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大音量の「街宣車」は法令に違反しないのか? 「表現の自由」との微妙な関係
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大音量の「街宣車」は法令に違反しないのか? 「表現の自由」との微妙な関係

福岡県内で街宣活動をしているときに男子中学生(14)を怒鳴りつけたとして、右翼団体代表の男性(39)が県迷惑行為防止条例(粗暴行為)の疑いで逮捕されるという事件が、6月に起きた。

報道によれば、男性は福岡市内で街宣中、中学生に近づき、「おい、こら」「お前ら、こんな今の教育でいいんと思うんか」などと大声で怒鳴りつけ、著しい不安感を与えた疑いがもたれている。男性は容疑を大筋で認めており、「(中学生が)耳を押さえたため、伝えたいことがあった」と供述しているようだ。

しかし、このニュースをきいて、「そもそも大音量で、下品な物言いによって過激な政治主張をする『街宣行為』そのものが、法令に違反しないのか」と、疑問をいだく人もいるだろう。街宣活動はどんな場合に認められ、そして規制されるのだろうか。山之内桂弁護士に聞いた。

●街宣に関係する法律は?

「街宣活動に対応した規制をする法律・条例には、騒音規制法・迷惑防止条例のほか、生活安全条例・環境保全条例・屋外広告物条例などがあります。しかし、どの法律や条例も、街宣活動の内容自体は規制しません。

なぜなら、公衆の往来する場所で、自らの主張を訴えることは、日本国憲法21条が保障する基本的人権『集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由』の表れだからです。

大日本帝国憲法の時代も、表現の自由は保障されていました(同29条)。しかし、『法律の範囲内』とされていたため、治安警察法、出版物条例等の法律によって、実際には厳しく規制されていました。日本国憲法下では、帝国憲法下の言論統制に対する反省から、表現の自由に対する制約は必要最小限度でなければならないと解されています」

山之内弁護士はこのように指摘する。

「『大音量』かどうかは、騒音計で測定した数値で評価できます。実際にも生活安全条例・環境保全条例等で、一定音量を超えた騒音を出すことは、街宣活動も含めて規制対象になっています。

しかし『過激』『下品』かどうかは、客観的に測定不能であり、判断者の主観が入らざるを得ません。治安警察法では、臨場した警察官の判断で不適切表現を禁止することができましたが、現代日本で、個々の警察官にそんな権限を与える議論はあり得ません」

●「拡声器を備え付けた車両」に対する規制とは?

では、どのような場合、取り締まりの対象となるのだろうか。

「結局、評価を伴う『街宣活動の内容』そのものを規制することは難しいため、騒音や交通妨害の程度などに応じた外形的な対処をしているわけです。

現行法下での街頭宣伝は、道路を管轄する警察署長の許可を取れば、誰でもできます。

宣伝を車両備え付けのスピーカーで流しながら自動車で走ることは、許可が必要とされている例が多いようです。法律の根拠は、道路交通法77条1項4号になり、細かい条件はこれに基づく都道府県の『規則』に定められています。

たとえば東京都では、『東京都道路交通規則』18条5号によって拡声器を備え付けた車両で放送する場合、管轄する警察署長の許可が必要になります。

無許可の道路使用は、3ヶ月以下の懲役もしくは5万円の罰金が科される可能性があります(道交法119条1項12の4号)。しかし、先の『規則』に該当するもののうち、まったく交通を阻害しない態様でおこなわれるものに違法性があるのかどうかは、表現の自由の観点から議論の余地があります。

許可なく公道上で街宣活動を行った際、禁止場所での駐停車(同法44条)や、2台以上連なっての走行による通行阻害(同法68条)などの道交法違反行為があれば、それらは当然ながら、処罰対象になります(同法119条の2、同条の3、同法117条の3ほか)」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山之内 桂
山之内 桂(やまのうち かつら)弁護士 梅新東法律事務所
1969年生まれ。宮崎県出身。早稲田大学法学部卒。司法修習50期、JELF(日本環境法律家連盟)正会員。大阪医療問題研究会会員。医療事故情報センター正会員。

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