弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. インターネット
  3. 上杉隆vs池田信夫「訴訟合戦」池田氏が提起した「反訴」とは何か
上杉隆vs池田信夫「訴訟合戦」池田氏が提起した「反訴」とは何か
ネット言論人の訴訟合戦として注目が集まっている

上杉隆vs池田信夫「訴訟合戦」池田氏が提起した「反訴」とは何か

経済学者で著名ブロガーとして知られる池田信夫氏が『読売の記事を盗用した上杉隆氏』と題するブログ記事を掲載したことについて、自由報道協会代表理事で元ジャーナリストの上杉隆氏が、池田氏らに対して記事削除と謝罪広告、損害賠償を求めている訴訟で、動きがあった。訴えられて「被告」となっていた池田氏が、今度は逆に上杉氏を訴えたのだ。

池田氏は4月22日、司法記者クラブで会見を開き、上杉氏に対して「反訴」を行ったと発表した。「上杉氏は昨年10月に放送されたMXテレビの番組で、『池田氏が自身のツイートを削除し、過去の発言内容について証拠隠滅を図った』などと事実無根の主張を行い、池田信夫の名誉を毀損した」と説明。「上杉氏が請求した金額と同じ2200万円と謝罪広告」を求めて訴訟を提起したことを明らかにした。

訴訟のきっかけは、池田氏が昨年10月、自らのブログに掲載した『読売の記事を盗用した上杉隆氏』と題する記事。これは、上杉氏が2011年3月に配信した原発事故に関するメルマガ記事に言及したものだが、その中で池田氏は「上杉氏の記事は読売オンラインの記事をコピー&ペーストしたあと加工された疑いが濃厚である」と指摘し、「明白な著作権法違反である。記者クラブメディアなら、書いた記者は懲戒解雇だろう」と厳しく批判していた。

この記事は、池田氏のブログのほか、オピニオンサイト「BLOGOS」にも転載されて、ネットで反響を呼んだが、上杉氏は「ダイヤモンド・オンライン」などで「記事盗用はしていない」と反論。池田氏のブログ記事を「悪意と作為に満ちた劣悪な記事」と非難した。しばらくネット上で両者の批判合戦が展開されたあと、上杉氏は昨年11月、池田氏とBLOGOSを運営するNHN Japan株式会社(現LINE株式会社)などを相手取って、記事削除と謝罪広告、損害賠償を求める訴訟を起こした。こちらは現在、第2回口頭弁論が終了したところだ。

ネット言論人の訴訟合戦として注目が集まっているこのケースだが、池田氏が行った「反訴」とはいったいどんな手続きなのだろうか。雪丸真吾弁護士に聞いた。

●「反訴」は訴訟を一本化する制度

「反訴は、現在裁判で争われている最中の訴訟(本訴)で、訴えられた被告(本訴被告=本件だと池田氏)が、本訴と同じ訴訟手続きの中で、『関連する紛争』について、本訴の原告(本訴原告=本件だと上杉氏)を訴える制度です。民事訴訟法146条に規定があります」

雪丸弁護士はこのように説明する。つまり反訴は、双方がお互いを訴える形になったとき、訴訟を一本化するための制度だ。

なぜそんな制度が必要なのだろうか。別々に裁判をやったらダメなのだろうか?

「もちろん被告は、別に訴えを提起する『別訴』という形で、本訴原告を訴えることもできます。しかし、2つの訴訟を別々の裁判官が裁くことになるため、矛盾した判断がなされる恐れがあります。別の裁判官の審理となる場合、主張や証拠の提出も二度手間となります。

別訴を提起しておいて、後で『併合』(バラバラに進行中の裁判を一緒に審理する制度)を求めることもできますが、併合するかどうかを決めるのは裁判所です。必ずしも同じ裁判官が担当することになるとは限りません」

では「反訴」にはどういうメリットがあるのか?

「反訴を提起し認められれば、同じ裁判官による審理がなされますので、矛盾した判断を回避できます。また、本訴に提出済みの証拠等を利用することが可能となります。さらに本訴と反訴の目的が同じであれば、反訴状に貼る印紙の印紙代が一部免除されるメリットもあります(民事訴訟費用等に関する法律別表第1第6号)」

●反訴を認めずに争うケースも

裁判の効率化という意味では、反訴できる場合にはした方が良い?

「そうですね。一般的には、被告が原告に対して、本訴と関連する請求をするのであれば、反訴を利用するべきとなります」

では、最初に訴訟を提起した側は、反訴を受け入れなければならないのか?

「民事訴訟法146条は、『本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合に限り』反訴ができるとしていて、これは『関連性の要件』と呼ばれています。本訴の原告側としては、判断対象が増えて訴訟が長期化することや、万が一反訴で負けると逆に賠償を命じられる結果となることから、基本的には反訴されるのは嬉しいことではありません。したがって、本訴の原告側は、本件がこういった要件を満たさないなどと主張して、反訴を認めないように争うこともあります」

すんなりと「反訴」が成立しないケースもあるということだ。上杉氏側の反応も含めて、今後の裁判の行方からはますます目が離せなくなりそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

雪丸 真吾
雪丸 真吾(ゆきまる しんご)弁護士 虎ノ門総合法律事務所
著作権法学会員。日本ユニ著作権センター著作権相談員。慶応義塾大学芸術著作権演習I講師。2021年12月、実務でぶつかる著作権の問題に関する書籍『Q&A 引用・転載の実務と著作権法』第5版(中央経済社)を、2018年8月、『コンテンツ別 ウェブサイトの著作権Q&A』(中央経済社)を出版した。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする