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「左のトビラの中に入れました!」Amazon商品「雑な配送」の責任問題
メーターボックスに入れられていたダンボールと不在連絡票

「左のトビラの中に入れました!」Amazon商品「雑な配送」の責任問題

Amazonのヘビーユーザーだという東京都内の会社員・マサオさん(仮名)。先日、「あまりに雑な配送」に遭遇して思わず苦笑してしまったそうです。

マサオさんによると、自宅に帰ると玄関の郵便受けに、「左のトビラの中に入れました」と書かれた不在票が入っていました。「そんな扉はないんだけど…」と周辺を探したところ、なんと、段ボールが玄関横のメーターボックス内に入れられていたのです。

品物は食品ではなかったため衛生的に問題はありませんでしたが、「荷物をしっかり配達するのが仕事なのに…こちらはサインもしていないんですよ」と憤っています。

受け取りサインもなしで荷物を置いていった配送会社の対応は、法的に問題ないのでしょうか。これで配送が完了したと言えるのでしょうか。尾崎博彦弁護士に聞きました。

●「配送は完了」と評価すべき

「非常に微妙な問題ですね。まず、配送業者は、委託を受けた荷物を届け先へ確実に配送すべき義務を負っていると考えられます。問題は受け取りサインなしで荷物を置いていったこの配送業者がこの義務を果たしたと言えるかどうかです」

尾崎弁護士はそう指摘します。

「民法上の概念として『弁済の提供』というものがあります。これは契約上の義務がある債務者が、ここまでやれば義務を果たしたと認められ、以後の義務を免れるというものです。ここでいうと債務者=配送業者ということになります。

荷物を配送先に届けるという契約上の義務の場合、『現実に提供』することが必要とされています。これは、債務者がその債務の履行をするにあたって、債権者の協力がなくても単独でできることは全て行うことを意味します。荷物の配達という義務の内容としては、配送先の住所まで持参することが最低限必要と言えます」

マサオさんのケースでは、受取人の家に荷物は配送されているものの、荷物はメーターボックスの中に入れられ、その旨を書いたメモが残されていました。これは、荷物の配達という義務を果たしたと言えるのでしょうか。

「この点の判断は結局社会通念や取引慣習などからすることになるのでしょう。この場合、受取人が確実に認識して受けとることが必要な食品などの商品を除いて、受取先の客観的な支配領域に入ったとして『配送は完了した』すなわち義務は果たされたと評価すべきでしょう」

●問題なく手元に届いていれば、法的なクレームは難しい

もし、メモなどが残されておらず、受取人が配送されていることに気づかなかった場合はどうでしょうか。

「『配送は完了した』としても、メーターボックスに入れてあるのを受取人が気付かない間に商品が紛失してしまった場合などの責任を配送業者が負わなくて良いかは別問題です。

商法では運送品が滅失や毀損、あるいは延着した場合について、運送業者が注意を怠らなかったことを証明しなければ、損害賠償等の責任を免れることはできません(商法577条)。この責任は契約条項で軽減することも可能です。

例えば、Amazonの場合、

『Amazon.co.jp で購入されたすべての商品(デジタルダウンロード商品以外)は、お客様が選択した支払い方法および配送オプションにかかわらず、商品を配送業者に引き渡した時点で、その商品に関する所有権はお客様に移ります。ただし、指定配送先に到着する前に、配送業者の故意または過失により商品が紛失した場合には、当サイトが、当該紛失について責任を負います』

とされています。少なくとも『到着前は』運送業者の責任を特に軽減している様子はありません。

このことからすれば、メーターボックスに入れただけで受取人の受領印もない状態では、商品の到着及び免責を主張することは困難であろうと思われます。要するに、商品を受取人宅のメーターボックスへ入れておいたことは、『一応配送は完了した。しかし受取人がこれを認識するまでは、配送業者が紛失の責任を免れない』と考えるべきではないでしょうか。

したがって、マサオさんのように商品を問題なく手元に受け取れた場合は、配送完了したと言わざるをえないため、法的にクレームは難しいでしょう。ただ、それが認識されることなく紛失してしまった場合や、商品に傷が生じていた場合などは、配送業者の責任は免れない、と考えます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

尾崎 博彦
尾崎 博彦(おざき ひろひこ)弁護士 尾崎法律事務所
大阪弁護士会消費者保護委員会 委員、同高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 委員、同民法改正問題特別委員会 委員

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