「親権はどちらがもつのか」。未成年の子をもつ夫婦が離婚する際、親権者が誰になるのかは、離婚に関する様々な条件の中で最も重要なポイントといえるでしょう。 親権者を決める際には、「どちらが親権をもった方が子にとってよりよいのか」という観点が重要です。 この記事では、親権者となるための条件や、その決め方について詳しく解説します。
- 親権者となるための条件
- 親権者を決める手続きの流れ
目次
親権はどんな権利なのか
親権とは、未成年の子どもを監護・養育する権利です。契約などの法律行為を行うことができない子に代わって、子の財産を適切に管理したり、契約を結んだりすることができます。 権利という名がついていますが、「子どもの利益を守る」ために行使される権利であるので、義務の側面があると言ってよいでしょう。 親権はあくまで「子どもの利益になるのかどうか」という観点から行使される権利なのです。 結婚している間は父母の双方が親権をもちますが、離婚する場合には、父母のどちらかを親権者として決める必要があります(単独親権)。 親権は、「身上監護権(しんじょうかんごけん)」と「財産管理権」という2つの権利から成り立っています。
身上監護権とは
身上監護権とは、子どもの養育や身の回りの世話をしたり、社会人としての社会性を身につけさせるためにしつけ・教育をしたりする権利です。具体的には次のようなことです。
- 子どもがどこに住むのかを決める権利
- 子どものしつけのために、子どもが悪いことをしたら叱る権利
- 子どもが職業についたり、営業を始めたりすることに許可を与える権利
- 他人が親権の行使を妨害したときに排除する権利(子どもが連れ去られたときに、子どもの引渡しを請求するなど)
- 相続の承認や放棄などを、子どもの代わりにする権利
財産管理権とは
財産管理権とは、子どものお金を管理したり、子どもに代わって法的な手続を行ったりする権利です。具体的には次のようなことです。
- 子どものお金を子どもの代わりに管理する権利
- 子どもがお金を使ったり、売買契約をしたりすることを認める権利
親権者を決めるときに重視されるポイント
夫婦の話し合いで親権者をどちらにするか決まらない場合、調停や裁判で決めることになります。 一般的に、調停や裁判では、主に次のような事情を重視して、父母どちらを親権者にすべきか判断されることになります。離婚の有責性については、あまり考慮されません。
親側の事情 監護能力、精神的・経済的家庭環境、居住・教育環境、子に対する愛情の度合、従来の監護状況、実家の資産、親族の援助の可能性など
子側の事情 年齢、性別、兄弟姉妹関係、心身の発育状況、従来の環境への適応状況、環境の変化への適応性、子の意向、父母及び親族との結び付きなど
これまでの監護状況
親権者を決めるときには、子どものこれまでの生活環境が変わらないかどうかが重視されます(継続性の原則)。 親権を決める時点で同居している親や、これまで主に育児を担当してきた親の方が、親権者となる可能性が高いといえるでしょう。 親権者には、必ずしも母親が選ばれるとは限りません。父親が子どもと一緒に暮らし、子育てに母親より深く関わっているといった場合は、父親が親権者とされることもあります。
子どもの年齢、意向
子どもがまだ幼く、自分で身の回りのことを十分にできない場合、親権者を決めるときには、育児により多く関わってきた親はどちらか、ということも重視されます。 「食事を作って食べさせていたのはどちらか」「保育園の送り迎えを担当していたのはどちらか」などの具体的な事実が、親権者を決めるときの判断材料となります。 子どもの年齢がある程度高く、物事を判断したり、自分の意思を伝えたりすることができる場合は、子どもの意思を尊重して親権者を決定します。 子どもが15歳以上の場合は、法律(家事事件手続法・人事訴訟法)上、親権者を決める審判や裁判では子どもの意向を聞き、これを考慮しなければなりません。 ただし、必ずしも子どもの希望通りに親権者が決まるとは限りません。
親権者はどのように決まる?
協議離婚の場合には、夫婦の話し合いで親権者を決めます。離婚届には親権者を記載する欄があり、記入がないと受理されません。 話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停でもまとまらなければ審判、裁判で決めることになります。 離婚することには合意しているけれど、親権者を誰にするかでもめている、という場合も裁判所の調停を利用することができます。
話し合いがまとまらない場合は調停
夫婦の話し合いで親権者が決まらないときには、家庭裁判所に調停を申し立てて決めることになります。 離婚調停とともに、親権者を決める調停を申し立てることもできますし、親権者の調停だけを申し立てることもできます。 申立て先は、相手方の住所地にある家庭裁判所か、夫婦が合意で決めた場所にある家庭裁判所です。調停で親権について合意ができれば、裁判所が調停調書を作成します。
調停が不成立の場合は審判か訴訟
調停での話し合いでも決まらないときは、審判や裁判で、裁判所に親権者としてふさわしい人を決めてもらうことになります。裁判離婚の場合は、裁判所が離婚を認める時に同時に親権も指定します。
親権と監護権は2つで1セット
さきほど述べたように、親権の中には身上監護権という、子どもの近くにいて、子どもを教育する権利・義務が含まれています。この身上監護権だけを取り出して、「監護権」と呼ぶ場合もあります。 監護権は親権の一部であるため、原則として、親権者となった親が監護権も持つことになります。 しかし、親権についてどうしても話し合いがまとまらない場合には、一方の親が親権者となる代わりに、もう一方が監護者として子どもを引き取り、子どもの世話を行うことで解決を図るという方法もあります。 ただし、親権者と監護者を別にすると、トラブルの元になる可能性があります。 たとえば、子どもの姓(戸籍)の変更など、親権者しかできない手続きが必要な場合に、子どもと一緒に暮らしている監護権者は、その都度、親権者の承諾を得なければなりません。 親権者と監護権者の関係が悪ければ、なかなか承諾を得られない、手続きに協力してくれないなどのトラブルが発生するリスクがあります。 このようなことから、原則として、親権者と監護権者は一致するよう取り扱われています。