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裁判所がグーグルに「過去の逮捕報道」の検索結果「削除」を命令――なぜそうなった?
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裁判所がグーグルに「過去の逮捕報道」の検索結果「削除」を命令――なぜそうなった?

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検索サイト大手「グーグル」で自分の名前を検索したとき、過去の逮捕報道が表示されるのは、人格権の侵害だ――。ある男性がこのように主張して、検索結果の削除を求める仮処分を申し立てたところ、さいたま地裁は6月下旬、削除を命じる決定をおこなった。

報道によると、男性は児童買春・ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕され、罰金50万円の略式命令を受けた。しかし、逮捕から約3年が経過しても、自分の名前を検索すると、当時の報道記事の一部が表示されるため、「人格権(更生を妨げられない権利)を侵害する」として削除するよう申し立てた。

グーグル側は「表現の自由や知る権利を侵害する」と反論したが、さいたま地裁は「罪は比較的軽く、事件に歴史的・社会的な意義がない」「検索結果を公表し続ける公益性は低い」と判断して、削除を命じる決定を下したという。

今回のさいたま地裁の決定をどう見るのか。インターネット情報の削除問題に取り組む清水陽平弁護士に聞いた。

●一定期間が経過すれば「更生を妨げられない利益」がある

「ネット上では、今回の決定を評価する意見は少ないように感じます。たとえば、『犯罪行為をした者は晒しておくべき』とか『刑法上罪を償ったら、それで終わりなのか』といった主張が多く見られます。

しかし、私は今回の決定を妥当だと思います」

清水弁護士はこのように述べる。どんな理由があるのだろうか。

「犯罪報道は、ネット上で拡散していきます。その記事がネット上に残り続ける結果、一度過ちを犯すと、社会的に抹殺されてしまう問題があります。

一方、日本の刑法は、一定期間が経過した場合、刑が消滅することなどを定めています。これは、ある程度時間が経過すれば、犯罪をおこなった人であっても社会復帰を期待するという趣旨だと考えられています。

また、最高裁も『有罪判決を受けた後、あるいは服役を終えた後においては、更生を妨げられない利益がある』としています」

2014年8月には、検索大手「ヤフー」に対して、逮捕歴を非表示にするよう求める裁判が話題になったが、京都地裁は原告の請求を棄却した。今回はどうして異なる結論になったのだろうか。

「ヤフーのケースでは、そもそも逮捕後1年少々しか時間が経過していなかったため、このような利益が十分に保障されるべきか、という問題がありました。

つまり、両者は似ているようで、『時間の経過』という点で大きく異なる事例といえます」

●裁判所が示した削除基準とは?

では、裁判所はどのような削除基準を示したのだろうか。

「裁判所は今回、検索エンジンが『知る権利』に役立つ、公益的な役割を担っていることを認めています。

しかし、具体的な事件で問題になるのは、検索エンジンの役割ではなく、検索結果として今後も表示され続けることにどれだけの公益性があるのかだ、としています。

そのうえで、少し難しいかもしれませんが、『逮捕歴にかかわる事実を公表されない法的利益が優越し、更生を妨げられない利益について受忍限度を超える権利侵害があると判断される場合に、検索結果の請求が認められる』という判断基準を立てています。

その判断においては、種々の事情を考慮する必要がありますが、その後の生活状況や不利益の程度のほか、時の経過を考慮した逮捕歴などを表示する意義や必要性、歴史的・社会的意義等の事情を検討する必要があるとしています。

つまり、『○○があるから請求が認められる』という類のものではなく、あくまで個々の事情に応じた個別的判断が必要であるということです」

●『更生を妨げられない利益』を侵害する行為は慎むべき

一方で、清水弁護士がすでに指摘したように「被害者は一生傷を負うのに、犯罪者は3年でのうのうと暮らすのか」というような声も少なくないが・・・。

「被害者保護は、刑事政策によって図るべきものです。加害者の更生とは別に考えるべき問題です。

それでも許せないと考える人の中には、裁判にもとづいて削除を請求した記事などをコピー&ペーストしたり、匿名の報道から『犯人特定』をする人もいるようです。このような事例は、ネット上でしばしば見られます。

しかし、そのような行為は『更生を妨げられない利益』を直接的に侵害します。不法行為となる見込みも高いので慎むべきでしょう」

清水弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

清水 陽平
清水 陽平(しみず ようへい)弁護士 法律事務所アルシエン
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022~2023年) の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を行っている。

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