遺品整理をすると相続放棄ができなくなる?
亡くなった人の遺品整理をすると、相続放棄の手続きに支障があるのでしょうか。
相談者の疑問
先日、7年ほど疎遠になっていた母親が、1人暮らしのアパートの1室で10日ほど前に亡くなっていたと警察から連絡がありました。
親戚関係にかなり嫌われている母親で、住んでいた場所もかなり遠方ということもあり、私1人で火葬などの手続きに行くことになりました。
借金がかなりあるようなので相続放棄をしようと思うのですが、その場合、遺品はどの程度まで持ち出しても大丈夫なのでしょうか?
また、アパートの現状回復の責任は私にあるのでしょうか?保証人は母親の叔父と父親になっていますが、両方とも最近亡くなっています。
それと母親は生活保護で暮らしていたのですが、そのお金の残りなどを火葬などの費用に私の判断で使ってもよいのでしょうか?
弁護士の回答鐘ケ江 啓司弁護士
まず遺品をどの程度持ち出してよいかということですが、一般論としては手紙や写真などの市場価値がないものであれば形見分けとして許されますが、実務的には相続放棄が受理されるまではなるべくいじくらないのがよいです。
疑いをかけられるのを防止するのと、高価品だと「単純承認」として相続放棄ができなくなる危険性があるからです。
遠藤浩ほか編『有斐閣双書 民法(9)相続 第4版増補補訂版』(2005年、有斐閣)の157ページにはこう書いています。
「経済的価値の高い美術品や衣類の形見分けや、相続債務の代物弁済として相続財産たる不動産を譲渡することや、相続債権を取り立てて収受領得することは、単純承認とみなされる処分だとされている」。
次に、原状回復については相続放棄をすれば責任はありません。
財産の残りを葬儀費用として利用することですが、自分の判断での支出というのはやめておいた方がよいです。故人に見合った程度の葬儀費用の支出を、故人の財産から支出しても単純承認にはあたらないという見解は有力ですが、確定的な最高裁判例があるわけではありません。
あなたの生活も苦しいということであれば、生活保護として葬祭費用を出してもらえる場合もあります。役所の生活保護課に相談してみて下さい。
※生活保護制度
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/
bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/
※民法
(単純承認の効力)
第920条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
(法定単純承認)
第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
遺品整理をするとき、手紙や写真といった市場価値のないものであれば、持ち出しても相続放棄に差し支えはないようです。 ただし、高価な遺品などは、持ち出すと単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があるようです。 相続放棄が受理されるまでは、なるべく遺品に手をつけない方がよさそうです。
明らかなゴミなら処分してもいい?
遺品整理をする際、高価なものを持ち出すと、単純承認と見なされ、相続放棄ができなくなる可能性があるようです。
では、明らかなゴミであれば処分しても問題ないのでしょうか。
相談者の疑問
現在相続放棄の申請をしており、裁判所の認可待ちです。亡くなった母は県営住宅に住んでおりましたが、部屋ははっきり言ってゴミばかりで、衣服やタンスや壊れた家電などがほとんどです。
このままだと県営住宅の管理の方にも迷惑がかかりますし、家賃もかさみますので、ゴミ同然のものについては処分(廃棄)しても差し支えないものでしょうか?少しでも価値のあるものは処分するのはまずいとよく言われますが、その基準は誰が決めるものでしょうか?
弁護士の回答須山 幸一郎弁護士
> このままだと県営住宅の管理の方にも迷惑がかかりますし、家賃もかさみますので、ゴミ同然のものについては処分(廃棄)してもさしつかえないものでしょうか?少しでも価値のあるものは処分するのはまずいとよく言われますが、その基準は誰が決めるものでしょうか?
関与しないのが無難です。
相続財産管理人の選任申立てを行い、裁判所に選任された管理人(弁護士)に処理してもらうのが原則的な対応となります。
必ずとは言えませんが、県営住宅や市営住宅の場合、新たに賃貸できるようにするため、県や市が相続財産管理人の選任申立てを行う場合もあります(当職も、類似事案で県が申し立てた事件の相続財産管理人に選任された経験があります)。
相続放棄をする場合、たとえ明らかなゴミであっても、処分したい場合は、裁判所に選任された相続財産管理人に任せた方がよいようです。