
依頼人の緊張をほぐし、不安にさせないコミュニケーションが信条〜初期相談がスムーズな解決のカギ
「縁を切った」では済まされない 祖父の死で直面した法律問題
ーー弁護士を目指した経緯を教えてください。
私が大学生のときに、母方の祖父が亡くなったとの連絡がありました。母の両親は、母が幼いころに離婚しており、以降、母と祖父はほぼ全く連絡を取っていなかったようです。死亡を知った時点では祖父の経済状況がわからず、遺産の額や借金の有無も不明でした。
当時の私は法学部に在籍しており、多少の法律知識があったので、祖父に借金がある可能性を心配しました。もし借金があれば相続するのは母です。母には「縁を切ったから大丈夫」と言われましたが、「縁を切ったという気持ちの問題ではない」と説明して相続放棄の手続きをしました。
私が心配したとおり、祖父には多額の借金があったようです。もし相続放棄をしなかったら、その借金を母が背負っていたことになります。
母の場合は未然に防ぐことができましたが、この出来事を通じて、法律トラブルは誰にでも起こり得る、非常に身近なものであるのだと実感しました。そして、世の中には法律を知らないことで困っている人がたくさんいるのではないかと気づき、「自分が弁護士になることで助けになれる人がいるはずだ」と考えるようになったのです。
顧問先からの相談をきっかけに、数々の交通事故案件を解決
ーー現在注力している分野を教えてください。
ご相談件数・受任件数、共に最も多いのは、被害者側の交通事故案件になります。離婚や相続といった身近な問題から会社法上のM&Aや契約書の作成・チェックの企業法務等、幅広い分野を取り扱っていますので、専門特化というわけではないですが、一番詳しいのは交通事故分野だと思っています。
当初は、特に注力しようと思っていたわけではありません。きっかけは、顧問先が経営する整骨院の患者さんから「加害者側の保険会社との示談交渉に難航している」とご相談を受けたことでした。当職が受任し、適正な賠償金を獲得できたことにより、その後、徐々に口コミで広まっていったようです。気づけば数多くの交通事故案件を扱うようになりました。
ーー仕事をする上で心掛けていることはありますか。
依頼人を不安にさせないことに尽きます。ご相談内容によっては、難解な法律用語や概念が多々出てくるのですが、なるべく馴染みのある一般的な言葉に置き換えて、分かりやすい説明をするよう心がけています。
また、受任後では、相手方との交渉において、わずかでも進捗があればすぐに報告するようにしています。また、大体1か月間程度を目安に、相手方との交渉に全く動きがない場合であっても、その旨を伝える連絡をしています。
これは、弁護士になりたての頃に得た教訓です。当時は、交渉に動きがなければ依頼人に報告することはなく、それゆえわざわざ連絡する必要もないと考えていました。
しかし、依頼人から「交渉に動きがないなら、動きがないということを教えてほしい。状況がわからないと不安です」とお叱りを受け、確かにそのとおりだと思い、新たな動きがないときにもなるべく連絡するよう心がけています。
ーー依頼人とのコミュニケーションにおいて、気を付けていることはありますか。
たとえば、風邪をひいたときやケガをしたときは、「まず病院に行こう」と考える人が多いですよね。 でも、法律問題で困ったときに「まず弁護士に相談しよう」と考える人は、あまりいないのではないでしょうか。残念ながら、弁護士はまだ病院ほど身近な存在にはなれていないと感じます。
そういった中で勇気を出して弁護士を訪ねてくれる方の多くは、とても緊張しています。リラックスしてもらうために「緊張しなくていいですよ。うちは日本一敷居の低い法律事務所ですからね」と明るく話しかけることを心がけています。
また、服装にも気をつけています。弁護士がお堅いスーツ姿だと緊張する方もいらっしゃるので、ラフなジャケットを着たり、何回も会って気心の知れた方であれば、ジーンズ姿で打ち合わせをしたりすることもあります。とにかく、依頼人がリラックスできる雰囲気づくりを大切にしています。
依頼人だけでなく、相手方からも「あなたでよかった」
ーー特に印象に残っている事件を教えてください。
大変だったという意味では、数年前、札幌で起きた大きな事故が印象に残っています。私が顧問弁護士を務める会社が経営する一店舗がその事故に巻き込まれ、全焼してしまいました。
通常、事故の加害者側に損賠賠償を請求するには、被害者側が損害について立証したり、賠償額を計算したりしなくてはならないのですが、この事件は店が全焼している、つまり、事故の証拠となるものがすべて燃えてしまっていました。そのため損害の証明が難しく、相手方との示談交渉がスムーズに進みませんでした。
しかし、交渉が決裂して裁判になれば、より具体的な証拠の提出を裁判所から求められます。そうなると損害賠償を請求する側は一層不利になるため、なんとか示談で折り合いをつけようと、毎日のように依頼人と打ち合わせをし、相手方との交渉を進めました。
最終的には示談がまとまり、依頼人も結果に満足してくれました。とても苦労しましたが、努力が報われた事件として印象に残っています。
ーー仕事のやりがいを感じるのはどのようなときでしょうか。
依頼人に満足してもらえる結果を出せたときです。結果を出すために仕事をしているのであって、お礼を言われるために仕事をしているわけではないですが、事件が終わって「ありがとうございました」と言われると、この案件に取り組んでよかったと心から思います。
また、私の依頼人だけではなく、相手方からも「あなたでよかった」と言われたことが何度かあり、嬉しかったですね。かつての相手方から「顧問をお願いしたい」と依頼されて、現在顧問を務めている会社もあります。
「初期相談」が何よりも重要
ーー今後の展望について教えてください。
現在注力している交通事故案件は、さらに専門性を高めることが目標です。先に述べましたように、交通事故のほかにも様々な分野の案件のご依頼を受けています。今後も引き続き、自分に任せられた1つ1つの仕事を丁寧に進めていきたいです。
ーー最後に、法律トラブルを抱えている方に向けてメッセージをお願いします。
最も大事なことは、初期治療ならぬ「初期相談」です。ケガや病気が軽いうちに病院に行けば早く治るのと同じように、法律トラブルも、事態が進行する前に弁護士に相談することで早期に解決できる可能性が高まります。
相談が遅れて事態が複雑化すると、解決までに時間がかかってしまうかもしれません。そうなったときに一番苦しむのはあなた自身です。困ったことがあればすぐに、弁護士を頼ってもらえればと思います。