遺産分割協議の進め方
有効な遺言書が存在する場合は、基本的には遺言の内容にしたがって相続人の間で遺産を分けることになります。 一方、遺言が存在しない場合は、まずは相続人同士の話し合いで遺産をどう分けるかを決めていくことになります。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。
まずは「相続人」を確定させる
遺産分割協議は、相続人全員ですすめる必要があります。相続人の一部が参加しないでされた遺産分割協議は無効になってしまう可能性があるからです。
遺言がない場合、誰にどのくらい遺産を相続させるのかは、原則として民法のルールにしたがって決まります(法定相続)。
配偶者(妻・夫)、子どもなど、被相続人との関係によって優先順位や相続できる遺産の割合が決まっています。次の図のような関係になっています。
法定相続人と法定相続分について詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。
被相続人が残した「遺産」を確定させる
相続人を確定させたら、次に、分割する遺産の内容を確認します。現金や不動産などプラスの財産だけではなく、借金などマイナスの財産もすべて洗い出します。 たとえば、プラスの財産にあたるのは次のものです。
項目 | 具体例 |
---|---|
金銭 | 現金、預貯金など |
不動産 | 土地、家屋、建物、畑、山林、借地権、借家権など |
動産 | 自動車、家財道具、骨董品、貴金属など |
有価証券 | 証券、株券、小切手など |
その他 | ゴルフ会員権、特許権、著作権など |
これに対して、マイナスの財産は次のようなものです。
項目 | 具体例 |
---|---|
負債 | 借金、ローン、保証債務など |
未払金 | 未払いの税金、未払いの家賃、未払いの医療費(入院費など)など |
遺産の内容を確認したら、それを一覧にまとめた相続財産目録を作ることをおすすめします。 絶対に作らなければならないわけではありませんが、目録を作成しておくと、どんな遺産があるのか一目で確認でき、遺産分割をスムーズに進める助けになります。
遺産分割の方法
遺産の内容を確認したら、相続人同士でどのように分けるかを決めます。主な遺産分割の方法は、1.現物分割(げんぶつぶんかつ)、2.換価分割(かんかぶんかつ)、3.代償分割(だいしょうぶんかつ)の3種類です。
現物分割は、「あの土地はAさんに、この株式はBさんに…」というように遺産そのものを分配する方法です。
換価分割は、土地や株式などを売却して、いったんお金に変えて、それを分配する方法です。
代償分割は、「この土地をAさんに分配すると、Aさんが相続分以上に遺産を受け取ることになってしまう…」といった場合に、Aさんが土地をもらう代わりに、「とりすぎ」の分を他の相続人に金銭などで補てんする方法です。
民法には、「法定相続分」や「遺留分」など遺産の取り分に関するルールがありますが、相続人全員の合意があれば、これらのルールとは異なった取り分で遺産を分けることができます。
「遺産分割協議書」の作り方
遺産の分け方について、相続人同士での話し合いがまとまったら、協議の内容を文書にまとめた「遺産分割協議書」を作ります。 遺産分割協議書を作ることは義務ではありませんが、作っておくことで、相続人全員の同意を得た上で遺産を分割したことが証明でき、のちのトラブルを防止するうえで役にたちます。 また、遺産分割協議書は、「誰が・何を相続したのか」ということを対外的に示す資料になります。銀行などで亡くなった人の預貯金を引き出すときや、不動産の名義を変更するときに、提出を求められる場合があるため、作成しておくことをおすすめします。
遺産分割協議書に書いておくべき内容
遺産分割協議書には、法律で決められたフォーマットはありません。手書きでもパソコンでも作成できます。 相続人以外の第三者が見ても内容が明確に理解できるように、次のポイントはおさえておくことをおすすめします。
- 書面のタイトルを「遺産分割協議書」にする
- 協議の日付
- 被相続人(亡くなった方)は誰か
- 相続人は誰か(住所も記載する)
- 不動産が相続財産に含まれている場合には、登記簿謄本や権利証を確認し、その内容を記載する。
- 相続財産(プラス財産もマイナス財産も)はもれなく記載されているか
- 誰が、どの財産を取得するのか明確になっているか
- 相続人全員の署名・押印があるか
借金は遺産分割の対象にならない
借金などの債務は遺産分割の対象にならず、それぞれの法定相続分にしたがって、相続人が負担することになります。 なぜなら、相続人間の遺産分割協議の結果によって、特定の相続人にしか請求できないとすれば、その相続人に十分な財産がないおそれがあり、債権者の利益を害するからです。 ただし、遺産分割協議で特定の相続人が債務を負担することを決めておけば、相続人同士の合意としては有効です。 ややこしいですが、「相続人同士では債務の負担の取り決めを主張できるけれど、対外的にはそのことを主張できない」ということです。 たとえば、借金が120万円あるAさんが亡くなって、Bさん、Cさん、Dさんという3人の子どもが相続人だったとしましょう。 そして、「Bさんが借金120万円を全て負担する」ということを遺産分割協議で決めたとします。 この場合でも、借金の貸主から返済を求められたら、CさんとDさんは返済を拒むことはできません。それぞれ40万円ずつ、貸主に返済する必要があります。 一方で、B・C・Dの三者の間では、「Bさんが全て負担する」という約束は有効なので、CさんとDさんは、Bさんに対して、自分たちが支払った40万円を補てんするよう求めることができます。 借金などのマイナスの財産を一切引き継ぎたくないという方は、相続する権利を放棄する「相続放棄」という手続きをしておく必要があります。 相続放棄について詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。
話し合いがまとまらない場合は、調停・審判へ
遺産の分け方について、話し合いではまとまらない場合、家庭裁判所での「調停」か「審判」という手続きを利用することができます。 調停では、裁判官と専門知識がある調停委員が間にはいり、対立している相続人の言い分をそれぞれ聞いた上で、客観的で公平な観点から遺産の分け方についてアドバイスをしてくれます。 調停はあくまで話し合いでの解決をめざす制度なので、調停委員の示す遺産分割案に相続人が一人でも反対した場合は、調停は不調に終わります。 その場合、原則として手続きは審判に移り、どのように遺産を分割するか、裁判所に判断してもらうことになります。 遺産分割調停・審判について詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。