渋谷区が表明した「同性カップル」向けに「結婚に相当する関係」の証明書を出す制度が話題を呼んでいる。3月議会に提出される予定の条例案では、対象は渋谷区に住む20歳以上の同性カップルで、後見契約を相互に結んでいることを条件として、希望者に証明書を出すという。
こうした制度について、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の支援に取り組む池田清美弁護士に意見を聞いた。
※渋谷区「同性カップル証明書」どうみる?(上)「結婚とは何か?議論の広がり期待」
●「過渡的な制度」としては歓迎
病院での面会時に、同性パートナーが家族ではないという理由で面会を断られる等の苦労をするという話はよく聞きます。こういった場面に対処するため、緊急時に連絡する人を記載するための「緊急連絡先カード」を、LGBTの支援団体が作ったりもしていますね。
そうしたケースで今回のような公的な「証明書」があれば、病院のスムーズな配慮が期待でき、セクシャル・マイノリティのカップルにとっては心強い制度になると思います。
ただ、これはあくまで「過渡的な制度」だろうと考えます。「同性パートナーを認める制度」が何もないという日本の現状を踏まえると、贅沢な話と言われるかもしれませんが。
——「過渡的」というのは、なぜだろうか?
どういう関係性を望むかは、その人たちしだいですから、今回の制度に満足という人もいるでしょう。しかし「結婚したい人たち」にとって、最終的な到達点は、あくまでも同性婚が認められることです。同性パートナーだからといって、「これしかない」というのはおかしい。
もちろん、日本の現状から、一足飛びに「同性婚を認める」という地点にたどり着けるわけではないと思います。でも、「あなたたちは本当は結婚できないんだけど、特別にパートナーである関係性は認めてあげるよ」という意味に留まったり、「結婚は異性のためのもの。同性カップルは、異性とは別の制度を使ってね」という方向に向かっていってしまうと、差別の根本的な解消にはなりません。
今後ますます活発化していくであろう同性婚の是非を巡る議論の際に「この制度があるからいいじゃないか」「結婚とは別のパートナーシップで足りるだろう」などと、同性婚反対の意見の一つにされるようだと困ります。同性婚の法整備に向けた「とっかかり」としてとらえられるべきという意味で、過渡的な制度と申しあげました。
●同性婚は本当に「違憲」?
今回の話題に関連して、「同性婚は、憲法で認められていない」という話が聞こえてきました。憲法24条1項には、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」すると書いてあります。議論が分かれるポイントだとは思いますが、私はこれを「同性婚を認めない」という意味ではないと考えます。
日本国憲法ができた当時は、家父長制や男女差別が色濃く残っていた時代でした。憲法が24条1項のような表現をしているのは、本人たちの意思ではなく家同士が結婚を決めるという慣習や、男女平等ではないという考えを否定するためであったはずです。
個人の尊重や法の下の平等に照らすと、むしろ結婚を自由化することは「違憲ではない」と言うべきではないでしょうか。
——同性婚をめぐる問題について、他に何か気になる点はあるか?
「性」は必ずしも男性・女性に限りません。自らを男性とも女性とも考えない人もいて、「Xジェンダー」などと呼ばれています。従来の日本で認められてきた婚姻のカタチはいわゆる「異性婚」であることから、その対義語として「同性婚」という言葉が専ら用いられています。しかし、Xジェンダーの人の中には、「同性」婚も「異性」婚も、しっくりこない人がいるのではないでしょうか。
もともと、誰をパートナーにするかは、個人の尊重や法の下の平等に照らして認められるべきだということが、同性婚推進の重要な根拠だとすれば、従来の異性婚に対する婚姻の自由化の議論を、「同性」婚に限るべきではないと思います。
もちろん、同性婚を推進されておられる方々がXジェンダーの人を排除する意図はないと思いますが、個人的には「結婚の自由化」や「自由婚」といったほうが、言葉の面においても、婚姻がすべての人に開かれていく気がします。
——結婚とは別に、何かよい制度はあるだろうか?
「結婚ではない、ほかの結びつき方」を新たに制度として作るというのであれば、必ずしも同性パートナーだけを対象にした制度でなくても良いでしょう。たとえば、フランスのPACS(パックス・民事連帯契約)に類似した、セクシャリティを問わず成人2名の間で使える制度を創設するにするという手もあると思います。そういう多様な関係性へのニーズは、性的少数者(セクシャル・マイノリティ)以外の人(セクシャル・マジョリティ)にもあるでしょう。
ただ、もちろん、婚姻という制度も従来通り併存させるのであれば、すべての人に同じ選択肢を与えるべく、今後とも「結婚の自由化」を推進させていくべきでしょう。