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新型コロナ、仕事でクラスターに巻き込まれたら労災はどうなる? 休業補償問題まとめ
写真はイメージです(Graphs / PIXTA)

新型コロナ、仕事でクラスターに巻き込まれたら労災はどうなる? 休業補償問題まとめ

新型コロナウイルスの感染が拡大し、国内でも連日、新たな感染者の発生が報じられています。

感染を防ぐための対策として、個人ではマスクの着用、アルコールによる滅菌、企業では通勤ラッシュを回避するため時差通勤の奨励、在宅勤務などが行われています。

しかし、新型コロナウイルス感染を発症する人が市中に100人いれば、無症状のキャリアも同数いるとも言われており、人との接触が皆無でない限り、感染のリスクは誰にでもあると言えるでしょう。

発熱が数日、続いていながら、PCR検査を受けられず、陽性か不明な場合、感染の可能性を疑い、自宅待機による休業を命じる措置も考えられます。

また、複数の感染者が発生したスポーツジム、ビュッフェスタイルの食堂等の施設を利用していた場合、発熱等の症状がなくても、同様の措置を講じるケースはあるでしょう。

このように感染の可能性があるものの、感染が確定していない状態のときに会社の指示によって休業した場合、その間の賃金はどうなるのでしょうか。

実際に開業社会保険労務士である私には、複数の会社や労働者の方から相談がありました。ここでは、自主的な休業や、感染が明らかで休業した場合も含めて解説していきます。(社会保険労務士・坪義生)

●会社指示による自宅待機ならば、会社に賃金補償義務

まず、上記のように感染が不明な状態で会社から休業の指示をした場合、結論から言えば、会社が休業期間中の賃金補償をする必要があります。

労働基準法では、天災事変のような不可抗力の場合を除き、「使用者の責に帰すべき事由」によって休業させた場合は、使用者はその期間中、その労働者に平均賃金の6割以上の手当(休業手当)を支払わなければならないとしています(第26条)。

ここで言う平均賃金とは、「直近3カ月間にその労働者に対し支払われた賃金総額÷その期間の総日数」を意味します。

感染の疑いがあるだけで、職務の継続が可能な社員に会社の判断で休業を指示することは、「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考えられます。

もっとも、補償義務があるのは平均賃金の6割にとどまります。

●自主的休業では年次有給休暇のほか、健康保険から支払われることも

社員のほうから自主的に休業し、年次有給休暇を取得すれば、支払われる金額は満額となります。

具体的な金額は、①平均賃金、②通常の勤務をした場合に支払う通常の賃金、③健康保険の標準報酬日額のうち、就業規則で定めた方法となっています。

残念ながら、年次有給休暇をすべて消化してしまい、残っていない場合には、この選択肢はありません。

また、かりに年次有給休暇が残っていても、今回の新型コロナウイルス感染対策で採られている2週間の自宅待機という期間に充てるには、現実的には無理があります。

なお、微熱でも発熱が続き、医療機関で受診した結果、PCR検査は受けられずとも療養の必要があると判断されれば、健康保険法の傷病手当金(休業1日につき直近12カ月間の標準報酬月額平均額÷30×2/3相当額)が支給されます。

●感染が確定した場合、業務災害か、通勤災害か、健康保険か

では、PCR検査の結果、陽性反応があり、新型コロナウイルスの感染が確定した場合は、どうでしょうか。

いくつかのケースが考えられます。

本人が今回、報道されているように屋形船、スポーツジム、ビュッフェスタイルの食堂、ライブハウス等、感染経路が追えている小規模な患者の集団(クラスター)に含まれている場合を想定します。

この場合、さらに2つのケースが考えられます。

1つは、本人が仕事の関係でクラスターに含まれた場合です。スポーツジムに勤務するインストラクターが感染したような場合、休業期間中の賃金補償については、業務上の傷病として、労災保険法から休業補償給付と休業特別支給金が支給されることになります。

支給額は、いずれも休業1日につき「直近3カ月間の賃金総額÷その間の総日数」を給付基礎日額とし、休業補償給付はその6割、休業特別支給金は2割、合わせて休業1日につき給付基礎日額の8割です。

最初の3日間は、待期期間として支給されませんが、この分は労働基準法で定める休業補償として、前述の平均賃金の6割以上を会社が支払う必要があります。

もう1つは、本人が通勤途中でクラスターに含まれてしまった場合です。満員電車で複数の感染者が感染経路として明確になった場合、通勤災害として労災保険法の休業給付と休業特別支給金が支給されます。

こちらの場合は、業務災害と異なり、最初の3日間については、会社に補償義務はありません。

ただし、これら2つのケースについては、いずれも労災認定されることが必要であり、新型コロナウイルスの感染経路が追えていることが大前提となるでしょう。

感染が確定したものの、その経路が追えない場合は、前述の健康保険法の傷病手当金が支給されます。

●在宅勤務制度がなければ、自宅待機で賃金補償の検討も不可欠

以上、感染の疑いで休業を命じられた場合の賃金補償を中心に解説してきました。

今回、私が相談を受けた労働者の方の場合、発症者と感染経路でつながり、微熱等の症状はないものの、自分にもキャリアの可能性を疑っていると言います。

会社に申告したところ、特に休業の指示はなかったとのこと。

感染経路がつながっているとは言え、直接、濃厚接触したわけでなく、今のところ、複数の感染者が発生しているクラスター状態になっていないから、というのが会社の判断なのでしょう。

在宅勤務制度が導入されていないということもあり、通常通り、出勤しています。

しかしながら、連日、報じられる感染経路を追えない新たな感染者の発生を見る限り、本人の言うようにキャリアになっている可能性も否めません。

リスク管理を考えると、会社として在宅勤務制度を導入し、こうしたケースに対応する必要があると考えます。

社員がクラスターに含まれ、感染患者と濃厚接触しているような場合、在宅勤務制度が導入されていない会社であれば、自宅待機の措置を取り、休業手当で賃金補償することを検討するべきでしょう。

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