相続

弁護士監修記事 2017年08月10日

【成年後見制度】「任意後見」の仕組みと後見人を選ぶ手続きの流れ

将来自分が認知症などの影響でものごとを正常に判断することができなくなってしまったら…。そうした事態に備えて、本人の判断能力が十分あるうちに、自分をサポートしてくれる人をあらかじめ選んでおく仕組みがあります。「任意後見制度」と呼ばれる仕組みです。

  • 任意後見制度の内容
  • 任意後見人を選んでおくことのメリット・デメリット
  • 実際に後見がはじまる際の手続きの流れ

この記事ではこうしたポイントについて詳しく紹介します。

目次

  1. 任意後見制度とは
    1. 任意後見制度のメリット
    2. 任意後見では対応できないこと
  2. 任意後見契約を結んでから、実際に後見が開始するまでの手続きの流れ
    1. 任意後見受任者を選ぼう
    2. 任意後見人の報酬
    3. 任意後見契約書の作成費用
  3. 後見の事務をはじめてほしいと考えたら…任意後見監督人を選任しよう
    1. 申立てができる人
    2. 申立てに必要な書類
    3. 申立てにかかる費用
    4. 審理の内容
    5. 審判・登記
  4. 任意後見と併用/代わりに利用できる手段
    1. 見守り契約
    2. 財産管理委任契約
    3. 死後事務委任契約

任意後見制度とは

任意後見制度とは、判断能力があるうちに、将来自分の判断能力が不十分になった時に備えて、契約や財産管理などの事務を任せる相手を契約で定めておく制度です。 この契約を「任意後見契約」といい、事務を任せる相手のことを「任意後見人」といいます。契約は公正証書の形で結びます。 任意後見の契約は、将来本人の判断能力が低下した段階で、任意後見人の事務を監督する人(任意後見監督人)を選任する手続きを経て、効力が生じます。 任意後見人は、任意後見監督人の監督のもとで、本人のために不動産をはじめとした重要な財産の売買などの事務を、本人に代わって行います。

任意後見制度のメリット

あらかじめ「誰に頼むか」「何を頼むか」を自分で決めておくことができる

「法定後見制度」は、実際に判断能力が低下した後に、家族などの要望によって、裁判所にサポートしてくれる人(成年後見人・保佐人・補助人)を選んでもらう制度ですが、任意後見制度では、自分の望む人に、どのようなサポートをしてもらうかを、あらかじめ自分で定めておくことができます。 たとえば、サポートの内容としては、不動産売買などの財産管理や、介護施設利用時の手続きや契約などを決めておきます。 その場合には、「◯◯という介護施設でケアを受けたい」、「入院する場合には◯◯病院」、「◯◯の場合には不動産を売却する」など、自身の希望をなるべく具体的にしておくとよいでしょう。

契約内容が登記されるので、任意後見人の地位を公的に証明できる

任意後見契約の内容(任意後見人になる予定の人(任意後見受任者)の権限の範囲など)は、法務局に登記されるので(成年後見登記制度)、契約内容を公的に証明することができます。

登記は、公証人が法務局に嘱託してされるので、契約当事者である本人や任意後見受任者が行う必要はありません。

任意後見監督人が、任意後見人の業務を監督してくれる

実際に任意後見人が事務を開始するためには、家庭裁判所により任意後見監督人が選ばれて、任意後見契約の効力が発生することが必要です。 任意後見監督人とは、任意後見人が任意後見契約で定められた後見事務の内容を、適切に行っているかどうかを監督する人です。 任意後見監督人が任意後見人の仕事ぶりをチェックすることによって、本人の財産管理などが適切になされることを担保することができます。

任意後見では対応できないこと

このように、法定後見に比べサポートの自由度が高い任意後見制度ですが、次のような制限もあります。

本人の判断能力が低下してしまった後では、任意後見契約を締結できない

任意後見制度は、本人がまだ判断能力があるうちに将来に備えて契約を結ぶ仕組みです。そのため、実際に判断能力が低下してしまった後では、任意後見契約を結ぶことができず、利用することができません。その場合、法定後見制度を利用することになります。

本人の死後の事務や財産管理を委任することができない

任意後見契約は原則として本人の死亡によって終了します。 そのため、死後の事務や財産管理を委任したい場合には、別に「死後事務委任契約」などを締結したり、遺言書を作成したりする必要があります。

法定後見と異なり取消権がない

任意後見人には、法定後見人と異なり、本人が勝手に結んだ契約を取り消す権限(取消権)はありません。 そのため、任意後見人が知らない間に、本人が勝手に自分にとって不利な契約をしてしまっても、その契約を取り消すことができません。

「任意後見人が本人から代理権を与えてもらえば、本人の代理人として、問題のある契約などを取り消すことができる」また「『本人に帰属する財産の管理・保存』を委任した場合には、財産の管理行為あるいは保存行為として、任意後見人が取消権を行使することができる」といった考えもあるようです。

判断能力が十分な間は、後見が開始されない

任意後見は、判断能力が不十分になった時に始まります。判断能力が十分な間は、後見は始まりません。 「判断能力が衰える前から財産管理を任せたい」というような場合は、任意後見契約とは別に、財産を管理することを委託する契約(財産管理委任契約)を結ぶ必要があります。

任意後見契約を結んでから、実際に後見が開始するまでの手続きの流れ

任意後見受任者を選ぼう

任意後見受任者は、原則として自由に選ぶことができます。友人や親せきでも構いませんし、弁護士や司法書士などに依頼することもできます。自然人だけでなく、法人に依頼することもできます。 ただし、次の人たちは任意後見受任者になることはできません。

任意後見契約に関する法律4条1項3号・未成年者
・これまで、家庭裁判所から法定代理人、保佐人、補助人の職を解かれたことがある人
・破産したことがある人
・本人に対して裁判を起こしているまたは起こしたことがある人、または、その配偶者・直系の血族
・行方がわからない人
・不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

財産が多い場合や、サポートを依頼する内容が多いような場合には、複数の任意後見受任者を選ぶこともできます。

任意後見人の報酬

任意後見人の報酬は、民法上の委任契約で決められます。無報酬が原則で、法定後見人のように家庭裁判所が決定することもありません。 そのため、報酬を受け取るためには、任意後見契約において報酬額・支払時期について決めておく必要があります。このとき決める報酬額は、本人と任意後見人候補者間で自由に決めることができます。 注意しなければならないのが、任意後見の場合は、任意後見監督人にも報酬を支払う必要があるという点です。 任意後見契約で任意後見人へ支払う報酬の額を決めるときには、先々の支出の額を考慮して決めるようにしましょう。 報酬が支払われる場合の報酬額のめやすについて、親族が引き受けるようなケースでは、無報酬で引き受ける場合が多いようです。 弁護士や司法書士などの専門家に任意後見人を依頼したようなときには、月額3万円~5万円程度で設定されることが多いようです。

任意後見監督人の報酬

任意後見のケースで任意後見監督人が選任されるのは、本人や任意後見人などが家庭裁判所に任意後見監督人選任を申し立てた場合です。 このときに選ばれる任意後見監督人の報酬は、任意後見監督人から報酬付与の申立てにより、家庭裁判所が決定し、本人の財産から支払われることになります。

任意後見契約書の作成費用

任意後見契約書は公正証書にする必要がありますので、3万円弱の作成費用が必要となります。

  • 公証役場の手数料……11,000円
  • 法務局に納める印紙代……4,000円
  • 法務局への登記嘱託料……1,400円
  • 書留郵便料金……540円
  • 用紙代……1枚250円として約10,000円

後見の事務をはじめてほしいと考えたら…任意後見監督人を選任しよう

任意後見契約を結んだ後、実際に任意後見人が事務を開始するためには、家庭裁判所で任意後見監督人が選ばれることが必要です。 認知症の症状が出てくるなど判断能力が落ちてきて、後見の事務を開始してほしいと考えたら、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てましょう。 本人が任意後見監督人の選任について意向がある場合には、候補者に関する本人の希望も任意後見契約に記載しておくことが有用です。また、申立人が候補者を推薦することもできます。 ただし、こうした希望や推薦は、家庭裁判所を拘束しません。家庭裁判所の判断で、これらの希望とは異なる人が選ばれる可能性もあります。

申立てができる人

申立てができる人は、本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者です。本人以外の人が任意後見監督人選任の申立てをするには、本人の同意を得る必要があります(本人が意思表示できない場合は不要)。 任意後見監督人には、弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士等の専門職や法律、福祉に関わる法人などが選ばれることが多いです。 家庭裁判所が選任した「任意後見監督人」には、本人の財産から報酬を支払う必要があります。金額については、裁判所が示す目安が参考になるでしょう。

申立てに必要な書類

任意後見監督人選任の申立てをするときに必要な書類は、裁判所のサイトに詳しく紹介されているので、こちらを参考にしてください。

申立てにかかる費用

任意後見監督人選任の申立てには、収入印紙や連絡用の切手などの費用が必要です。

  • 申立手数料 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手
  • 登記手数料 収入印紙1400円分

このほか、本人の判断能力を判断するための鑑定をする必要がある場合には、鑑定費用がかかります。ただし、任意後見の場合には、原則鑑定までは要しないとされています。医師による診断書で足ります。

審理の内容

任意後見監督人選任の申立ての審理では、調査官による本人・任意後見受任者・任意後見監督人候補者の面接や調査、親族への照会が行われます。

調査

家庭裁判所調査官が本人や関係者に、申立てに至った事情、本人の生活状況、判断能力、財産状況、本人の親族の意向などを問い合わせます。

審問

必要がある場合は、裁判官が本人と面接して陳述を聴取します。

親族への照会

本人の親族に、書面などで、申立ての概要や成の候補者の使命を伝えて、意向を照会することがあります。

鑑定・診断

必要に応じて、本人の判断能力についてより正確に把握するために、鑑定が行われることがあります。

審判・登記

調査や鑑定が終了すると、家庭裁判所は任意後見監督人を選任する審判をして、審判内容を任意後見監督人のみならず本人や 任意後見受任者に通知して、審判内容が登記されます。

任意後見と併用/代わりに利用できる手段

「判断能力が十分な段階から財産管理を任せたい」「自分が死んだ後の財産の管理も任せたい」。こうしたケースは、任意後見契約では対応できません。 任意後見契約だけではカバーできない希望がある場合は、見守り契約や財産管理委任契約など、他の契約と併用することを検討してみてもよいでしょう。

見守り契約

任意後見制度の場合は、実際に任意後見が始まるのが本人の判断能力が衰えてからです。 となると、任意後見契約締結以降は、誰かが本人の判断能力を見守っていないと、本人の判断能力が低下した場合にも気づかれずにそのまま放置されてしまう危険があります。 そのため、普段から、本人と定期的に連絡をとり、本人の生活や健康状態を把握するするのが、見守り契約です。 したがって、任意後見契約を結ぶのと同時に、見守り契約も結び、適時の任意後見監督人選任申立ての義務をも定めておくのが望ましいと考えられます。

財産管理委任契約

財産管理委任契約とは、任意後見制度が始まる前に判断能力が衰える前から、財産管理などを信頼できる人に任せたい場合に締結する契約のことです。 任意後見契約は公正証書を作成しなければなりませんが、財産管理委任契約は、必ずしも公正証書にする必要はありません。 ただし、任意後見契約も財産管理委任契約(任意代理契約)も、契約を結ぶ段階では本人の判断能力が必要となります。

死後事務委任契約

死後事務委任契約とは、亡くなった後の諸手続(老人ホーム等の施設利用料や医療費、家賃・地代・管理費等の支払いなど)や、葬儀、納骨、埋葬に関する事務などの死後事務を委任する契約をいいます。 任意後見契約は本人の死亡によって終了するので、葬儀、納骨、埋葬などの死後の事務処理を委任することができません。 ですから、葬儀や遺品整理、役所への届出などの死後の事務や財産管理を委任したいときには、この死後事務委任契約を結んでおくとよいでしょう。

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