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「お先真っ暗」自虐ネタ満載の銚子電鉄が潰れないワケ 顧問税理士から転身、竹本社長が描いた「弱者戦略」

経営がまずいというネタを絡めたスナック菓子「まずい棒」や、サングラスやキーホルダーをセットにした「お先真っ暗セット」など、得意の自虐ネタを使った商品戦略で存在感を放つ千葉県銚子市のローカル鉄道「銚子電鉄」。売り上げの約8割は鉄道事業外の収入で、地域のインフラの鉄道事業を守るために「副業」で稼いでいます。社長の竹本勝紀氏には、税理士として地元の中小企業を支えてきたもう一つの「顔」があります。税理士のキャリアを鉄道会社の経営にどう生かしているのか、ざっくばらんに語ってもらいました。(ライター・国分瑠衣子)

●2006年からネット販売本格化「ポイントはキャッチコピーと見せ方です」

銚子電鉄は1923年(大正12年)に運行を開始した、銚子~外川間を結ぶ全長6.4キロのローカル線です。県境をまたぐ移動制限が全面解除され初の週末を迎えた6月20日、銚子駅を出発した2両編成の車内は、約60人の乗客でにぎわっていました。久々にたくさんの乗客を乗せて走る電車を、竹本社長は本社がある仲ノ町駅のホームから見守っていました。

画像タイトル 県境をまたぐ移動制限が解除された初めての週末とあって、銚子電鉄も久々に観光客でにぎわった

――最近はテレビや新聞に引っ張りだこですね。今日はたくさんの人が乗車していました。

「結構乗っていますね。皆さん気を遣ってくれているのかな。コロナ禍で乗降客数は前年比95.8%減とか、数えるのがむなしくなるぐらい減ってしまっていたので、本当にうれしいですね」

――厳しい経営状況を絡めた「自虐ネタ」の商品が多いです。「売るものがなくなってきたから」と電車の走行音や車内アナウンスの音まで売っています。なぜここまで自虐に走るのでしょうか。

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「自虐ネタは、他人を傷つけないからいいんです。お客さんにも笑ってもらえます。ネット販売を本格的に始めたのが2006年です。それほど大したサイトではないのですが、ネット販売がうまくいくポイントはキャッチコピーと見せ方だと思います。

例えば、スナック菓子『まずい棒』は、経営がまずいという自虐ネタで、2018年8月3日(破産の日)に発売しました。これまで約200万本を売り上げたヒット商品ですが、去年の台風と、今回の新型コロナウイルスの影響で在庫が大量に残ってしまった。賞味期限が迫ってきて、ツイッターで『まずい棒が在庫の山・・本当にまずい。ポチっと一袋お願いします』と訴えたら、たくさんの人が買ってくれて3日で完売しました。ネットの売り上げは6月の3週間で1000万円を超えました」

――中小企業ではネット通販に力を入れたくても、社内にサイトを管理する人材がいないという声を聞くことがあります。なぜ銚電はうまくいっているのですか。

「銚電の顧問税理士になる前から、他の顧問先企業の公式サイトを立ち上げたり、ネット販売を手伝っていたので、ノウハウはそこそこ持っていました。カード決済ができるようにしたり、サイトを訪れた人が、どのサイトから来たのかなどを追跡できるようにしたりしていました。

中小企業は経営が厳しい会社が少なくありません。税理士は顧問先に『会社存続には売り上げを増やすか、経費を削るしかない』と言いますが、そんなことはどの会社も分かっている。『顧問料を払っているのにそれはないよ』と言いたくなると思います。税理士は中小企業の駆け込み寺や町医者みたいなもので、どうやったら売り上げを伸ばせるか一緒に考えることが大事だと思っています」

――これまでどのように顧問先と関わってきたのですか。

「お客さんの売り上げを増やすことは税務ではないですが、付随業務です。限度はあるけれど、できる範囲でやってみようとビジネス書もかなり読みました。千葉県に多古米というブランド米があるのですが、江戸時代は将軍様に献上したお米でした。『世が世ならお殿様しか食べられぬ』というキャッチコピーを作り、米穀店の社長の顔写真を載せたチラシを作って配りました。20年ぐらい前の話です。

市場に花を卸す花卉(かき)農家が直販するために、私の顧問先のベーカリーの軒先を借りて、カーネーションをゲリラ販売したこともあります。屋外のテラス席で食べている人を狙って売って歩きました。消費者に直接売ることを覚えてもらいました」

●ある民事訴訟の被告になったことから、銚子電鉄のつながりが生まれた

――突然声をかけられたらつい買ってしまいそうです。

「試食販売にも極意があるんですよ。例えば銚子電鉄名物のぬれ煎餅。鉄道フェアなどのイベントでもハサミで切ったぬれ煎餅をタッパーに入れて、お客さんの口元に差し出すんです。そうするとパクっと食べてくれる。

試食販売のキラートークというのがあって、食べてもらった後に『おいしいでしょう?』って聞くんです。英語でいう“~isn’t it?”の付加疑問文です。お客さんはたいてい『おいしい』と言ってくれる。そこですぐに『おいしいですか、良かった~。じゃあ買ってください』と。『いかがですか?』って聞くと『まずい』と言われるかもしれないでしょう。

人は論理的な一貫性を持っています。もう一つは返報性の法則ですね。ごちそうになったのだから買わなければ悪いという気持ち、日本人にはあると思います」

画像タイトル 冗談を飛ばしながら、観光客にぬれ煎餅を勧める竹本社長

――コンビニでトイレを借りたから何かを買わなければという気持ちですね。どのような経緯で銚子電鉄での仕事を始めたのですか。

「過去に私が懇意にしていた顧問先から訴えられるトラブルがあって、民事訴訟の被告になったことがあります。最終的に和解に至りましたが、裁判終了後に原告側代理人の弁護士先生から電話があり、『経営がひっ迫した小さな鉄道会社があるんだけど、ぜひ竹本さんに会計や税務関係を見てもらいたい』と言われたのです。大変ありがたい話でした。当時勤めていた千葉市内の税理士事務所に当時の銚子電鉄の社長が来て『もはや倒産寸前で破産手続きをしようと思ったけれど、裁判所に納める予納金もない』と。そんな経緯から2005年に銚子電鉄の担当税理士になったのが始まりです」

――当時、銚子電鉄の経営状況はどうだったのですか。

「会計上の繰越損失が1億2000万円ほどあったので、会計上の赤字をきれいにすることから始めました。一方で黙っていてもお金は入ってはこないので、日本政策金融公庫から1500万円の融資を受けました。融資の際に物的担保が必要ということで、借家住まいだった社長に代わり、専務の自宅を担保に入れさせてもらいました。『すみません』と専務に謝ったら『いやいや、いい税理士さんだねえ』と言ってくれたことが忘れられません」

●経営危機を救った「ぬれ煎餅」、2ちゃんねるで大きな反響

――ユニークな商品をたくさん出されていますが、看板商品は「ぬれ煎餅」ですね。

「ぬれ煎餅がなければ会社は潰れていました。『おせんべい』ではマーケットが広すぎてダメだったと思います。ぬれ煎餅というニッチな市場だから売れた。

画像タイトル ぬれ煎餅を手にする竹本社長

銚電の副業の歴史は古く『ミスター銚電』と呼ばれ、昨年亡くなった綿谷岩雄さんという方が、マイカー普及で経営が厳しくなった時にたいやきを売り始めたのが最初です。

ぬれ煎餅は1995年に発売しましたが、これまで2回大きなブームがありました。1回目は仲ノ町駅の敷地内に製造工場を建てた1998年です。一日に2万枚生産できるようになり『ぽっぽやのおやじが煎餅工場のおやじになった』などとメディアに取り上げられました。設備投資によってぬれ煎餅の売り上げが年間2億円まで増え、鉄道事業の収入(約1億円)を上回りました。

2回目のブームは、2006年に元社長が業務上横領の疑いで逮捕され、経営が窮地に陥った時です。行政の補助金も打ち切られ、鉄道の管理費が捻出できなくなった。線路はゆがんでくるし、枕木も腐ってきます。ついには国土交通省から業務改善命令を出されました。

崖っぷちに追い詰められ、社員全員でどうしようかと話し合ってオンラインショップを立ち上げたのです。妻とキャッチコピーを考えて、当時小学生だった娘が折り紙でツルを折って、お盆の上にぬれ煎餅と一緒に置いて写真を撮りました。

ぬれ煎餅の売り上げは一日1万円でしたが、当時の経理課長が『電車修理代を、稼がなくてはならないんです』と当社のホームページ上に書き込んだところ、『2ちゃんねる』で大きな反響があり、あっという間に1週間で15,000件の注文が入りました。社員皆で危機を乗り越え、鉄道事業外の売上高は2億円から4億2000万円に、鉄道事業収入も1億円から1億6000万円に増えました。

経営面では、第二次ぬれ煎餅ブームの直前に当時のメーンバンクから債権譲渡通知書が送られてきてしまいました。当時の社長や専務と何度も東京へ行き、サービサー(債権回収会社)と交渉の末、実質的な債務免除にも成功しました」

画像タイトル 犬吠駅で名物のぬれ煎餅を買う人たち

●東日本大震災で観光客激減、「空気」を載せて走る

「老朽化した車両の更新時にも税理士として金融機関との交渉に立ち合いました。愛媛県伊予鉄道から1両12万円で4両の車両を買いました。車両自体は48万円なのに船便での運搬費3000万円、ワンマン車両への改修費が約1億7000万円もかかってしまった。不祥事があったこともあり、長いこと金融機関からの融資は受けられませんでしたが、千葉県信用保証協会の保証を取り付けた上で地元の信用金庫から2億円を借りて、なんとか電車を買えました。

借金をして電車を変えたのが2010年。その矢先に東日本大震災が起こり、銚子市も観光客が減りました。ジェットコースターみたいでしょう。銚電も空気を載せて走っていました。みるみるうちに資金繰りが悪化し、預金残高が50万円になってしまったのです。独身サラリーマンの預金残高でもあるまいし…。

この後、銚子市が銚子電気鉄道運行維持対策協議会を立ち上げ、銚子電鉄が地域にとって本当に必要であれば、補助金を復活させましょうという話になりました。こうして2013年の暮れに市の補助金が10年ぶりに復活したのです」

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●「弱者の戦略は局地戦と接近戦です」、今後はOEMに注力

――波乱万丈の中でも、笑いを忘れず前向きな経営で、お話を聞いていて元気が出ます。

「とにかく失敗や批判を恐れずに何でもやってみることです。よく言われますが、弱者の戦略は局地戦と接近戦です。強い相手と広い市場で戦っても負けてしまう。マーケットはニッチな世界を狙ったほうがいい。

うちにとっては『ぬれ煎餅』という局地戦に持ち込んだことがよかった。銚子電鉄は観光客の利用が大半ですが、通学する小学生や、運転免許証を返納した高齢者も乗る地域にとって必要な鉄道です」

――今後はどんな商品開発をしようと考えていますか。

「これからは地元の事業者とOEM(相手先ブランドでの製造)に力を入れたいと考えています。銚子は春キャベツの生産が日本一なので地元のキャベツ農家と、『ひ志お』という大豆と大麦からつくられた発酵調味料の製造会社と手を組んで『ぬれ餃子』のインターネット販売も始めました。これからも人を傷つけないギャグを飛ばし続けながら、目の前の状況に悲観することなく、地域に根差した経営を続けます」

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<取材を終えて>

取材中、売店を併設する仲ノ町駅にはたくさんのお客さんが訪ねてきました。そのたびに竹本社長は席を立ち、ギャグを飛ばしながら、ぬれせんべいの種類やおすすめの食べ方を丁寧に説明して自らレジを打っていました。「ぬれせんべいは5枚入りで450円、10枚入りで864円。この仕事をしているとモノを売ることの大変さが分かります」という竹本社長の言葉が印象に残っています。

<おまけ:銚子電鉄フォトギャラリー>

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