
「苦難をプラスに変えるお手伝いをする」依頼人の再生に向けて尽力する“心の弁護士”
父の姿を見て、弁護士を志す
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
中学生のときに、「不条理なことから家族を守りたい」と思ったことがきっかけです。
父が会社を経営しているのですが、労働問題や支払いに関するトラブルなどに直面したとき、法律の知識がないために苦労していたんです。そんな父の姿を見たことで、子どもながらに、「弁護士になって、法律を使って人を助けたい」と考えるようになりました。
大学は、山口大学の経済学部経済法学科に入学しました。法律学とともに経済学も学んだことで、物事を多面的に見られるようになったと思います。その後は広島大学の法科大学院に進学しました。
ーー注力分野とその分野に注力している理由を教えてください。
父が苦労する姿を見たことが弁護士としての出発点なので、特に中小企業支援業務に取り組んでいます。その中でも最近は事業再生や会社の破産、法人清算に興味があります。
他に関心がある分野としては、児童虐待問題です。
弁護士になった後、元検察官の方の講演を聞く機会がありました。その講演の中で、母親から虐待を受けていた6歳くらいの女の子の話が出たんです。母親は逮捕され、その子は児童相談所に保護されたのですが、「お母さんに会いたい」と母親の元に帰りたがっていたそうです。虐待をしてしまった親でも子どもにとっては大切な親なんですよね。この話が印象に残り、虐待の問題に取り組みたいと考えるようになりました。
ーー児童虐待について、具体的にどのような取り組みをしていますか?
現状としては児童相談所内で個別の問題解決に取り組んでいます。抜本的な解決をはかる方法として、学校教育の中でのフォローが有効ではないかと考えています。日本には義務教育の制度があるので、そこで子育てについての教育、つまり人の親になるとはどういうことか、親のあり方とは、といった教育をしてもいいのではないかと思います。
ーー先生は広島弁護士会子供の権利委員会の委員ですが、この委員会はどういった活動をしているのですか。
児童福祉に関心がある弁護士が集まって、子どもの人権を守るために活動をしています。例えば、児童虐待の事件で弁護士が必要になったときには、委員会から弁護士を推薦したり、学校での事故やトラブルの解決を支援したりしています。また、いじめ防止の活動として、小・中・高校でいじめがなぜいけないのか講演をするなど、子どもの人権侵害を減らすための活動をしています。
「弁護士は心を扱う仕事」
ーー弁護士として活動してきた中で印象的だったエピソードを教えてください。
ある少年事件を担当したときのことです。手続き自体は淡々と進んだのですが、その過程で、少年自身や、ご両親の少年への接し方が変わっていく様子を目の当たりにしました。事件を通して人が変わっていく、成長していくところを見られて、印象に残っています。
事件が終わった後も続く依頼者の人生にとって、事件がかえってプラスだったと言えるような解決ができれば、一番いいと思っています。
ーー仕事をするときに心がけていることは何でしょうか?
私は、弁護士は究極的には心を扱う仕事だと考えます。依頼者が抱える問題を法律というツールを使って解決することが弁護士の仕事ではありますが、機械的な対応はしたくないと思っています。常に依頼者の心情に配慮し、依頼者が言葉にできない思いをできるだけ汲むことを心がけています。
ーー先生の弁護士としての強みはどこだと自己分析されていますか。
私自身、とても失敗が多い人間なのですが、だからこそ失敗する人の気持ちに寄り添えると思っています。失敗から立ち直ろうとする依頼者に共感し、応援できることは、強みといえるかもしれません。
EAPの普及やパワハラ防止セミナーにも力を入れたい
ーー休日の過ごし方と趣味を教えてください。
趣味は読書です。重松清先生の作品が好きで、よく読んでいました。最近は海外ミステリーが多いです。弁護士もののジョン・グリシャムやジェフリー・ディーヴァー、マイケル・コナリーの『リンカーン弁護士』シリーズも読みます。あとは、雑誌の『致知』や、稲盛和夫さんの本は生き方の参考にしています。
ーー今後の展望について教えてください。
弁護士はとにかく敷居が高いという認識が世の中にあります。
最近は弁護士がテレビに出たり、YouTubeで配信したりして、以前よりは身近な存在になりましたが、それでも多くの方にとって、弁護士は相談しづらい存在なのだと思います。
その中で今、EAP(Employee Assistance Program)というサービスの提供に取り組んでいます。これは、弁護士が法人と契約をして、従業員に無料で法律相談を提供するサービスです。会社には相談件数は報告しますが、誰がどんな相談をしたかは口外しません。2021年に山口県の牛見和博弁護士がEAPの一般社団法人を立ち上げて、私もそこに加入しています。
会社で契約している弁護士であれば安心感があるので、「とりあえず相談してみようかな」と思ってもらいやすいと思い、普及に向けて力を入れています。
また、2022年4月からはいわゆるパワハラ防止法による措置が中小事業主にも義務付けられるため、中小事業主をサポートすべく中小企業向けのパワハラ防止セミナーを広く行っていきたいです。対立が生じる前から、もしくは対立が生じてもうまく解決できるように働きかけられれば、と思っています。
ーー最後に、法律トラブルを抱えて悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
1人で悩まないでください。もっと気軽に弁護士に連絡をして、肩の荷を少しでも降ろすことが一番大事です。
一度失敗したり、トラブルを抱えたりしても、何度だってやり直せます。目の前の困難をネガティブなものと捉えず、何かを学べるはずだ、人生の中で必ず大きな意味があることなんだと捉えていただけるようにお手伝いをしていきたいです。