仕事上のミスで会社に損害を与えた場合でも賠償しなくてもよいケース

仕事上のミスで会社に損害を生じさせてしまい、会社から賠償を求められても、必ずしも応じなければならないわけではありません。賠償する場合でも、損害の一部を賠償することで足りる場合もあります。どのようなケースか詳しく解説します。

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目次

  1. どのような場合に損害賠償をしなければならないか
  2. 従業員に過失がない場合とは【具体例】
    1. 取引先が倒産したケース
    2. 社用車を運転中にもらい事故にあったケース
  3. 従業員のミスが日常的に一定の確率で発生する場合
  4. 損害賠償をしなければならない場合でも全額を支払うケースは少ない
    1. 社内基準に違反して貸付けを行なったケース
    2. 競業会社に商品の送付や顧客の紹介をしたケース
  5. 賠償額を給料から天引きすることはできない
  6. 会社から損害賠償を求められた場合に確認すること

どのような場合に損害賠償をしなければならないか

仕事のミスで会社に損害を与えても、必ずしも損害を賠償しなければならないわけではありません。 従業員が損害賠償する必要があるかどうかを判断するフロー図 従業員の仕事上のミスで会社に損害が発生した場合でも、従業員に過失がなかった場合には、損害賠償をする義務はありません。 過失があった場合でも、日常的にそうしたミスが一定の確率で発生することが避けられないような場合は、損害賠償をする義務はありません。 従業員に過失があり、そのミスが日常的に一定の確率で発生するわけではない場合は、損害を賠償する必要があります。 ただし、全額を負担しなければならないわけではありません。 一方、会社の経費を私的に使い込んだ場合(横領)や、商品を盗んだ場合(窃盗)のように、犯罪にあたるような場合には、全額を賠償しなければならない可能性があります。 それぞれのケースの具体例を紹介します。

従業員に過失がない場合とは【具体例】

取引先が倒産したケース

たとえば、取引先が倒産して、会社が売掛金や貸付金を回収できなくなった場合に、従業員にその売掛金や貸付金にあたる金額の支払いを求めるケースがあります。 しかし、取引先が倒産したことについて、従業員に過失はないので、従業員がそのようなお金を支払う義務はありません。

取引先から売掛金や貸付金を回収できなくなることを知っているにもかかわらず、あえて販売や貸付けをしたような場合には、従業員にミスがあるといえるので、損害賠償をしなければならない可能性があります。

社用車を運転中にもらい事故にあったケース

たとえば、社用車を運転中にもらい事故にあい、過失割合が「90:10」などと認定されて、会社から10%にあたる金額の支払いを求められることがあります。 しかし、過失割合は、交通事故の加害者と被害者との間でどの程度の過失があったのかを示すものであり、会社と従業員の間でどちらが損害を負担すべきかという問題とは異なります。 従業員が会社との関係で、通常気をつけるべきとされていることに注意を払っていて、特に過失がなかったといえる場合には、従業員が会社に対してそのような金額を支払う義務はありません。

従業員のミスが日常的に一定の確率で発生する場合

従業員に過失があった場合でも、そのミスが日常的に一定の確率で発生するような内容の場合には、損害賠償をする義務はありません。 たとえば、飲食店で食器を割ってしまったり、釣り銭を多く払いすぎてしまったりする場合などがあります。 会社は従業員を働かせて利益を上げていますが、その利益のすべてを従業員に還元するわけではありません。従業員を働かせて損害が生じた場合にだけ、従業員にすべての損害を賠償させるのは、従業員ばかりに負担がいき不公平だと考えられるからです。

損害賠償をしなければならない場合でも全額を支払うケースは少ない

従業員にミスがあり、そのミスが日常的に一定の確率で発生するような内容ではない場合には、損害賠償をしなければなりません。 ただし、会社に支払う金額は、会社が受けた損害の何割かだけを負担すればよく、全額を負担することはあまりありません。

会社の経費を私的に使い込んだ場合(横領)や、商品を盗んだ場合(窃盗)のように、犯罪にあたるような場合には、全額を賠償しなければならない可能性があります。

具体的に損害の何割を支払わなければならないのかは、個々の事情によります。 たとえば、従業員が会社のタンクローリーを運転中に、別の会社のタンクローリーに追突する事故を起こしてしまい、会社が従業員に対して損害賠償を求めたケースで、従業員が支払うべき損害の割合を判断した最高裁の判例があります。 この判例では、会社が従業員に対して損害賠償を求めることができるのは、次のような事情を考慮して、損害を公平に分担するという考え方から信義則上相当と認められる限度とすべきであると判断されました。

  • 事業の性格
  • 事業の規模
  • 会社の施設の状況
  • 従業員の業務内容
  • 従業員の労働条件
  • 従業員の勤務態度
  • ミスの内容
  • 会社が従業員のミスを予防するために教育などを行なっていたか
  • 損害が発生したときのために会社が保険をかけていたか など

このケースでは次のような事情が認められ、従業員が支払うべき金額は全体の4分の1を限度とすべきと判断されました。

  • 事故を起こした従業員に前方不注視などの過失があった
  • 従業員の勤務成績が普通以上であった
  • 会社が経費節減のために自動車保険は対人賠償のみに加入し、対物賠償や車両保険には加入していなかった

仕事のミスについて減給や降格などの懲戒処分を受けている場合には、会社がさらに従業員に対して損害賠償を求めることは、権利の濫用として認められない場合があります。

同じようなミスに対して、他の従業員には損害賠償を求めないのに、特定の従業員にだけ損害賠償を求めるような場合にも、権利の濫用として認められない場合があります。

社内基準に違反して貸付けを行なったケース

会社の貸付基準に違反して貸付けを行なったケースが問題となった裁判例では、次のような事情が認められ、従業員が支払うべき金額は全体の1割とすべきと判断されました。

  • 従業員が貸付基準に違反する貸付けを行なったのは、支店に課されている営業目標を達成して、支店長の降格を免れるためであった。
  • 会社が営業目標を達成するために従業員に与えた過度な圧力がこのような貸付けの原因の一端となった。
  • 従業員は会社の業績向上のために働いてきた。
  • 会社はの資金力は強大であり貸し倒れ償却によって損失を吸収することができるのに対し、従業員は会社の一般社員にすぎない。

競業会社に商品の送付や顧客の紹介をしたケース

競業会社に対し、業務上の必要がないのに主力商品を送付したり、顧客の紹介を行なったりしたケースが問題となった裁判例では、従業員は損害の全額を支払わなければならないと判断されました。

賠償額を給料から天引きすることはできない

従業員が損害賠償をしなければならないとしても、会社が賠償額を給料から天引きすることはできません。 給料は、原則として全額を支払わなければならないと法律で決められているからです(全額払いの原則)。 そのため、会社は給料を全額支払った上で、従業員に対して損害賠償を求めることになります。 ただし、従業員が自由な意思に基づいて給料の天引きに同意した場合には、その同意が従業員の自由な意思に基づいてなされたものであることを裏づける合理的な理由が客観的に存在するときは、給料の天引きは法律に違反しないと考えられています。 給料の天引きを会社から提案された場合でも、すぐには同意しないようにしましょう。

会社から損害賠償を求めない代わりに退職を勧められたり、逆に賠償額を払い終わるまでは退職させないと言われたりする場合があります。損害賠償をすることと、働き続けたり退職したりすることは別問題です。退職を勧められても退職する義務はありません。退職させないと言われた場合でも退職することができます。

会社から損害賠償を求められた場合に確認すること

仕事のミスなどを理由に会社から損害賠償を求められた場合には、次のようなことを確認しましょう。

  • ミスの内容
  • 会社が受けた損害の金額
  • 同様のミスで起きたことについて、過去にどのように扱われていたか。

確認ができたら、次のようなことを検討しましょう。

  • 自分に損害賠償をする義務があるか。ミスをしたといえるか。ミスの内容が日常的に一定の確率で発生するようなものか。
  • 会社が受けた損害の金額は妥当か。過大に見積もっていたり、無関係なものが含まれていたりしないか。
  • 賠償額が制限されないか。

会社への対応に不安がある場合や、損害賠償の金額が適切かどうかわからない場合には、弁護士に相談することを検討してもよいでしょう。

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