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名誉毀損における「公然と」という要件は,不特定または多数者が認識しうる状況と理解されており,特定かつ少数に対する行為は「公然と」という要件を満たさないと解されています。もっとも,特定かつ少数に対する行為であっても,そこから不特定または多数者に広がり得る状況にあれば,伝播性の理論により,「公然と」という要件を満たすものと解されています。少数が「何人」なのかについては,事案によるものであり,一概にはいえません。
本件では,上司のみに限定して報告し,上司にくれぐれも他言はしないよう御願いしていて,実際に上司も他に口外しないならば,特定かつ少数への行為として,「公然と」という要件は満たさず,名誉毀損は成立しないものと考えます。
ただし,上司もその他の者達と協議のうえ,処分を検討するものと思います。そうなったときは,「公然と」という要件を満たす可能性もできます。重要なことは,その他の者達と協議をするとしても特定かつ少数かという観点から吟味し,情報が伝播しかねないならば止めること,必要性のないものにはくれぐれも口外しないよう御願いすることだと考えます。そのため,どのような調査内容により不倫が発覚したかによっては,真実性の立証が難しいものとなりかねないので,一度お近くの法律事務所に相談に行ってはいかがでしょうか。その際,調査資料を持参して,実際に弁護士に見せて真実性の立証が可能か判断を求めたほうがよいと考えます。
なお,一般論としては服務規律違反として会社の一部の上司にのみ報告し,会社の人事評価に必要最低限の範囲で情報を共有することは,「公然と」という要件を満たさないか,満たすとしても,真実性の立証が「できれば」,下記条文により免責可能なものと理解しています。
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。