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「まさに殺人だ」残業上限規制「100時間」、過労死遺族が「反対」アピール
「東九州過労死を考える家族の会」の桐木弘子さん

「まさに殺人だ」残業上限規制「100時間」、過労死遺族が「反対」アピール

政府が導入しようとしている時間外労働の上限規制をめぐり、繁忙期1カ月の上限を「100時間」とする方向で調整が進んでいることについて、過労死で家族をなくした遺族や、労働問題に取り組む弁護士の団体が3月15日、東京・永田町の参議院議員会館で集会を開いて、反対の姿勢を強くアピールした。

日本労働弁護団の幹事長をつとめる棗一郎弁護士は「労働時間の上限を労働基準法に明記して、それをやぶる企業に罰則を課すという改正には賛成だ。しかし、(繁忙期に)月100時間未満という例外は、労災の認定基準(80時間)に相当するものだ。上限基準としてふさわしいものなのか」と訴えた。

●1カ月100時間は「過労死ライン」を超えている

時間外労働の上限規制をめぐっては、日本経団連と連合が3月13日、業務の繁忙期などやむを得ない場合、「年間720時間」の上限を設けて、2〜6カ月の平均80時間、1カ月100時間を基準として時間外労働できるとする合意に達した。

しかし、「過労死ライン」とされている80時間を超えていることから、批判も根強い。過労自殺した電通社員の高橋まつりさんの母、高橋幸美さんは3月13日、「人間のいのちと健康にかかわるルールに、このような特例が認められていいはずがありません。繁忙期であれば、命を落としてもよいのでしょうか」とのコメントを出していた。

●「100時間の時間外労働がどれだけ過酷なものか認識しているのか」

この日の集会では、過労死や過労自死で家族をなくした遺族も登壇して、政府が調整している「1カ月100時間」という上限規制について、反対する意見を次々とあげた。以下では、「東九州過労死を考える家族の会」の桐木弘子さんが集会で語った内容を紹介する。

「私は9年前、過労自死で、23歳の息子をなくしました。大手自動車会社の整備士だった息子は、転勤後わずか4カ月半後に、『工場長、使えない人間で、すみませんでした』という遺書を残して、自ら命を絶ちました。繁忙期の一番忙しい時期に転勤させられ、息子は即戦力として働かされて、重大なミスをおかしてしまいました。周りの支援もなく、自信をなくして、精神疾患を発症したあげくの自死でした。

自分の命にかえても守りたいと思って必死に育てた我が子が、仕事が原因で自死するときの衝撃は想像を絶するものでした。最愛の我が子を救えなかった自責の念と絶望、喪失感など、とても言葉で言い表せない苦痛でした。

子どもに先立たれた母親の悲嘆が一番大きいと言われていますが、もっと苦しくつらかったのは息子本人です。死を決心したとき、どれだけ苦しんだのか。死を決行したときどれだけ痛かったのか。仕事から逃れる方法がそれしか思い浮かばなかった息子がかわいそうで、今でも胸が詰まります。

我が子の幸せを願わない親は一人もいません。我が子の痛みは、自分がかばってやりたいと思うのが親心です。せめて、死後の世界では、楽しく過ごしていてほしいと願うばかりです。

国会では、時間外労働の上限を繁忙期に100時間まで認めるという恐ろしい法律が制定されようとしています。たとえ100時間未満ととりつくっても99時間と100時間の間にどれだけの違いがあるのでしょうか。この法案を通そうとしている人たちは、100時間の時間外労働がどれだけ過酷なものか認識しているのでしょうか。

過労自死は、仕事が原因でうつ病に罹患することによって死に至ります。過労死ラインを合法化し、死ぬかもしれないとわかっている労働時間を働かせたあげく、死なせることがあれば、まさに殺人であると私は考えます。

殺人によって大切な家族が失われたら、家族は経営者や使用責任者を憎み、決して許しません。とことん戦いぬくでしょう。過労死、過労自死はなくすことができるのです。死ぬほど、働かせなければいいのです。どうか、労働者が人間らしく幸せに暮らせるような労基法にして、私たち親子のような悲惨な目にあう家族をなくしてください」

(弁護士ドットコムニュース)

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