相続

弁護士監修記事 2017年07月10日

「法定後見」の仕組みと制度を利用するときの手続きの流れ

親が認知症になり、物事を適切に判断できなくなっているようだ。悪質な訪問販売業者にだまされて高額なものを買ってしまうかもしれない。自分はそばにいられないが、親を1人にしておくのは不安ーー。 そのような場合に、家庭裁判所に選ばれた人が、判断能力が衰えた人の財産を管理したり、不本意な契約を取り消したりする制度があります。「法定後見」という制度です。 この記事では、法定後見制度とはどんな制度で、どのような支援を受けられるかを詳しく解説します。

目次

  1. 法定後見制度とは
  2. 成年後見・保佐・補助の内容
    1. 判断能力の程度によってサポートの内容が変わる
    2. 成年後見
    3. 保佐
    4. 補助
    5. 成年後見人に報酬を払う必要がある
    6. 後見人への報酬が支払えるか不安がある場合
    7. 相続対策が難しくなるデメリット
    8. その他制度を利用する上で知っておきたいこと
  3. 法定後見制度を利用するために必要な手続き
    1. 申立てができる人
    2. 申立てに必要な書類
    3. 後見人等になれない人
    4. 申立てにかかる費用
    5. 法定後見の申立てから法定後見が始まるまで
  4. 詳しく知りたい方へ

法定後見制度とは

alt 法定後見制度とは、認知症や知的障害などで判断能力がない、もしくは不十分な人を、家庭裁判所に選ばれた親族や弁護士などが支援する制度です。判断能力の程度によって、「成年後見」「保佐」「補助」の3つの制度が用意されています。 支援の内容として、次のようなことが挙げられます。

  • 通帳などの保管
  • 施設費や入院費、税金の支払い
  • ヘルパーなどの介護サービスを利用するかどうかの判断、契約
  • 介護施設に入るかどうかの判断、契約

法定後見制度を利用するためには、判断能力が衰えた人自身・その家族などが、家庭裁判所でこの制度を利用するための申立手続を行います(成年後見・保佐・補助開始の審判の申立)。 申立手続をすると、家庭裁判所が、成年後見人・保佐人・補助としてふさわしい人を選びます。司法書士や弁護士などの専門家、親族などが支援者に選ばれるケースが多いです。

本人の状態 支援する人の種類 申し立てる審判
判断能力を欠いている 成年後見人 後見開始の審判
判断能力が著しく不十分 保佐人 保佐開始の審判
判断能力が不十分 補助人 補助開始の審判

成年後見・保佐・補助の内容

alt

判断能力の程度によってサポートの内容が変わる

支援を受けることになる人を、それぞれ「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」といいます。 一方、支援する人を、それぞれ、「成年後見人」「保佐人」「補助人」といいます。 被後見人らをサポートするために、成年後見人らには次のような権利が与えられます。

  • 代理権 …ものの売買やアパートを借りるなどの行為を、本人のために本人に代わって行う権利です。

  • 同意権 …本人が契約などをするときに、その行為が本人にとって不利益でないかを検討して、問題がなければ同意する権利です。

  • 取消権 …本人が勝手に結んだ契約などの法律行為を取り消す権利です。

「成年後見人」「保佐人」「補助人」が行使できる権利は、以下のようになっています。

代理権 同意権 取消権
成年後見人 ×
保佐人
家庭裁判所の審判で
与えられる
補助人
家庭裁判所の審判で
与えられる

家庭裁判所の審判で
与えられる

家庭裁判所の審判で
与えられる

成年後見

成年後見の対象となるのは、重度の認知症にかかるなどして、ものごとを判断する能力が全くない状態の人です。 成年後見の手続きを利用した場合、本人は、食料品の買い物など日常生活に関すること以外の行為が制限されます。 成年後見人は、こうした権利を制限された成年被後見人のために、不動産の売買やお金の貸し借りといった、本人の財産に関するすべての法律行為を、本人の代わりに行ないます。 また、成年後見人は、本人が勝手に結んでしまった契約などの法律行為を取り消すことができます。ただし、食料品の購入など、日常生活に関する行為を取り消すことはできません。

保佐

保佐の対象となるのは、認知症などの影響で、判断能力がまったくないわけではないけれど、著しく不十分という状況の人です。 支援者である保佐人は、本人が次の9つの行為をする場合に、同意するかどうか判断し、同意なしに行われた行為について取り消すことができます。

  • 貸した土地、建物、お金を返してもらったり、それらを他人に貸したり預けたりすること
  • お金を借りたり、保証人になったりすること
  • 不動産や高価な財産を売買したり、他人に貸したりすること
  • 訴訟を起こしたり、取り下げたりすること
  • 贈与や和解、仲裁の合意をすること
  • 相続の承認や放棄、遺産分割をすること
  • 贈与や遺贈を断ったり、負担の付いた贈与や遺贈を受けたりすること
  • 新築、改築、増築や大修繕をすること
  • 一定の期間を超える賃貸借契約をすること

また、保佐人であっても、「本人に代わって法律行為を行う」という代理権を持つ場合もあります。この代理権の範囲は、本人の同意の上で、裁判所に決めてもらうことになります。

補助

補助の対象となるのは、判断能力が不十分な人です。初期の認知症や軽度の知的障害などの人が対象です。 必ずしも認知症などと診断されている必要はなく、物忘れが多くなってきた人や、認知症の疑いがある人などでも利用することができる可能性があります。 このほかにも、自分の消費行動をコントロールできない、いわゆる「買い物依存症」の方なども、制度を利用できる可能性があります。 補助は、成年後見や保佐と違い、本人の同意がなければ利用することができません。つまり、家族などが補助の制度を利用したいと考えても、本人が納得しなければ制度を利用することはできないということです。 補助の場合、さきほどの9つの行為のうち、本人が同意した行為に限って、補助人に同意する権利や、同意なしに行われた行為について取り消す権利が与えられます。 一方で、代理することができる行為の範囲については、本人の同意の上で、裁判所に決めてもらうことになります。

成年後見人に報酬を払う必要がある

成年後見人や保佐人・補助人の報酬は、家庭裁判所に申し立てて審判で決めてもらう必要があります。本人や親族が自由に決めることはできません。 また、弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれたときでも、その専門家の職種によって報酬額が高額になるということはありません。 報酬の額は、後見人が行った後見事務財産管理や身上監護の内容や、本人の財産状況などを家庭裁判所が総合的に考慮して決まります。 通常の後見事務を行ったときの報酬は、月額2万円程度です。 ただし、専門性の高い複雑な後見事務が求められるケースや、管理する財産の額が多額になるケースでは、事務も複雑になることから、報酬額も比較的高額になります。

報酬を受け取るためには、後見人等が家庭裁判所に報酬付与を申し立てる必要があります。

報酬は、後見事務の報告書を家庭裁判所に提出するときや、後見人を辞任するときなど一定の事務を行われたあとに、後払いの形で請求されます。 家庭裁判所は、後見人として働いた期間や管理した財産の額、報告書などの内容を考慮して、「報酬を支払うべきか」「支払うとしたら、いくらの報酬とすべきか」を決めることになります。

基本報酬

基本報酬とは、通常の後見事務を行ったときに支払われる報酬のことです。管理する財産の額が1,000万円以下であるときの基本報酬のめやすは、月額2万円程度です。 管理財産額が高額なときは財産管理事務が煩雑になるケースが多いので、報酬も比較的高額になります。これは保佐人や補助人も同じです。 ちなみに、東京家庭裁判所では、管理財産額に応じて以下のように基本報酬額の目安を設けています。

  • 管理財産額が1,000万以下のとき……月額2万円
  • 管理財産額が1,000万円を超え5,000万円以下のとき……月額3万円~4万円
  • 管理財産額が5,000万円を超えるとき……月額5万円~6万円

成年後見人等の報酬額のめやす

付加報酬

付加報酬とは、身上監護などに特別困難な事情があったケースに追加される報酬のことをいいます。 付加報酬の額は、基本報酬額の50パーセントの範囲内で裁判所が事案ごとに決定します。

後見人への報酬が支払えるか不安がある場合

成年後見制度を利用する必要があるのに、後見人への報酬が支払えないという事情がある人は、さまざまな助成制度を利用することができます。

成年後見制度利用支援事業

成年後見制度利用支援事業とは、成年後見制度を利用するときに必要となる費用の全部または一部を補助する厚生労働省の事業です。 介護サービスを利用しているときに市町村長に申し立てると、成年後見にかかる費用(申立てに要する経費(登記手数料、鑑定費用など)、後見人らの報酬など)を補助してくれます。 対象者は、成年後見制度を利用することが有用であると認められる人で、費用の補助を受けなければ、成年後見制度の利用が困難であると認められる人です。

成年後見助成基金

成年後見助成基金とは、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートが設定した基金です。 所得が少ない人が対象で、後見人(親族以外の個人に限定)へ支払う報酬(報酬付与審判申立てをしていない期間で最長5年分が対象。原則として月額1万円が限度)が助成されます。 後見開始等の申立費用や申立ての際に弁護士・司法書士などの専門家へ支払った報酬の扶助は受けることができません。 「成年後見制度利用支援事業」と異なり、介護サービスの利用や市町村長の申立ては必要ありません。

民事法律扶助

日本司法支援センター法テラスの民事法律扶助とは、経済的に余裕がない方が法的トラブルにあったときに、無料で法律相談を受けられたり、弁護士・司法書士の費用の立替えができる制度です。 民事法律扶助では、後見等開始等の申立実費や、申立ての際に弁護士・司法書士へ支払った報酬の扶助は受けることができますが、後見人に支払う報酬の扶助は受けることができません。

相続対策が難しくなるデメリット

様々な支援を受けることができる法定後見制度は、判断能力が衰えた人やその家族などにとって心強い制度といえますが、デメリットもあります。 成年後見制度は本人の権利を守るための制度です。 本人の財産は、本人のためにしか使うことができなくなります。また、財産の運用は基本的にできなくなり、元本が保証されたものなど、安全確実な方法でなければ認められません。 そのため、相続税対策のために生前贈与をしたい、不動産を現金化するなどして遺産分割しやすいようにしておきたいと考えても、認められない可能性があるのです。 制度を利用するかは、こうした点を考慮した上で検討することをおすすめします。

その他制度を利用する上で知っておきたいこと

成年後見や保佐の対象となる人は、制度の利用が始まると、医師や税理士、弁護士などの資格や公務員、会社役員の地位を失います。補助の場合は、資格を失うことはありません。

法定後見制度を利用するために必要な手続き

alt 法定後見制度を利用するためには、本人の住所地(住民登録をしている場所)を管轄する家庭裁判所に申立て、後見開始の審判を受ける必要があります。

申立てができる人

申立てができるのは、本人、配偶者、4親等内の親族などです。親族がいない人や、親族による申立てが難しい場合には、市区町村長、検察官が申立てをすることができます。 親等

申立てに必要な書類

申立てには、申立書のほか、医師の作成した診断書や親族関係図などの書類が必要です。 申立書には、成年後見人等の候補者を書くスペースがあります。成年後見人等になることを希望する人(親族や司法書士、弁護士など。申立人もOK)の名前や経歴等を書き、裁判所に提出します。 家庭裁判所は、必要があれば本人や親族と面談し(本人が家庭裁判所に行くことができない場合には、本人のところに裁判所の担当者が出向いて面談を行うこともあります)、もっとも適切だと思われる人を成年後見人等として選びます。 そのため、候補者として申立書に名前を書かれた人が、絶対に後見人等に選ばれるとは限りません。 候補者にふさわしい親族や依頼できる専門家がいない場合には、候補者のスペースを空欄にしたまま申立書を提出します。 この場合、家庭裁判所が、司法書士、弁護士、社会福祉士といった専門家の中から、後見人等としてふさわしい人を選びます。 なお、本人の財産が多い場合や推定相続人間で争いがある場合には、親族を候補者として記載しても、専門家が後見人に選ばれます。

後見人等になれない人

以下のような条件に当てはまる人は、後見人等になることができません。

  • 未成年者
  • 後見人等を解任された人
  • 破産者で復権していない人
  • 支援を受ける本人に対して訴訟をしたことがある人、その配偶者または親子
  • 行方不明の人

申立てにかかる費用

申立てには、収入印紙(800円〜)や連絡用の切手代(3000〜5000円程度)などが必要です。支援を受ける本人の判断能力がどのくらいかをはかる鑑定が必要な場合には、その費用(5〜10万円程度)がかかることもあります。

法定後見の申立てから法定後見が始まるまで

法定後見開始の申立てがなされると、家庭裁判所の調査官が、支援を受ける本人と面接して意向を聞くなどして、後見人等の候補者となった人の適性などを調査します。 必要に応じて、本人の判断能力がどのくらいかをはかる鑑定が行われたりするなど、調査官が親族の意向を聞く場合もあります。 その後、「後見開始の審判」が行われ、家庭裁判所の調査や判断の結果が示されます。審判とは、家庭裁判所が出す判断で、裁判の一種です。 審判では、申し立てられた類型(後見・保佐・補助)や、同意権、取消権、代理権を後見人等に与えることが適切かどうかといった点について、家庭裁判所が判断を示します。誰を後見人等にするかも決まります。 後見人等として複数の人が選ばれたり、後見人等を監督する人が選ばれたりすることもあります。保佐や補助が始まる場合には、必要な同意権や代理権の範囲についてもここで決まります。これらの審判により、法定後見を利用できるようになります。 申立てから法定後見の利用を開始するまでにかかる期間はケースバイケースですが、通常は、2〜3か月以内で審判がなされることが一般的です。

詳しく知りたい方へ

成年後見・保佐・補助のそれぞれについて、さらに詳しく知りたい方は、この記事の下の「次に読みたい記事」をご覧ください。

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