労災

弁護士監修記事 2019年06月28日

【労災保険】過労で倒れた場合に治療費や休業損害を補償してもらえるケース

長時間労働などの過労により脳梗塞などの脳疾患や心筋梗塞などの心疾患となった場合、過労死と同じように、労災保険を利用できるケースがあります。 労災保険からは治療費や休業損害などの補償を受けることができます。 どのような場合に労災保険を利用できるのか、詳しく解説します。

目次

  1. 過労による脳疾患や心疾患には「労災保険」を利用できる
  2. 労災保険で受けられる補償の内容
    1. 治療費が全額、国から支払われる
    2. 仕事を休んだために減った分の収入が支払われる
    3. 治療が長引くと補償が手厚くなる
    4. 後遺障害が残った場合
  3. どのような場合に労災と認められるのか
  4. 対象となる病気
    1. 脳血管疾患
    2. 虚血性心疾患等
    3. 脳卒中の場合
    4. 急性心不全の場合
    5. 発症時期の考え方
  5. 仕事上の明らかな過重負荷により発症したこと
    1. どのような場合に発症の原因だったと評価できるのか
    2. 1. 発症直前から前日までの間に「異常な出来事」に遭遇したこと
    3. 2. 発症前おおむね1週間に特に過重な業務に就労したこと
    4. 3. 発症前おおむね6か月間に著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと
  6. 労災保険を利用したい場合には弁護士に相談する

過労による脳疾患や心疾患には「労災保険」を利用できる

長時間労働などの過労により、脳梗塞などの脳疾患や心筋梗塞などの心疾患となった場合、労働災害(労災)と認められると、「労災保険」を使って治療費などの支払いを受けることができます。 労災保険は、正社員やパート、アルバイトなどの雇用形態を問わず、原則として全ての事業主(会社)が加入している保険です。 会社が労災保険の届出や保険料の支払いをしていないこともありますが、そのような場合でも、被害者は労災保険から治療費などの支払いを受けることができます。

労災保険で受けられる補償の内容

労災保険を使うと、次のような補償を受けることができます。

治療費が全額、国から支払われる

労災保険を使うと、ケガや病気の治療費が全額、国から支払われます。「療養補償給付」といいます。 「労災指定病院」を受診すれば無料で治療を受けることができ、自分で費用を立て替える必要もありません。 労災指定病院は、厚生労働省 労災保険指定医療機関検索から探すことができます。 労災指定病院ではない病院を受診した場合は、いったん治療費を自分で立て替えなければなりませんが、後から労働基準監督署に請求することで、立て替えた分が全額支払われます。 気をつけたいのは、通常病院で治療を受ける場合は健康保険により3割負担となりますが、労災保険を使う場合には健康保険を使えないため、治療費が全額(10割)負担になることです。 後から労基署に全額請求できるとはいえ、立て替える金額が大きくなるため、経済的余裕がない場合は、労災指定病院を受診するとよいでしょう。

仕事を休んだために減った分の収入が支払われる

労災保険を使うと、病気で仕事を休んだ分の損害もカバーしてもらえます。 仕事を4日以上休んだ場合に、4日目以降の休業日について、「仕事を休まなければ得ることができたはずの収入」が支払われます。「休業補償給付」といいます。 これらの給付は通常、給料の6割が支払われます。

仕事を休んだ1日目から3日目までの分は、仕事中の事故の場合には事業主(会社)に支払ってもらえます。

さらに、休業補償給付(休業給付)とは別に、給料の2割にあたる金額が「休業特別支給金」として支払われます。

治療が長引くと補償が手厚くなる

ケガや病気の治療を始めてから1年6か月が経っても症状固定(これ以上治療を続けても症状が改善しないと医学的に判断されること)とならない場合で、次の表に当てはまるような重い症状の場合には、休業補償給付(休業給付)から、より手厚い補償に切り替わります。 「傷病補償給付」といいます。 傷病補償給付(傷病給付)では、給料をもとに計算した「傷病補償年金」(通勤によるケガや病気の場合には「傷病年金」)のほかに、ボーナスをもとに計算した「傷病特別年金」、一時金として支給される「傷病特別支給金」が支払われます。 傷病補償給付(傷病給付)は、病気が完治するか症状固定と診断されるまで支払われます。 介護が必要な場合には、介護費用として「介護補償給付」も支払われます。

後遺障害が残った場合

治療をしたけれど完治せずに症状が残った場合、後遺障害と認められれば後遺障害が残ったことに対するお金や介護が必要になった場合の費用が支払われます。 後遺障害が残った場合の補償の内容や手続きについて、詳しくはこの記事の下の関連記事で説明しています。

どのような場合に労災と認められるのか

過労による脳疾患や心疾患が労災と認められるには、次の基準を満たすことが必要です。この基準は過労死の場合に労災と認められる基準と同じです。

  • 対象となる病気を発症したこと
  • 次の1、2、3のどれかにあてはまり、そのことにより発症したこと
  1. 発症直前から前日までの間に「異常な出来事」に遭遇したこと。
  2. 発症前おおむね1週間に、特に過重な業務に就労したこと。
  3. 発症前おおむね6ヶ月間に著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。

対象となる病気

労災認定の対象となる病気は次のとおりです。

脳血管疾患

  • 脳内出血(脳出血)
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 高血圧性脳症

虚血性心疾患等

  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心停止(心臓性突然死を含む。)
  • 解離性大動脈瘤

脳卒中の場合

脳卒中は、脳血管疾患の総称として用いられており、上記の「脳内出血(脳出血)」「くも膜下出血」「脳梗塞」「高血圧性脳症」に分類されています。 脳卒中の分類の図 脳卒中と判断された場合には、これらの「脳内出血(脳出血)」「くも膜下出血」「脳梗塞」「高血圧性脳症」のどれにあたるのかを確認されることがあります。 ただし、「脳内出血(脳出血)」「くも膜下出血」「脳梗塞」「高血圧性脳症」のどれにあたるのかはっきりしない場合でも、対象ではない病気であることが確認された場合を除いて、労災認定の対象となります。

急性心不全の場合

急性心不全(急性心臓死、心臓麻痺などという場合もあります。)は、症状として現れる状態を指す言葉であり、病名ではないので、上記の対象となる病名のどれにあたるのかを確認されることがあります。 ただし、上記の対象となる病名のどれにあたるのかはっきりしない場合でも、対象ではない病気であることが確認された場合を除いて、労災認定の対象となります。

発症時期の考え方

病気がいつ発症したかは、仕事と発症が関係あるかどうかを検討する際の出発点となります。 脳や心臓の病気は、通常、症状が出た日が発症日となります。 ただし、病気の前兆として現れる症状(「前駆症状(ぜんくしょうじょう)といいます」)がある場合で、前駆症状と病気との関連性が医学的に明らかとされたときには、前駆症状が確認された日が発症日となります。

仕事上の明らかな過重負荷により発症したこと

労災と認められるには、次のいずれかにあてはまり、そのことが原因で発症したことが必要です。

  1. 発症直前から前日までの間に「異常な出来事」に遭遇したこと。
  2. 発症前おおむね1週間に、特に過重な業務に就労したこと。
  3. 発症前おおむね6ヶ月間に著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。

どのような場合に発症の原因だったと評価できるのか

脳血管疾患や虚血性心疾患は、長い年月をかけて徐々に進行して、悪化するという自然の経過をたどって発症に至るとされています。 一方、仕事上の明らかな過重負荷が加わることによって、自然の経過を超えて悪化し、脳血管疾患や虚血性心疾患を発症する場合があります。 このような場合に、仕事上の明らかな過重負荷が、相対的に脳血管疾患や虚血性心疾患の有力な原因であると判断され、労災と認められます。

1. 発症直前から前日までの間に「異常な出来事」に遭遇したこと

異常な出来事とは、次のようなことをいいます。

  • 極度の緊張、興奮、恐怖、驚がくなどの強度のストレス(精神的負荷)を引き起こす突発的または予測困難な異常な事態
  • 緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的または予測困難な異常な事態
  • 急激で著しい作業環境の変化

発症直前から前日までに起こった出来事を評価します。その出来事が発生した時間と場所を明確にできることが必要です。 異常な出来事と認められるかどうかは、次のような事項について検討し、これらの出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるかどうかという観点から、客観的かつ総合的に判断されます。

  • 通常の業務遂行過程においては遭遇することがまれな事故または災害などで、その程度が甚大であったかどうか。
  • 気温の上昇または低下などの作業環境の変化が急激で著しいものであったか。など

2. 発症前おおむね1週間に特に過重な業務に就労したこと

特に過重な業務とは、日常業務(通常の決まった労働時間内の決まった業務内容)に比べて特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいいます。 特に過重な業務に就労したと認められるかどうかは、次の表にある要素を考慮し、同僚または同種の労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷といえるかどうかという観点から、客観的かつ総合的に判断されます。 ここでいう同僚または同種の労働者とは、その労働者と同程度の年齢、経験などを有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者のことをいいます。

考慮要素 具体的な内容
労働時間 労働時間の長さは、業務量の大きさを示す指標であり、また、業務が過重だったかどうかを評価するための最も重要な要因であるので、評価期間における労働時間については、十分に考慮されます。

(例)
・発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められるか。
・発症前おおむね1週間以内に継続した長時間労働が認められるか。
・休日が確保されていたか。など
不規則な勤務 ・予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度
・事前の通知状況
・予測の度合い
・業務内容の変更の程度 など
拘束時間の長い勤務 ・拘束時間数
・実労働時間数
・労働密度(実作業時間と手待時間との割合など)
・業務内容
・休憩・仮眠時間数
・休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音など) など
出張の多い業務 ・出張中の業務内容
・出張(特に時差のある海外出張)の頻度
・交通手段、移動時間、移動時間中の状況
・宿泊の有無
・宿泊施設の状況
・出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況
・出張による疲労の回復状況 など
交替制勤務・深夜勤務 ・勤務シフトの変更の度合い
・勤務と次の勤務までの時間
・交替制勤務における深夜時間帯の頻度 など
作業環境 作業環境については、脳・心臓疾患の発症との関連性が必ずしも強くないとされていることから、過重性の評価に当たっては付加的に考慮されます。
作業環境(a)温度環境 ・寒冷の程度
・防寒衣類の着用の状況
・一連続作業時間中の採暖の状況
・暑熱と寒冷との交互のばく露の状況
・激しい温度差がある場所への出入りの頻度 など

温度環境のうち高温環境については、脳・心臓疾患の発症との関連性が明らかでないとされていることから、一般的に発症への影響は考え難いが、著しい高温環境下で業務に就労している状況が認められる場合には、過重性の評価に当たって配慮されます。
作業環境(b)騒音 ・おおむね80dB を超える騒音の程度
・ばく露時間・期間
・防音保護具の着用の状況 など
作業環境(c)時差 ・5時間を超える時差の程度
・時差を伴う移動の頻度 など
精神的緊張を伴う業務 精神的緊張を伴う業務については、次の表にあてはまる業務や出来事がある場合に考慮されます。
精神的緊張と脳・心臓疾患の発症との関連性については、医学的に十分な解明がなされていないこと、精神的緊張は業務以外にも多く存在することなどから、精神的緊張の程度が特に著しいと認められるものが評価されます。

精神的緊張を伴う業務の具体的内容と負荷の程度を評価する視点をまとめた図の1枚め 精神的緊張を伴う業務の具体的内容と負荷の程度を評価する視点をまとめた図の2枚め

発症に近い業務から判断する

過重業務と発症との関連性を時間的にみた場合、医学的には、発症に近いほど影響が強く、発症から遡るほど関連性は希薄となります。 そこで、次のように発症に近い業務から、特に過重であるかどうかを判断していきます。

  1. まず、発症直前から前日までの間の業務が特に過重であるかどうかを判断する。
  2. 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であるとはいえない場合でも、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合には、この間の業務が特に過重であるかどうかを判断する。

発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合の「継続」とは、この期間中に過重な業務に就労した日が連続しているという意味です。必ずしもこの期間を通じて過重な業務に就労した日が途切れることなく続いている場合のみをいうわけではありません。もし、発症前おおむね1週間の中で就労しなかった日があったとしても、そのことにより、直ちに業務との関連性が否定されるわけではありません。

3. 発症前おおむね6か月間に著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと

特に過重な業務とは、日常業務(通常の決まった労働時間内の決まった業務内容)に比べて特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいいます。 長時間労働が常に行なわれている状態などの負荷が長期間にわたる場合には、疲労が蓄積されることにより、血管病変などを自然経過を超えて著しく悪化させ、労災認定の対象となる脳血管疾患や虚血性心疾患を発症させることがあります。 このことから、発症前の一定期間の労働時間などを見て、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断されます。

発症前おおむね6か月より前の業務については、疲労の蓄積に係る業務の過重性を評価するに当たり、付加的要因として考慮されます。

著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるかどうかの判断は、次の項目で説明する長時間労働や、その次の表にある考慮要素などを考慮し、同僚の労働者または同種の労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるかどうかという観点から、客観的かつ総合的に判断されます。 ここでいう同僚の労働者または同種の労働者とは、その労働者と同程度の年齢、経験などを有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者のことをいいます。

考慮要素としての長時間労働(いわゆる過労死ライン)

過労死ラインを説明する図 長時間労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な原因と考えられています。労働時間が長いほど、業務が過重であったといえます。 次のような場合には、業務と発症との関連性が強いと認められ、労災と認定されやすくなります(いわるゆ過労死ライン)。

  • 発症前の6か月間にわたり、1か月あたりおおむね45時間を超える残業があった。この場合、残業時間が長くなるほど業務と発症との関連性が強まると評価されます。
  • 発症前の1か月間におおむね100時間を超える残業があった。
  • 発症前の2か月間から6か月間にわたって、1か月あたりおおむね80時間を超える残業があった。
  • 休日のない連続勤務が長く続くほど、業務と発症との関連性がより強まる。

ここでいう残業とは、1週間に40時間を超えて働いた場合のことをいいます。

長時間労働以外の考慮要素

長時間労働のほか、次のような事項も考慮されます。

考慮要素 具体的な内容
不規則な勤務 ・予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度
・事前の通知状況
・予測の度合い
・業務内容の変更の程度 など
拘束時間の長い勤務 ・拘束時間数
・実労働時間数
・労働密度(実作業時間と手待時間との割合など)
・業務内容
・休憩・仮眠時間数
・休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音など) など
出張の多い業務 ・出張中の業務内容
・出張(特に時差のある海外出張)の頻度
・交通手段、移動時間、移動時間中の状況
・宿泊の有無
・宿泊施設の状況
・出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況
・出張による疲労の回復状況 など
交替制勤務・深夜勤務 ・勤務シフトの変更の度合い
・勤務と次の勤務までの時間
・交替制勤務における深夜時間帯の頻度 など
作業環境 作業環境については、脳・心臓疾患の発症との関連性が必ずしも強くないとされていることから、過重性の評価に当たっては付加的に考慮されます。
作業環境(a)温度環境 ・寒冷の程度
・防寒衣類の着用の状況
・一連続作業時間中の採暖の状況
・暑熱と寒冷との交互のばく露の状況
・激しい温度差がある場所への出入りの頻度 など

温度環境のうち高温環境については、脳・心臓疾患の発症との関連性が明らかでないとされていることから、一般的に発症への影響は考え難いが、著しい高温環境下で業務に就労している状況が認められる場合には、過重性の評価に当たって配慮されます。
作業環境(b)騒音 ・おおむね80dB を超える騒音の程度
・ばく露時間・期間
・防音保護具の着用の状況 など
作業環境(c)時差 ・5時間を超える時差の程度
・時差を伴う移動の頻度 など
精神的緊張を伴う業務 精神的緊張を伴う業務については、次の表にあてはまる業務や出来事がある場合に考慮されます。
精神的緊張と脳・心臓疾患の発症との関連性については、医学的に十分な解明がなされていないこと、精神的緊張は業務以外にも多く存在することなどから、精神的緊張の程度が特に著しいと認められるものが評価されます。

精神的緊張を伴う業務の具体的内容と負荷の程度を評価する視点をまとめた図の1枚め 精神的緊張を伴う業務の具体的内容と負荷の程度を評価する視点をまとめた図の2枚め

労災保険を利用したい場合には弁護士に相談する

この記事を読んで、もしかしたら労災保険が利用できるかもしれないと思った場合には、弁護士に相談することおすすめします。 労災保険を利用するためには、労災保険を申請するための手続きを行ないます。 その際、過労によって発症した脳疾患や心疾患であることを裏づけるための証拠を一緒に提出すると、労災認定してもらえる可能性が高まります。 たとえば、長時間労働を証明するためのタイムカードの記録、業務内容を証明するためのメール、職場の同僚の証言などがあります。 どのような証拠を揃えればよいかは、個別の事情によって様々です。 弁護士に相談すると、どのような証拠が必要か、どのように手続きを進めればよいかについて、アドバイスをもらうことができます。

過労による脳疾患や心疾患となった場合には、労災保険を利用することとは別に、会社に対して慰謝料の支払いなどを求めて訴えることができる可能性があります。労災の手続きと併せて検討してみてもよいでしょう。

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