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2010年6月25日伊藤 真弁護士インタビューアップ

特別インタビューvol.6 福田 博弁護士 西村あさひ法律事務所

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高裁判決で最高裁判事の意識が変化

──最高裁判所のなかでは、どのようにして判決を書かれているのでしょうか。

福田判事はお互いの意見を尊重し、相手を縛ろうということを一切しません。そして、判事全員が集まった審議の場で自分の意見を表明し、多数意見に組みしないとなった段階から、判決理由を書くことに参加しなくなります。横で黙って聞いているだけで、別に少数意見を書きます。

また、全ての判事に共通していえるのは、先例はできるだけ重んじなければならないという信念を持っていることです。そうでないと、法の安定的な運用ができなくなるからです。しかし、投票価値の平等に関しては、最初の頃基本の部分を間違え、「国会の裁量の問題」という理屈を付けて投票価値の平等が失われていくのを長年に亘って放置し続けました。それが今日の状態を招いてしまっているのです。私は、このことは、我が国の民主主義制度の脆弱性を見事に表していると思っています。

──一人一票実現国民会議の活動については、どのように評価されていらっしゃいますか。

福田多大のエネルギーと私財を投じてこの運動をしている人たちに深い敬意を抱いています。大きくいって、2つの功績があると思います。1つ目は、投票価値の不平等という問題の存在を大規模な広報活動などを通じて国民の間に広く知らしめたことです。そして2つ目が、これまでのように東京だけではなくて、全国の高等裁判所に提訴したことです。全国の高等裁判所には良心的な判事が数多くいて、投票価値の平等の問題についても真正面から考えている。それで東京高裁などで合憲判決もあったものの、各地の高等裁判所で違憲状態判決が相次ぎ、なかには違憲と言い切った判決も出てきたのだと考えています。

実は、このことの持つ意味はとても大きいのです。先に最高裁判所の判事は共通して先例を重んじるといいましたが、下級審の高裁でこのように異なった判決が多く出てくると、それらを読んで「自分たちも納得のいく判決を書かなくてはならない」という意識が最高裁判所の中に芽生えてくる筈だからです。今後の話ですが、もし区割りなどの是正がされないまま衆議院解散、総選挙となれば、その投票価値の平等を問い直す裁判で最高裁判所が「選挙無効」の判決が下されることは十分に考えられると思います。

──投票価値の平等を認めない最高裁判所の判事に国民審査で不信任を投じようという活動にも一人一票実現会議は取り組んでいます。

福田国民審査の結果に対する、それぞれの判事の方々の思いは私にはわかりません。ただし、私自身はどの県で不信任が多く、何が理由で不信任が投じられたのかを知りたくて、各県の選挙管理委員会が取りまとめた数字を取り寄せて比較したことがあります。最高裁判所の長官は内閣の指名に基づいて天皇が任命し、14人の判事は内閣が任命して天皇が認証します。つまり、行政によって選ばれているわけです。国会は関与しません。国会が関与した「同意人事制度」がうまく機能していないことは近年の実例を見ても明らかです。その一方で、三権の一つとして重要な役割を果たすべき司法がきちんと機能するためにも、最高裁判事の国民審査制度は有用であり、充実していくことが望ましいと思います。

これまでの投票価値の平等に対する最高裁判所の判決を見ていると、違憲立法審査権を自ら放棄してしまったのと同然で、三権分立の利点がうまく生かされていません。もう、亡くなられた矢口洪一最高裁長官が、退官後、最高裁判所が違憲審査権を与えられていることについて質問された際、「2流官庁がいきなりそんな権限をもらってもできやしないです」と述べられたという記録も残っています。

選挙によって議員を選ぶ代表民主制は、「投票価値の平等」という中立的な座標軸を基礎に、多数決という選別方法により、一方で有能ではない政治家を淘汰し、他方で有権者が頼りに出来る能力のある政治家を選び出し育てていくシステムです。座標軸が歪んでしまうと、この淘汰ないし育成の仕組みがうまく機能しません。しかし現実には、座標軸は長年に亘り歪み続けました。その結果、世襲議員数の増大、評論家的言動に終始し結果責任を執ろうとしない議員の出現など、日本の代表民主制は著しく非効率になり、世界における地位も見る影もないほど低下しました。国民の多くが閉塞感や絶望感に襲われているのもこれが大きな一因のように思えてならないのです。「2流の民主主義国」、「2流官庁」と自嘲しているだけでは、済まされません。

かつて英国の首相であったチャーチルが「民主主義は最悪の政治体制ということができる。ただし、これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治体制よりはまだましである」といったように、民主主義は世界の長い歴史のなかで色々試され、いま現在まで発展してきたもので、世界中の国々の6割はこの体制にあるといわれています。有権者の投ずる投票価値の平等の下、多数決で選ばれた代表者たちによる国政であるならば、中長期的にみて国を正しい方向へ導いていくという信念がこの制度の根底にあるのではないでしょうか。投票価値の平等を実現することは、現状を打破していくためにも急務の課題なのです。

文/伊藤博之  写真/南雲一男

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