テレビドラマやドキュメンタリー番組の海外輸出やネット配信を後押しするーー。政府は6月中旬、テレビ番組や書籍などで著作権者及び実演家等の著作隣接権者が多い著作物の二次利用をしやすくするため、補償金制度の見直しや再利用手続きの簡素化などを盛り込んだ「知的財産推進計画2015」を決定した。著作権法の改正を視野に入れている。
報道によると、これまで作品をネット配信などで二次利用する場合、権利者全員の許諾を得る必要があり、権利者が見つからない場合、「相当な努力」をして、権利者が現れた場合に支払う補償金を事前に供託する必要があった。
法改正が実現すれば、信用力の高い利用者は補償金を事前に支払うことなく、権利者が判明した後に支払うだけでよくなる。利用者としては、国立国会図書館やNHKなどを想定しており、今後民放にも広げるかどうか検討するという。制度改正でどのような影響があるのだろうか。雪丸真吾弁護士に聞いた。
●既に見直されている「相当な努力」の項目
「今回、議論の対象になるのは、権利者が不明な場合における裁定制度(著作権法67条)のことですね。これまで非常に使い勝手が悪く、ほとんど利用されていませんでしたが、2009年の法改正や、2014年8月には権利者が見つからない場合に求められてきた『相当な努力』の項目が見直されたことにより、格段に使いやすい制度になっています。
見直し前の『相当な努力』とは以下のようなものでした。
ア)権利者の名前や住所等が掲載されている名簿・名鑑類の閲覧
イ)ネット検索サービスによる情報の検索
ウ)著作権等管理事業者等への照会
エ)利用しようとする著作物等と同種の著作物等の販売等を行う者への照会
オ)利用しようとする著作物等の分野に係る著作者団体等への照会
カ)下記のいずれかの方法で、公衆に対し広く権利者情報の提供を求める
・日刊新聞紙への掲載
・CRIC(公益社団法人著作権情報センター)のウェブサイトに30日間以上掲載
一方、2014年8月の見直し後の「相当な努力」は以下のようなものになりました。
(1)ア、イのうち適切なものを選択すればよい
(2)エの照会は不要とし、ウ及びオの照会をすれば足りる
(3)カのうちCRICのウェブサイトでの広告について、申請に必要な掲載期間を7日以上に短縮する」
●許諾を取りきれなかった過去の番組をネット配信
では、今回の制度改正の動きをどうとらえればいいのだろうか。
「今回の法改正は、これまでの動きをさらに進めるものです。『相当な努力』をしても権利者が見つからない作品について、その後、権利者が見つかる可能性は低いと考えられますので、補償金を事前に供託する形から、権利者が見つかった場合にのみ支払う合理的な形に変わることが予想されます。
また、現状の裁定申請書には『補償金の額の算定の基礎となるべき事項』を記載することが求められてますが、著作権使用料の相場を調査して根拠を示すのはなかなか大変です。この作業が不要になれば、大きな負担軽減になります。
改正によって、二次利用希望者の負担が減ることは間違いありませんので、二次利用が増えることが予想されます。具体的には、出演者が多数いるために許諾が取りきれず、これまでならば見送られてきた過去のテレビ番組のネット配信が、大幅に増えるのではないかと期待しています」
雪丸弁護士はこのように語っていた。