特別受益

弁護士監修記事 2018年09月28日

特別受益とは|一部の相続人が生命保険金を受け取っていた場合の遺産分割

「3人兄弟の中でひとりだけ、被相続人が亡くなった時に高額な生命保険金を受け取った」ーー。 このようなケースで、法定相続分に従って遺産を分けると、不公平に感じる相続人もいるでしょう。 そうしたとき、「特別受益」という仕組みと同様の理屈で、不公平感を調整できる場合があります。 この記事では、生命保険金が特別受益と同様に扱われる場合の基準などについて示した裁判所の判断などについて詳しく解説します。

目次

  1. 遺産相続の不公平感を調整する「特別受益」
  2. 特別受益があるときの相続分の計算方法
    1. 「持戻し」の計算例
  3. 生命保険金が特別受益に該当するケース
    1. 生命保険金が持戻しの対象になると認めた裁判例①
    2. 生命保険金が持戻しの対象になると認めた裁判例②
    3. 生命保険金が持戻しの対象にならないと判断した裁判例
    4. 特別受益の判断は専門的な知識が必要

遺産相続の不公平感を調整する「特別受益」

特別受益とは、被相続人から援助を受けた相続人の相続分を減らして、それ以外の相続人の相続分を増やすといった調整をする仕組みです。 どのような援助が特別受益にあたるかは、援助の内容や、金額、その他にも様々な事情によって異なります。 生命保険金は被相続人が亡くなった後に受け取るので、一般的には特別受益にはあたりません しかし、最高裁は、一定の場合に、特別受益と同様に扱うべきという判断を示しています(最高裁の判例については、後で紹介します)。

特別受益があるときの相続分の計算方法

特別受益にあたる生命保険金を受け取った相続人がいる場合、相続分は以下のような手順で計算します。

  1. 遺産の総額に特別受益にあたる生命保険金の額を加える(援助の額を加えた遺産の総額を「みなし相続財産」と言います)
  2. みなし相続財産を各相続人の法定相続分で分割する
  3. 生命保険金を受け取った相続人は、生命保険金の額を相続分からマイナスする

これらの手順で計算することを「持戻し」といいます。

「持戻し」の計算例

以下のケースを例に持戻しの計算をしてみましょう。

  • 相続人は被相続人の配偶者Aと、被相続人の弟B
  • 遺産の総額は1000万円
  • Aは800万円の生命保険金を受け取っていた

法定相続分のとおりに分けた場合

法定相続分のとおりに分けると、Aが750万円(3/4)、Bが250万円(1/4)を相続することになります。 Aが800万円の生命保険を受け取っており、特別受益にあたると認められた場合、取り分は次のように計算します。

1. 遺産の総額に特別受益にあたる援助の額を加える

Aが受け取っていた生命保険金が持戻しの対象になる場合、みなし相続財産は以下のように計算します。 1000万円 + 800万円 = 1800万円

2. みなし相続財産を各相続人の法定相続分で分割する

次に、法定相続分に従ってみなし相続財産を分割します。 法定相続分はAが3/4で、Bは1/4です。 A:1800万 × 3/4 = 1350万円 B:1800万 × 1/4 = 450万円

3. 特別受益を受けていた相続人は、援助の額を相続分からマイナスする

Aは、相続分(1350万円)から生命保険金の額(800万円)をマイナスします。 A:1350万円 ー 800万円 = 550万円 まとめると、このケースでは、遺産を法定相続分通りに分けた場合と、特別受益が認められた場合とでは、次のように差が出てきます。

法定相続分で分けた場合 特別受益が認められた場合
A(特別受益) 750万円 550万円
B 250万円 450万円

法定相続分を超える特別受益がある場合の相続分はゼロ

法定相続分によってもらえる遺産より多くの援助(特別受益)を受けていた相続人がいる場合、持戻しの計算をすると、その相続人の相続分はマイナスになります(超過特別受益)。 ただし、超過特別受益にあたる相続人の相続分はゼロになるだけで、他の相続人にマイナス分を返還する必要はありません。

生命保険金が特別受益に該当するケース

生命保険金が特別受益に該当するかどうか判断した最高裁判所の判例があります。 簡単に説明すると、この判例では、保険金を受け取った相続人と他の相続人との間に著しい不公平があると評価できる「特段の事情」がある場合には、生命保険金も特別受益と同じように持戻しの対象となると判断しました。 「特段の事情」があるかどうかは、以下のような様々な事情を考慮するとしています。

  • 保険金の額
  • 保険金の額と遺産の総額を比べたときの割合
  • 保険金を受け取る相続人やその他の相続人、被相続人の関係(被相続人との同居や、被相続人に対する介護など)
  • 各相続人の生活実態

この判例のケースでは、特段の事情があるとはいえないとして、生命保険金の受け取りは特別受益にあたらないと判断されました。 この最高裁の判例を踏まえて、様々な裁判例でも、生命保険金が特別受益に準じて持戻しの対象になるかどうかについて、判断されています。 ここでは、生命保険金が持戻しの対象になると認めた裁判例と、認めなかった裁判例をそれぞれ紹介します。

生命保険金が持戻しの対象になると認めた裁判例①

生命保険金が持戻しの対象になると認めた事例①(東京高裁平成17年10月27日決定)・遺産の総額は約1億134万円
・生命保険金は約1億129万円
・相続人は被相続人の子どもであるA・Bの2人
・生命保険金はAが全額を受け取っていた

裁判所の判断としては、遺産の総額と生命保険金の額がほぼ同額なことなどの事情を考慮して、生命保険金が持戻しの対象になる判断しました。

生命保険金が持戻しの対象になると認めた裁判例②

生命保険金が持戻しの対象になると認めた事例②(名古屋高裁平成18年3月27日決定)・遺産の総額は約8423万円
・生命保険金は約5154万円
・相続人は被相続人の配偶者Aと、子どもであるC・Dの3人
・生命保険金はAが全額を受け取っていた

裁判所の判断としては、生命保険金の額が遺産の総額の約61%と高額なことなどを考慮して、生命保険金が持戻しの対象になると判断としました。

生命保険金が持戻しの対象にならないと判断した裁判例

生命保険金が持戻しの対象にならないと判断した事例(大阪家裁堺支部平成18年3月22日決審判)・遺産の総額は約6963万円
・生命保険金は約428万円
・相続人は被相続人の子どもであるA・B・C・Dの4人
・生命保険金はAが全額を受け取っていた

裁判所の判断としては、生命保険金の額が遺産の総額の約6%に過ぎないことなどを考慮して、生命保険金が持戻しの対象にならないと判断しました。 このように、裁判所は遺産の総額から見て、生命保険金の額がかなり高額な場合には、持戻しの対象になると判断する傾向があるようです。

特別受益の判断は専門的な知識が必要

「生命保険金を特別受益と認めるかどうか」については、相続人同士の話合いで決めることができます。 相続人同士の話合いで合意できなければ、家庭裁判所に調停を申し立てます。 調停は、裁判官と調停委員が相続人同士の間に立ち、それぞれの事情を聴いた上で合意に向けた話合いを進める手続きです。 調停でも話合いがまとまらなければ、審判に移行します。審判では、遺産の分け方の判断について裁判官に委ねることになります。 ただし、特別受益に該当するかの判断には様々な事情が考慮されるので、調停や審判になった場合でも、必ずしも自分に有利な結論が得られるとは限りません。 どのような事情があり、その事情が自分にとって有利となるのか不利となるのかの判断には、専門的な知識が必要です。 特別受益に該当するかどうか迷った場合には、弁護士などの専門家に相談することを検討してもよいでしょう。

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