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「服を着た女性」を撮影したら条例違反で逮捕! 根拠となった「卑わいな言動」とは?
ビデオカメラや携帯、スマホなど今は様々な方法で動画を撮影できる

「服を着た女性」を撮影したら条例違反で逮捕! 根拠となった「卑わいな言動」とは?

東京と神奈川を結ぶ東急・田園都市線の電車内でビデオカメラを使い、女性の姿を撮影したという男性が8月下旬に逮捕され、ネットで話題となった。

報道によると、男性は手の中に隠した小型ビデオカメラを使って、隣の席に座っていた女子大生の全身を撮影。気づいた女子大生が駅員を呼んだ結果、男性は神奈川県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)の現行犯で、同県警に逮捕されたという。

この事件について日刊ゲンダイは「撮った映像は女性の顔から足までの全身で、パンティーやブラジャーは写っていなかった」という"捜査事情通"の話をネットで配信。この記事には、"「着衣の全身撮影」で逮捕 不用意に女性を撮影してはいけない"というタイトルが付けられていたため、「着衣でも逮捕されるのか」「街中で撮影して、たまたま写真に写った女性からも通報される」などと、読者が驚きの声をあげた。

たしかに、街中で気軽にスナップ写真を撮って、処罰されたらたまったものではない。条例で禁止される「卑わいな言動」とは、一体何なのだろうか。ルールはどんな風に決まっているのだろうか。刑事事件にくわしい中田雅久弁護士に聞いた。

●条例が定める「卑わいな言動」とは?

「神奈川県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)は、次のように規定されています。

(1)公共の場所にいる、または、公共の乗物に乗っている人に対して、

(2)『人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような方法』で、

(3)『卑わいな言動』をすること」

ひとつめは比較的わかりやすいが、(2)と(3)はあいまいな表現だ。具体的には、何がダメなのだろうか。

「考え方の筋道ですが、(2)は被害女性が実際に『恥ずかしい』と感じたかではなく、一般の人がそう感じるかを基準に判断することになります。こうした基準は、客観的に判断する必要があるからです」

それでは、(3)の『卑わいな言動』とは何だろうか。

「この条例では、いわゆるチカン行為や『衣服に覆われて見えない下着や身体にカメラを向けること』が処罰の対象となっています。『卑わいな言動』は、それらに準ずる行為と考えられるでしょう」

まとめると、<一般の人が恥ずかしいと感じる、チカンや盗撮のような言動>となる。そう定義すると、それなりに幅広い行為が含まれるように感じるが・・・。

「定義としては、そうなります。

このルールに違反すると『1年以下の懲役または100万円以下の罰金』というペナルティが科されます。これは、迷惑防止条例に列挙された迷惑行為の中で、一番重いペナルティです。

この点からすると、ルール違反とされるのは、被害者に与える影響が大きい方法だけに、限定されていると考えるべきでしょう」

●最高裁まで争われたケースもある

それでは、具体的にどういう行為が「ルール違反」になるのか、ほかに参考となる事例はないのだろうか。

「違う自治体での話ですが、迷惑防止条例の『卑わいな言動』について、最高裁が判断を下したケースがあります。

最高裁は、女性の後を約5分間、40メートルあまりにわたって付けねらい、背後の約1~3メートル離れた距離から、女性の臀部をカメラで約11回撮影したことが、『卑わいな言動』に当たると判断しました。

ただし、この最高裁の決定については、裁判官の反対意見も付いており、判断が分かれうる微妙な事例です」

それがボーダーライン上だと考えると、今回の事例はどう見るべきか?

「今回の場合、電車の隣席の距離から着衣の全身を撮ったということですから、より近い距離からですし、撮影時間や撮り方によっては、処罰の対象とされる可能性がないとはいえません」

このようにルールをみていくと、たとえ被写体が「服を着ている」からといって絶対セーフとは言えないようだ。ただ、公共の場所でたまたま撮ったビデオに他人が写りこんでいたぐらいで条例違反に問われることは、ないと考えてよさそうだ。

中田弁護士はうなづきつつも、「ただし、そもそも承諾を得ない撮影がマナー違反であることは、間違いありません。軽率な行動は慎むべきでしょう」と注意を促していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

中田 雅久
中田 雅久(なかた まさひさ)弁護士 多摩の森綜合法律事務所
刑事事件、離婚等の個人を依頼者とする事件を中心に幅広く担当する。第二東京弁護士会多摩支部刑事弁護委員会委員長、同両性の平等に関する委員会委員、東京三弁護士会障害者等刑事問題検討協議会委員など。

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