養育費不払いの問題解決に向けた課題とは 明石市の養育費立替え制度について子どもの貧困問題に詳しい弁護士に聞いた

養育費の不払いに問題について、兵庫県の明石市は、7月から8月にかけて、養育費を支払わない元配偶者に代わって立て替える取り組みを実施した。明石市の養育費に関する検討会に参加する津久井進弁護士は「養育費の不払いは、両親と子どもの問題だと認識されてきたが、養育費を立て替えることで、行政も当事者として問題に取り組むことになる。画期的な構造転換につながる制度だ」と評価し、「将来的に全国で実施されるべき」とした。養育費不払い問題の現状と、明石市の取り組みについて、津久井弁護士に聞いた。(2020年9月2日インタビュー実施)

「国難」と言ってもいいほどの大きな問題

ーー養育費不払いの問題をどのように認識していますか。


2016年度の「全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯の養育費の受給状況は、「現在も受けている」が24.3%ですが、「受けたことがない」が56%となっていて、母子家庭の半数以上が養育費を受け取っていない状況です。

ひとり親世帯で貧困率が高いというデータもあります。養育費がそもそも低廉であることも問題ですが、養育費がきちんと支払われていないことが大きな問題です。養育費の不払いが貧困の温床のひとつになっていると思います。

「別れた配偶者から、養育費を支払う代わりに子どもの面会を求められたが、面会させたくない」「別れた配偶者とコミュニケーションをとりたくないので、養育費を請求できない」といった理由で、養育費の請求を諦めてしまうケースもあるでしょう。

養育費に関する問題は、親の権利義務という視点から議論されてきた部分もあると思いますが、子どもの立場で考えることが大切です。養育費不払いの原因は子ども自身にあるわけではありません。それにもかかわらず、不払いにより子どもをきちんと養育するための環境が確保されていない現状があるのは、人権の観点からも非常に大きな問題です。

養育費の不払いについて、海外には専門の行政機関を作って対策している国もあります。それに対し、日本では養育費の問題を、「単なる債権債務のひとつ、私権の問題に過ぎない」と認識し、軽く扱ってきたと思います。養育費不払いは、少子化や子どもの貧困など、さまざまな問題に及ぶ国難と言ってもいいほどの大きな問題です。子どもの将来を大切に考えた政策展開が必要です。

ーー弁護士は養育費不払いの問題に取り組めているのでしょうか。


養育費は「取り決め」と、「支払いの履行」が重要です。養育費の取り決めについては、調停を活発に利用するなど、弁護士も関わりやすい分野です。

履行確保については、まだまだ技術が足りていない部分があるでしょう。履行確保に向けた制度として、「財産開示手続き」などがありますが、実際にどれだけの人が使えているのかはわかりません。

せっかくできた制度なので、定着させるためにも時間と労力を割くべきだと思いますが、そこまで手が回っていないというのが実態ではないでしょうか。

そもそも、弁護士に相談するハードルが高いと感じている人は少なくないと思います。多くのひとり親世帯が貧困に苦しんでいる現状について、「弁護士に対するハードルの高さも原因のひとつかもしれない」と弁護士が受け止める必要があると感じています。

弁護士費用がネックになっている部分もあると思います、法テラスを利用した養育費に関する事件については、本人や弁護士が負担するのではなく、公益性の高さを考えて、公的な費用として支出することを考えてもよいのではないでしょうか。

ーー法務省でも議論が行われていますが、どのような対応や施策が必要と考えていますか。


養育費の履行確保に向けた施策として、財産開示手続きがあまり活用されていないので、より使いやすい制度に改善することが重要でしょう。

また、海外の取り組みが参考になるかもしれません。

たとえば、養育費の不払いに対して、給与から天引きしたり、失業給付から相殺したりしている国や、免許証の更新やパスポートの発行を認めない国があります。

ほかにも、「家族遺棄罪」が適用されたり、裁判所の命令に従わなかったという観点で「裁判所侮辱罪」が適用されたりするなど、養育費不払いが罪となるケースもあります。

これらの例にある国は、養育費の不払いを公的な問題・国として取り組むべき問題だと認識しているからこそ、厳しいペナルティを設けているのだと思います。

日本でもペナルティを設けるべきかは難しい問題ですが、「養育費不払いは公的な問題だ」というコンセンサスが広まれば、日本でも議論が行われるかもしれません。

また、子どもの貧困対策といった視点から、新たな支援制度の創設も検討されるかもしれませんが、制度を作るだけでは必ずしも問題解決にはつながらないと思います。

行政が用意した制度を利用しようと思っても、手続きが大変であきらめるケースが少なくありません。制度を実効化するためのサポート体制を構築する必要があります。

たとえば、市区町村役場に「子ども課」など、子育て支援に取り組む部署を設けている自治体もあります。制度に関する情報提供や手続きの寄り添いをさらに進めるなど、行政が主体となって取り組むことも重要です。

民間資格によるサポーターの育成を進めてもよいでしょう。高齢者や障害者を支援する資格として、ケアマネージャーや相談支援専門員などがあります。養育費の不払いなどにより、貧困の状態にある子どもなどを支える専門家の資格を作る必要があると思います。

行政は傍観者から当事者に

ーー明石市が行なっている養育費不払い問題への対応策を聞かせてください。


明石市は数年前から「家庭で暮らすことが基本」という観点や、「子どもを中心にした町づくりをする」といった方針から、子どもの養育に関わる政策に力を入れています。

養育費不払いの問題に対しては、「こどもの養育費に関する検討会」を立ち上げて議論しており、私も委員として参加しました。

具体的な対応策としては、2018年に「養育費立替パイロット事業」が試行的に実施されました。この事業は、明石市が業務委託した保証会社が、養育費を受け取れていないひとり親家庭に対して養育費の不払い分を立て替えて支払い、別居親に対しては、立替分を督促して回収するものです。

また、同様の事業として、2020年7月と8月に「こどもの養育費緊急支援事業」が実施されました。

養育費の不払いについて、これまでは両親と子どもの問題だと認識され、行政はただの傍観者という立場でしたが、養育費を立て替えることで、行政も当事者としてこの問題に取り組むことになります。そのような意味で、行政による養育費の立て替えは、画期的な構造転換につながる制度だと期待しています。

まだ一時的な制度なので、恒久的な制度にするため、市民の理解を得て予算を確保する必要があります。将来的には、全国的に実施される制度になってほしいと思います。

ーー「こどもの養育費緊急支援事業」はどの程度利用されたのでしょうか。


明石市では、児童扶養手当を受け取っている家庭のうち、養育費を受け取れていないであろう世帯数を推計し、数百世帯が利用の対象になると見込まれていました。

しかし、実際の申請数は数十件ほどにとどまったようです。

ーー申請数が伸びなかった理由をどのように考えていますか。


申請要件のハードルが高い点があると考えています。具体的には、「養育費について調停調書や公正証書などの公的な取り決めをしている」という要件です。

2016年度の「全国ひとり親世帯等調査」によると、母子家庭の半数以上が養育費の取り決めをしておらず、取り決めていない理由として「相手と関わりたくない」「相手に支払う能力がないと思った」「相手に支払う意思がないと思った」などがあるようです。

明石市では、養育費の取り決めを調停調書や公正証書などの公的な書類として作成することを支援する「養育費取り決めサポート事業」も実施しています。

この事業は一時的なものではないので、積極的に活用されれば、立て替え制度が改めて実施された際に、より多くの人が利用できると思います。

ーー養育費不払いの問題に取り組む民間事業者も出てきているようです。


民間事業者もこの問題に取り組むのはよいことだと思いますが、問題をより複雑化させたり、深刻化させたりすることがないよう、弁護士や行政などにフォローしてもらうことが大切だと思います。

子どもの権利保護を中心に考えたサービスになっているかも重要ですが、弁護士法などの法令に抵触していないか、利用者から取得した個人情報を適切に扱っているかなど、サービスを実施する上で、様々な注意点があります。

そういう意味でも、弁護士などの専門家が、サービスに取り組む事業者をチェックする必要があると思います。

津久井進弁護士プロフィール
1993年神戸大学法学部卒業後、1995年司法修習終了(47期)。2002年に弁護士法人芦屋西宮市民法律事務所を設立。兵庫県弁護士会の子どもの権利委員会委員や、公益財団法人「あすのば(子どもの貧困対策センター)」「チャンス・フォー・チルドレン」の監事に就任するなど、子どもの貧困対策に積極的に取り組んでいるほか、日本弁護士連合会の災害復興支援委員会委員長や兵庫県弁護士会の災害復興等支援委員会委員を務め、災害対策や復興支援にも注力している。

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