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竹中平蔵氏の「月7万円」ベーシックインカム論が炎上…導入は本当に不可能なのか?

新型コロナウイルス感染症による緊急経済対策として、全国民に一律10万円の定額給付金が支払われました。1回限りの給付とは言え、全国民一律に10万円を支払うというのは前例のないことであり、ベーシックインカム導入について関心が高まっています。

帝国データバンクの調査によると、2020年9月30日時点で、業績の下方修正をした上場企業は1099社にのぼり、修正額は10兆円を超えます。新型コロナウイルスは、国内経済に大きなダメージを与えており、倒産企業なども今後増えていくことが予想されます。

そうした中、小泉政権で経済財政担当相を務めた竹中平蔵氏は、「マイナンバーカードと銀行口座をひも付けることを条件に、ベーシックインカムを導入したらどうか」と提案しています。BS番組で「国民全員に毎月7万円支給」とパネルで紹介したことがSNSで広がり、「それだけでは暮らせない」と反発の声があがりました。

竹中氏は、J-CASTニュースの取材に対し、「『1人7万円で生活できる』と言ったことはまったくありません。平均で7万円レベルなら、財政的に大きな負担にならない、と申し上げたんです」「税金を増やしていいなら、支給を大きくできますが、スイスでは反対があってとん挫しています。実際の支給水準は国民の合意で決めることになると思います」と話しています。

ベーシックインカムについては、財源の問題や社会保障を廃止することにつながるとして否定的な意見もありすが、導入は非現実的なのでしょうか。(ライター・メタルスライム)

●財政的な問題がなければ、効果はある

ベーシックインカムとは、所得の違いに関わらず全ての国民への所得保障として、一定額を給付する制度です。ベーシックインカムの起源は、1516年のトマス・モアの著書「ユートピア」にあるとする見解と、1791年のトーマス・ペインの著書「人間の権利」にあるとする見解があります。いずれにせよ、かなり昔から発想自体はあったことになります。

日本では、憲法25条において、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定していることから、ベーシックインカムを導入する場合、これが法的根拠となります。

現在においては、生活保障は、「生活保護」や「年金」などの社会保障に委ねられていますが、社会保障は、所得が増えるとその分給付が減らされるという性質があるため、一度生活保護を受給してしまうと、そこから抜け出すことが難しいという問題があります。また、個別に給付の要件を満たすか審査が必要になるため、莫大な行政コストがかかっています。

生活保護については、生活保護を受給することに負い目を感じ、生活が苦しくても給付を受けない人も多くいると言われています。国立社会保障・人口問題研究所の生活保護に関する「世帯類型別被保護世帯数及び世帯保護率の年次推移」を見ると、2016年度で保護率は「32.6%」にすぎません。つまり、保護されるべき人の内、約3割しか生活保護を受けていないのです。

ベーシックインカムという考え方は、世界的にも注目されており、フィンランドやカナダでは実証実験も行われました。この実験でわかったことは、ベーシックインカムを受けたとしても雇用は減らず、健康的になり幸福感が増したということです。

一方、財政負担が大きいことからいずれも実験は途中で中断しており、十分な給付を継続することは財政的にかなり難しいということもわかりました。

(参考資料1) (参考資料2)

つまり、財政的に問題がないのであれば、ベーシックインカムを実施することに効果はあるということです。

●ベーシックインカムのメリット・デメリット

1 メリット

①貧困者の救済

隠れた貧困層や負い目を感じて生活保護を受給していない人たちを救うことができます。前述のとおり、生活保護受給率は3割と低く、本来受給できる世帯でも受給していないことが多いのが実体です。条件なしで一律支給することで経済的弱者が負い目を感じることなく給付を受けられるというメリットがあります。

②起業の増加

日本は起業する人が少ないと言われていますが、それは起業による収入減を恐れているからです。ベーシックインカムにより、一定の収入が確保できるのであれば、思い切って起業する人が増えることが予想されます。起業が増えれば、新たなビジネスが生まれるので経済が活性化することが期待できます。

③働き方改革の推進

ベーシックインカムによって、一定の収入が確保されていれば、ブラック企業に勤め続ける必要はなくなるので、そのような企業は淘汰されます。また、生活のため夢をあきらめ、好きではない仕事をしている人もいると思いますが、一定の収入があることでやりたい仕事にチャレンジすることができるようになります。

④学習機会の増加

勉強したいことがあっても、生活のため仕事に追われて勉強ができないという人も多いと思いますが、一定の収入があることで、忙しくない仕事を選択するなどして、学習時間を確保することができるようになります。

⑤行政コストの削減

今の日本では、年金、生活保護、雇用保険など行政機関が内容を審査し、管理することが必要なため、多くの公務員が関与し、莫大な費用がかかっています。ベーシックインカムを導入することで、社会保障給付が減れば行政コストを大幅に削減することができます。

⑥地方創生・活性化

今は雇用の多い都市部で働く人が多いですが、ベーシックインカムにより一定の収入があれば、高い家賃の都市部に住む必要性はなくなり、家賃の安い地方への移転が増えることが期待できます。

⑦犯罪の減少

お金が無くて窃盗や強盗などを行うというケースは多いわけですが、ベーシックインカムにより一定の収入があれば、犯罪が減ることが期待できます。

⑧少子化対策

少子化の原因は様々ありますが、将来の不安から「結婚できない」あるいは「子どもを産めない」ということがあります。ベーシックインカムにより将来の不安が解消すれば少子化対策にもなります。

2 デメリット

①勤労意欲の減退

毎月一定の収入が入るようになると働かなくなる人が増えるという懸念があります。

②莫大な財源が必要(増税の懸念)

莫大な支出が発生するので、その財源をどうするのかという問題があります。

③社会保障の縮小

反対派からは、ベーシックインカムが導入されると社会保障給付が削減されてしまい、今以上に生活が厳しくなるとの批判があります。

④賃下げの懸念

一定の給付があることから、企業は最低賃金ギリギリの額しか支払わなくなる可能性があります。ただ、雇用流動性が高まるため、給与が上がるとの見方もあります。

●一律10万円の定額給付金は、ベーシックインカムと同じ考え

ベーシックインカムは、以上のとおりメリットが多く、外国の実証実験でも、幸福感が増し、健康的になったとの意見が多くみられます。懸念されている「労働しなくなる」という問題も顕著には表れず、大きな問題にはならないようです。

結局のところ、ベーシックインカムを実施する場合、今の生活保護受給額や年金額よりも下がることになるのではないかという点と、財源を確保できないのではないかという点がクリアになるかどうかということになります。

山崎元氏の試算によれば年金・生活保護・雇用保険・児童手当や各種控除をベーシックインカムに置き換えることで、1円も増税することなく日本国民全員に毎月に4万6000円のベーシックインカムを支給することが可能であるとしています。したがって、行政コストを削減し多少増税すれば、毎月7万円程度のベーシックインカムは実現可能ということになります。

もっとも「月7万円」では生活できないという意見もあります。たとえば、生活保護費が月11万円だとしたら、4万円不足するわけですが、不足分については生活保護をこれまでどおり支給すれば問題は解決します。そうすると行政コストの削減ができないのではないかという反論が考えられますが、今の生活保護の問題は、働くと給付が削減されることにあります。

働くと給付が削減されるため働かないという人が多いのです。それに対し、ベーシックインカムは働いても給付制限はないので、7万円が支給されれば、月4万円位働くという人はいるはずです。つまり、生活保護は残したとしても、その申請をする人はかなり減るはずです。そのため、行政コストは大幅に減らせるのではないかと思います。

日本では緊急事態宣言に伴う一律10万円の定額給付金が支給されましたが、これがベーシックインカムと同じ考えです。当初は社会保障的発想で困っている人に30万円の給付ということでしたが、これはすこぶる不評で、結局一律10万円の給付になったわけです。ところがこれを恒久化するとなるとなぜか反対意見が多いのです。

今回のコロナ禍では、今までできないと思われていたテレワークで意外に仕事ができることがわかり、菅政権になってあっという間に行政手続の9割のハンコがなくなろうとしています。「ベーシックインカムなど財政的に実現不可能だ」と思考停止するのではなく、どうすればできるのかを考えることが重要なのではないでしょうか。

●AIの発達で、働く必要のない時代が見えてきた

ベーシックインカムを導入すべき理由として、AIの発達と資本主義の限界があります。AIの発達により、将棋や囲碁の世界で人間がAIに勝てなくなってきています。無人カーによる配達の実証実験もスタートしており、ドライバーも不要になる時代がそこまで来ています。

将来的には知的労働のほとんどが「AI」に、肉体労働のほとんどは「ロボット」にとって変わられるとも言われています。そうなると、人はそもそも労働できなくなる可能性があるわけです。

また、欧米や日本では、長期金利の低迷が続いており、今後も高い成長が見込めないことを表しています。これは、資本主義において一定の成長が終わり、成熟期になるとそれ以上は成長が鈍化することにあります。日本では人口が減少しており、今後GDPも減少していくことが予想されます。

このように、先進諸国においては、資本主義の限界が近づいており、GAFAに象徴されるようにマーケットを制する者に冨が偏在する傾向が強まってきています。そのため、冨の偏在を解消するため、税を使って所得を配分する必要性が高まってきています。

反対論者が主張する「働かざる者食うべからず」というのは、今の社会状態が続くことを前提にしていますが、社会状況は日々刻々と変化しており、将来は、人間が働くこと自体、珍しいことになるかもしれません。

先進諸国では、将来AIとロボットが生産活動をし、人間はベーシックインカムにより得た収入で消費を行うというスタイルが定着するかもしれません。そのような時に備えて、今から、ベーシックインカムが実現可能かどうか、税率や社会保障のあり方について議論しておくということは決して無駄なことではないのではないでしょうか。

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