【人事労務担当者向け】セクハラやパワハラをした従業員を解雇するための条件とプロセス

セクハラやパワハラをしたことを理由に従業員を解雇したい場合、会社はどのようなプロセスを踏む必要があるのでしょうか。

  • ハラスメントをした従業員の解雇に必要な条件
  • 解雇するときの注意点
  • 解雇以外の解決策

この記事では、上記のポイントについて詳しく解説します。

目次

  1. セクハラやパワハラをした従業員を解雇する方法
  2. 解雇の条件
  3. 就業規則などで解雇の事由を明示している
    1. 普通解雇の場合
    2. 懲戒解雇の場合
    3. 解雇事由にあたる事実がある
  4. 解雇権・懲戒権の濫用にあたらない
    1. 普通解雇の場合
    2. 懲戒解雇の場合
  5. 解雇が禁止されている期間ではない
  6. 解雇をする30日前までに解雇の予告をする、または解雇予告手当を支払う
  7. 自主的な退職という選択肢を示す
  8. 弁護士への相談を検討する

セクハラやパワハラをした従業員を解雇する方法

セクハラやパワハラをしたことを理由に従業員を解雇する場合、「普通解雇」「懲戒解雇」の2つの方法があります。 普通解雇とは、能力不足や成績不良といった従業員自身の問題を理由に、会社が雇用契約を解約することです。 懲戒解雇とは、従業員が犯罪行為や悪質な規律違反をしたことなどを理由に、解雇することです。 懲戒解雇は、従業員自身の問題を理由に解雇する点は普通解雇と同じですが、従業員の悪質な行為によって会社の秩序を乱したことに対する制裁としておこなわれる点が異なります。 懲戒解雇は、従業員にとって非常に厳しい処分です。 場合によっては、解雇予告や解雇予告手当の支払いがなく、即時解雇が言い渡されたり、退職金の全額または一部が支払われなかったりすることもあります。 そのため、従業員を懲戒解雇した場合、普通解雇に比べて従業員に懲戒解雇の無効を主張されるなどのトラブルに発展しやすい可能性があります。 懲戒解雇に踏み切るかどうかは、慎重に検討することをおすすめします。

解雇の条件

普通解雇と懲戒解雇のどちらをおこなうとしても、従業員を解雇するには、法律で定められた、次のような条件を満たす必要があります。

  • 就業規則などで普通解雇・懲戒解雇の事由を明示している
  • 解雇権や懲戒権の濫用にあたらない
  • 解雇が禁止されている期間にあたらない
  • 解雇をする30日前までに解雇の予告をする、または解雇予告手当を支払う

条件を満たしていない解雇は無効です。 解雇が無効の場合、解雇はそもそもなかったことになり、会社と従業員の雇用契約はずっと続いていたことになります。会社は従業員に対して、「解雇されずに働いていれば、本来支払われるはずだった賃金」を支払う必要があります。 このような事態にならないために、どのようなプロセスを踏めば従業員を有効に解雇できるのか、具体的に紹介します。

就業規則などで解雇の事由を明示している

従業員を解雇するには、従業員がどのような場合に解雇されるかが、就業規則などに明示されていることが必要です。

普通解雇の場合

会社が常時10人以上の従業員を雇う場合、就業規則には、「退職に関する事項」として、「従業員がどのような場合に普通解雇されるか」(普通解雇の事由)を載せておく必要があります。 就業規則は、従業員がいつでもその内容を見られるようになっていることが必要です。 さらに、従業員と雇用契約を結ぶときには、普通解雇の事由を含めた労働条件について説明した書類を相手に渡すことも必要です。

労働条件について説明した書類を手渡す義務は、平成16年1月1日以降に結ばれた雇用契約に適用されます。それ以前に結ばれた雇用契約については、こうした書類が交付されていない場合があります。 就業規則や、雇用契約を結ぶときに渡した書類に、ハラスメントをしたことが普通解雇の事由として記載されているか確認しましょう。 * 「勤務態度が不良で従業員として不適格な場合は解雇する」 といった記載です。 すでにある就業規則に、ハラスメントが普通解雇の事由として記載されていない場合は、記載したうえで、改めて労働基準監督署へ届け出なければなりません。

常時雇用する従業員が10人未満の会社には、就業規則の作成義務はありません。従業員の解雇を検討したい場合には、就業規則を作成して、周知することから始めましょう。

懲戒解雇の場合

従業員を懲戒解雇するためには、普通解雇の事由とは別に、懲戒解雇になる事由が就業規則で定められている必要があります。 懲戒解雇事由の内容が合理的であることと、就業規則を従業員がいつでも見られるようになっていることも必要です。 従業員と雇用契約を結ぶときには、懲戒解雇の事由について、口頭で説明するか、懲戒解雇の事由を含めた労働条件について説明した書類を相手に手渡す必要があります。 就業規則や、雇用契約を結ぶときに渡した書類に、ハラスメントをしたことが懲戒解雇の事由として記載されているか確認しましょう。 たとえば、以下のような記載です。

  • 「素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したときは懲戒解雇とする」
  • 「セクシュアルハラスメントの禁止の規定に違反し、その情状が悪質と認められるときは、懲戒解雇とする」

解雇事由にあたる事実がある

解雇にあたる事由を定めた就業規則や、雇用契約を結ぶときに渡した書類に書かれた解雇事由にあてはまる事実がないのに、従業員を解雇することはできません。 そこで、ハラスメントが実際におこなわれたことを証明する証拠を保管しておきましょう。たとえば、被害者からの相談内容の記録や、加害者である従業員に対する聞き取り調査の記録などです。 証拠が不十分だと、従業員から「ハラスメントなどしていないから解雇は無効だ」と解雇の効力を争われた場合に、ハラスメントを証明して解雇が有効だと裁判所などに認めてもらうことが難しくなります。

解雇権・懲戒権の濫用にあたらない

解雇が解雇権や懲戒権の濫用にあたる場合は、その解雇は無効です。

普通解雇の場合

普通解雇の場合、解雇が有効といえるためには、解雇権の濫用にあたらないことが必要です。 従業員を解雇することが、客観的にみて合理的ではなく、社会通念上、解雇が相当ではない場合は、「解雇権の濫用」にあたり、解雇は無効です。 解雇権の濫用にあたるかが裁判で争われた場合、以下のようなポイントが判断の基準となります。

  • 解雇した理由が、就業規則の普通解雇事由に当てはまるか(客観的・合理的理由があるか)
  • 解雇が本当にやむを得なかったのか、解雇以外の選択肢はなかったのか(社会通念上、相当といえるか)

会社は、できるかぎり、解雇を回避する措置を講じる必要があります。たとえば、従業員に対して、ハラスメント行為をやめるよう注意や指導をするといったことです。 注意や指導をしてもハラスメント行為が続く場合、けん責(始末書の提出など書面での反省を求めること)や減給、出勤停止、降格といった、解雇より軽いペナルティを与えることを検討します。 ペナルティを与える場合は、就業規則に「従業員がどのような場合にペナルティを受けるか」と「ペナルティの種類」が記載されていることが必要です。 たとえば、次のような記載です。

  • 「服務規律等に違反したときは、けん責、減給、出勤停止または降格に処する」
  • 「職場内において、性的な言動によって他人に不快な思いをさせたり、職場環境を悪くしたときは、けん責、減給、出勤停止または降格に処する」

ただし、ハラスメント行為の程度に対して、ペナルティの内容が重すぎる場合は、ペナルティが無効になる可能性があります。ペナルティを与えるかどうか、どのような内容にするかは、慎重に判断しましょう。 解雇の回避措置やペナルティを与えるなどの対応をしても、ハラスメント行為が続く場合は、解雇もやむを得ないと言えるでしょう。

懲戒解雇の場合

懲戒解雇をおこなう場合、解雇が有効といえるためには、その解雇が懲戒権の濫用にあたらないことが必要です。 従業員を懲戒解雇することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当であると認められない場合は、懲戒権の濫用にあたり、解雇は無効です。 懲戒権の濫用にあたるかが裁判で争われた場合、以下のようなポイントが判断の基準となります。

  • 懲戒解雇した理由が、就業規則の懲戒解雇事由に当てはまるか(客観的・合理的理由があるか)
  • 懲戒解雇までの手続きが適正だったといえるか、従業員の行為の内容から考えて懲戒解雇をおこなうことが妥当といえるか(社会通念上、相当といえるか)

たとえば、次のような状況でおこなわれた懲戒解雇は、懲戒権の濫用にあたるとして、無効となる可能性があります。

  • 懲戒解雇にあたる事実があった後に制定した就業規則にもとづいて、懲戒解雇した
  • 過去にペナルティを与えた事実と同じ事実を理由に懲戒解雇した
  • 同じことをした他の従業員は懲戒解雇していないのに、特定の従業員だけ懲戒解雇した
  • 就業規則違反の内容に対して懲戒解雇が重すぎる
  • 就業規則で、従業員に弁明の機会を与えることや懲戒委員会の開催などの手続きが定められているのに、このような手続きを経ずに懲戒解雇した

解雇が禁止されている期間ではない

次の期間内に解雇することは法律で禁止されています。禁止期間中の解雇は無効です。

  • 仕事中のケガや仕事が原因で病気になった場合に、その療養のために休む期間と、その後30日間
  • 産前産後休業の期間と、その後30日間

ただし、災害などやむを得ない事情によって、会社の事業を続けることが不可能な場合には、解雇禁止の適用を受けません。 また、従業員の仕事上のケガや病気について、会社が直接治療費などを支払ったり、労災保険を利用して補償を受けているケースで、療養から3年が経っても治らない場合は、会社がその従業員の平均賃金の1200日分を支払えば、解雇禁止のルールが適用されません(打切補償)。 打切補償を支払ったあとは、従業員に対して、労災保険による医療費の支払いや休業補償をしなくてもよくなります。 打切補償を支払わなくても従業員を解雇できる場合もあります。従業員が、ケガや病気の療養を始めてから3年が経った時点で、傷病補償年金の支払いを受けている場合か、その時点以降に傷病補償年金の支払いを受けることになった場合です。 傷病補償年金の支払いを受けていることは、打切補償の支払いを受けていることと同じと見なされます。そのため、会社は、打切補償を支払わなくても従業員を解雇できます。

従業員のケガや病気が通勤中に負ったものである場合は、解雇禁止の対象にはなりません。

解雇をする30日前までに解雇の予告をする、または解雇予告手当を支払う

従業員を解雇するときには、少なくとも30日以上前から、従業員に解雇することを通知しなければなりません(解雇予告)。このルールは普通解雇と懲戒解雇のどちらをおこなう場合にも適用されます。 たとえば、3月31日付けで解雇する場合、会社は遅くとも3月1日には解雇予告をする必要があります。 解雇予告をした日の翌日からカウントして、実際に解雇する日までの日数が30日間に満たない場合、足りない日数分の平均賃金を従業員に支払わなければなりません。このお金を「解雇予告手当」といいます。 ただし、次のような従業員を解雇する場合は、解雇予告手当を支払う必要はありません。

  • 14日未満の試用期間中に解雇された人
  • 4か月以内の季節労働者で、その期間内に解雇された人
  • 契約期間が2か月以内で、その期間内に解雇された人
  • 雇用期間が1か月未満の日雇い労働者で、その期間内に解雇された人

また、次のような事情がある場合も、解雇予告手当を支払う必要はありません。

  • 災害などで、会社の事業を続けることが不可能な場合で、労働基準監督署長の認定を受けた場合
  • 犯罪行為など、明らかに従業員側に非がある解雇で、労働基準監督署長の認定を受けた場合

たとえば、犯罪行為にあたるほど悪質なハラスメントをした従業員を懲戒解雇する場合、解雇予告手当の支払いをせずに即時解雇できる場合があります。 ただし、即時解雇するには事前に労働基準監督署長の認定が必要です。認定を受けずに即時解雇した場合は、手続き違反として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金というペナルティを負う可能性があります。

自主的な退職という選択肢を示す

ここまで説明したとおり、普通解雇と懲戒解雇のどちらをおこなうとしても、従業員を解雇するためには、解雇が有効となるための条件を満たす必要があり、条件を満たすことを示す証拠を用意しておく必要があります。 しかし、実際にはこうした証拠がなかったり、あっても不十分だったりするために、解雇の有効性を争う上で会社側が不利な状態になるケースがあります。 働き続けてもらうことが難しい従業員がいる場合に、必ずしも解雇だけが有効な手段とは限りません。解雇にこだわりすぎず、よりソフトな対応を検討することも1つの方法です。 よりソフトな対応としては、従業員に対して、自主的な退職という選択肢を提示するという方法があります。 従業員としても、解雇されると転職などに影響があることから、自主的に退職することにメリットがある場合があります。 ただし、退職の促し方が相当とはいえない場合には、退職強要として不法行為にあたる可能性があります。 退職強要にあたる場合、従業員から損害賠償を請求されるなどのリスクがあります。 たとえば、従業員を退職させようと、長時間にわたって説得したり、「退職しなければ解雇する」などと脅したりすることは避けましょう。 退職勧奨に関する詳しい解説は、記事末尾のリンクをご覧ください。

弁護士への相談を検討する

従業員を解雇したい場合には、事前に弁護士に解雇のプロセスを相談することをおすすめします。 これまで説明したとおり、従業員を解雇するには、様々な条件を満たす必要があり、条件を満たさない場合には無効となります。 無効な解雇を行なった場合、従業員から、その解雇がなければ支払われたはずの賃金の支払いを請求されるなど、トラブルに発展するリスクがあります。 解雇をめぐる争いが裁判に発展すると、決着がつくまでには時間もお金もかかります。裁判を起こされたことが社内外に伝わることで、会社の評判や採用活動によくない影響が出る可能性もあるでしょう。 従業員を解雇する前に、弁護士に相談することを検討しましょう。弁護士に相談すると、解雇をめぐるトラブルを防ぐためのアドバイスを受けることができます。

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