
熟年離婚したら将来の退職金や夫婦で築いた財産はどうなる?
長い結婚生活のすえに「熟年離婚」を検討している人の中には、「今まで築いた財産はどうなるの?」「配偶者の退職金は分けてもらえるの?」と、お金に関する疑問を持っている人もいるでしょう。
- 離婚をするとき、財産は夫婦でどうやって分け合うのか
- 離婚する時点で支払われていない退職金も分けてもらえるのか
- 財産の分け方について、夫婦で話合いがまとまらない場合の対処法
熟年離婚をするときに知っておきたい、お金に関する疑問を、「みんなの法律相談」に寄せられた実際の相談事例と弁護士の回答をもとに解説します。
離婚にあたってお金について話し合うこと
離婚をする際には、配偶者と、お金についてどのようなことを取り決めるのでしょうか。
相談者の疑問
熟年離婚です。お金のことを教えてください。請求するものと請求されるもの、例えば何がありますか?
弁護士の回答石井 康晶弁護士
まず財産分与があります。婚姻中に築いた夫婦共有財産を原則として2分の1ずつ分けるものです。あなたが請求する側かされる側かは、あなたと相手、それぞれの名義の財産の多寡によります。
分与対象として考えられるものとして、不動産・預貯金・株式・生命保険解約返戻金・退職金などがあります。
次に離婚の原因を作った相手に対しては慰謝料請求が可能です。
そして年金分割があります。請求する側かされる側かは、いずれが多くの厚生年金を納めてきたかによります。なお、基礎年金は分割できません。
離婚をする際は、財産分与、離婚原因を作った配偶者に対する慰謝料請求、年金分割について取り決めることになるようです。 結婚している間に築いた、不動産や預貯金などの財産は、原則として2分の1ずつ夫婦で分け合うことになります。
配偶者が将来受け取る退職金も分けてもらえる?
離婚する際、財産分与として夫婦で分け合う財産の対象には、退職金も含まれます。配偶者の退職金が出る前に離婚したい場合、将来受け取るであろう退職金を分けてもらうことはできるのでしょうか。
相談者の疑問
夫の定年退職までまだ10年ほどありますが、夫は公務員なので離婚時に退職金分割を要求したいと思います。
財産分与は「今ある」財産を分けるのが前提ですが、退職金は「今ない」状態でも受け取れますか?
弁護士の回答岡田 晃朝弁護士
可能です。結婚してから、別居するまでの割合の退職金は、潜在的には配偶者の助けで、今あるものですから。
現在退職した場合の試算表を提出してもらい、それを基準に分けられるとよいでしょう。
将来受け取るであろう退職金も、財産分与の対象になるようです。配偶者の勤務先に、現時点で退職した場合に受け取れる退職金の試算表を出してもらい、それをもとに分けることになるでしょう。
財産分与について話合いがまとまらない場合、どうすればよい?
財産分与について、配偶者との話合いが難航した場合、解決のためにどのような方法があるのでしょうか。
相談者の疑問
夫婦ともに53歳。結婚30年、夫は会社員で勤続35年。子ども2人は成人。離婚原因は価値観の違いと長年のモラルハラスメントです。
理想は協議離婚ですが、給与明細も見せず必要最低限の生活費しか入れないくせに「食わしてやってる。養ってやってる」と言うような夫と財産分与の話がスムーズに行えるとは思いません。
・私の要求は①年金分割 ②退職金分割 ③財形貯蓄の分割ですが、どの程度受け入れられるでしょうか?
・夫名義の年金積立損害保険や積立介護費用保険があります。これらも請求できるのでしょうか?
・私が最も危惧するのは、退職金の有無や支払額、支払時期を正直に話さないこと。財形貯蓄を解約したなどと誤魔化す可能性があることです。離婚調停では、こういう部分をどの程度明らかにしてもらえるのでしょうか?
弁護士の回答川崎 政宏弁護士
ご指摘のとおり、離婚調停による解決が賢明な方法と考えます。
調停前に協議離婚により円満解決できればベストですが、あなたが懸念されるように、夫側が財産開示をきちんとしてくれることは期待できません。
特にモラハラ傾向の相手の場合は、対等な話合いが困難なため、あなたが事前に要求しても、すんなり開示に応じてくれるとは限りません。
調停の場で、調停委員から促してもらうことで、財産分与の話合いが円滑に進み、財産開示も裁判所から任意開示を求めますから、これは相手も拒否しづらいところです(離婚訴訟になれば、裁判所から調査をしてもらうことを調査嘱託の申立てとしてできるからです)。
財形貯蓄を含む預金すべて、生命保険を含む保険の解約返戻金額すべて、退職金見込額の婚姻期間と重なる部分、ほかに有価証券や車など、ご夫婦の共有財産すべてを持ち寄って2分の1にします。
退職金は定年まで射程範囲に入っていますから、退職金規程があり安定的支給実績のある勤務先であれば、財産分与対象として十分考慮してもらえます。
財形貯蓄は勝手に使い込まれた場合は、入出金履歴をおさえて隠した先を追及することになります。
年金分割は財産分与とは別の制度であり、厚生年金の報酬加算部分につき、データの按分割合を0.5とする運用は家庭裁判所で定着していますから、争いにはなりません。
いずれにしても、離婚調停をきちんと申し立てていくことから始められたらよいでしょう。
配偶者との話合いが難航した場合、離婚調停を申し立てることが、解決の1つの方法となるようです。 配偶者のモラルハラスメントなどで対等な話合いができない場合や、財産を明らかにすることを拒まれているような場合は特に、調停での話合いが有効でしょう。
まとめ
離婚をする際は、お金の問題として、財産分与や慰謝料請求、年金分割などについて夫婦で話し合うことになります。 将来配偶者が受け取るであろう退職金も財産分与の対象になるようです。勤務先に試算表を出してもらい、計算することになるでしょう。 財産分与について夫婦間で話合いがまとまらない場合は、離婚調停を申し立てて、調停委員という第三者をまじえて解決を目指しましょう。