、多くのメーカーが、検定を受けた後に、無断で改造し(釘を曲げて検定時よりも「一般入賞口」を狭め、玉が入らないようにすることなどがありえます)、パチンコ店に納入している疑いがあることが判明しました。

そのため、メーカーが大量のパチンコ台を自主回収することになったのです。メーカーによる不正改造は、射幸性を高めることによって客を獲得しようとするパチンコ店側の需要に応えることが目的だった可能性があります。

●検定機と性能が異なる「可能性のある」ことを理由に自主回収を決めた

風営法の検定制度上、検定機どおりの性能のパチンコ台を設置することが求められているにもかかわらず、「遊技産業健全化推進機構」による実態調査によれば、全国161店舗258台について、検定通過時と同じ状態のままのものが1台もなかったというのは、驚くばかりです。

風営法では、検定を受けた型式のパチンコ台について、技術上の規格に適合しないことや不正手段によって検定を受けたことが判明したときは、公安委員会が検定を取り消すことができると規定しています。

しかし、今回は、メーカーは、検定の取消処分を受けていません。業界団体は、検定機と性能が異なる型式ではなく、異なる「可能性のある」型式の自主回収と言っているのがポイントです。検定機と性能が異なると言い切ってしまえば、多くのメーカーが検定の取消処分を受ける可能性が高まり、大打撃を受けます。

また、「一般入賞口」に玉が入らないように釘曲げされたパチンコ台は、国家公安委員会規則で定める射幸性基準を逸脱しますので、それを設置し続けて営業を行っているパチンコ店も、営業停止命令を受ける可能性があります。

検定機と性能が異なるとは言い切らずに「可能性のある」との表現を用いる業界団体には、そうした深刻な事態となることを避ける狙いがあるのかもしれません。しかし、今回の問題において、検定機と性能が異なるのかどうかを確定せずに、自主回収という手段で事態の収拾を図るのは、それだけが理由ではないと思われます。

●管轄官庁としての警察の責任

 

公安委員会(警察)は、パチンコ営業が射幸性を逸脱しないように、様々な規制権限を有しています。具体的には、パチンコ台の検定権限、パチンコ台設置の承認権限、パチンコ店への立入権限、営業停止命令権限などです。さらには、公安委員会から指定されている試験機関である保安通信協会は、警察の「天下り」機関とも言われています(専務理事及び常務理事は元警察官僚です)。

検定機と性能が異なることを確定させると、公安委員会は、多くのメーカーの大量のパチンコ台について検定の取消処分を発動せざるをえなくなります。それは同時に、公安委員会がこれまで規制権限を適正に行使してこなかったことを自ら認めることになってしまいます。

もちろん、検定の取消処分まで行うとメーカー、パチンコ店、それらの従業員などに対する影響が大きすぎるので、予期せぬ混乱を避けるという考慮もあるかもしれませんが、自らの不作為の責任を認めたくないという観点も否定できないように思われます。

●パチンコ客が損害賠償請求訴訟、理論的にはありうる

メーカーが、意図的に検定後に釘曲げをしてパチンコ店に納入(販売)していたとすれば、それによって損害を被ったパチンコ店は、メーカーに対し損害賠償請求をできる可能性があります。

また、パチンコ店の客についても、もしメーカーによる不正な改造を知っていれば、そのようなパチンコ台ではプレイしなかったといえる場合には、当該プレイで出費した金額を、メーカーに対し集団訴訟的に損害賠償請求できる可能性も否定できません。

さらに言えば、規制権限を適正に行使してこなかった公安委員会(警察)の不作為に対する法的責任を追及する訴えも、理論的にはありえます。

釘曲げなどの不正改造は、射幸性につられて大量の出費を強いられる客が被害者となる「客殺し」を本質とします。今回の問題は、風営法の目的である風俗営業の健全化を大きく阻害するものであり、極めて深刻です。

パチンコ業界に限った話ではありませんが、事業運営にあたっては、コンプライアンスを徹底しないと、後に大きなペナルティを受ける可能性があることを認識する必要があります。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山脇 康嗣
山脇 康嗣(やまわき こうじ)弁護士 さくら共同法律事務所
慶應義塾大学大学院法務研究科修了。入管法・外国人技能実習法・国家戦略特区法・国籍法・関税法・検疫法などの出入国関連法制のほか、カジノを含む賭博法制(ゲーミング法制・統合型リゾート法制)や風営法に詳しい。第二東京弁護士会国際委員会副委員長、日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱委員(法務省入国管理局との定期協議担当)。主著として『〔新版〕詳説 入管法の実務』(新日本法規)、『入管法判例分析』(日本加除出版)、『技能実習法の実務』(日本加除出版)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規)、『外国人及び外国企業の税務の基礎』(日本加除出版)がある。「闇金ウシジマくん」「新ナニワ金融道」「極悪がんぼ」「銀と金」「鉄道捜査官シリーズ」「びったれ!!!」「ゆとりですがなにか」など、映画やドラマの法律監修も多く手掛ける。

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