弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. インターネット
  3. 節税で「豪華海外旅行」のチャンスも…退職金「一時金 vs 年金形式」を徹底検証
節税で「豪華海外旅行」のチャンスも…退職金「一時金 vs 年金形式」を徹底検証
写真はイメージです(Rina / PIXTA)

節税で「豪華海外旅行」のチャンスも…退職金「一時金 vs 年金形式」を徹底検証

退職金を年金形式で受け取るか、それとも一時金として受け取るか、どちらがいいのだろうか。一度に多額のお金が振り込まれると大きな買い物に使ってしまうかもしれない。老後破産を避けるために、分割して、年金形式でもらった方が安心だと考える人もいるだろう。

ただ、必ずしもその判断が得策とは限らない。一時金の方が節税メリットが大きく、手取りが増えるケースがある。仮の事例をもとに考えたい。

東京都練馬区在住、同一企業に勤続40年で退職する65歳男性(妻と2人暮らし)は、退職金が2200万円もらえることになった。厚生年金など公的年金による収入は年間240万円もらえる。この場合、退職金は一時金と年金形式(10年間支給)のどちらで受け取る方が節税メリットがあるだろうか。(復興特別所得税はここでは考慮しない)

●浪費に気をつければ、一時金は節税メリット大

まず一時金で受け取る場合、「退職所得」として課税対象になるが、「退職所得控除額」という非課税枠があり、この枠内におさまれば税金はかからない。非課税枠は勤続20年以下なら<40万円×勤続年数>で、20年超なら<800万円+70万円×(年数-20年)>で計算できる。

勤続年数40年なので、控除額は800万円+70万円×(40年-20年)=2200万円。課税される退職所得は(2200万円-2200万円)×1/2=0円なので、所得税と住民税はかからない。

次に公的年金による収入は年間では240万円。年金を受け取ると「雑所得」と区分され、企業年金や厚生年金などと合わせて「公的年金等」として税金が計算される。240万円-(公的年金等控除額120万円+基礎控除38万円+配偶者控除38万円)=44万円が課税対象。所得税と住民税は以下のとおりだ。

所得税:公的年金等44万円×5%=2万2000円

住民税:公的年金等44万円×10%=4万4000円  

合計:6万6000円

保険料は、「旧ただし書き所得」を基準に算定される。前年の総所得金額等(退職金など除く)から基礎控除33万円を引いた金額のことで、240万円-公的年金等控除額120万円-基礎控除33万円=87万円となる。(厳密には退職前年の給与所得を考える必要があるが、ここでは単純化し考慮しない)

保険料は自治体によって異なる場合があるが、このケースでは年間18万1041円となった(計算式は末尾に記載)。そうすると、年金の手取り(年間)は240万-税金6万6000円-保険料18万1041円=215万2959円。10年間でみれば、手取り総額は退職金2200万円+2152万9590円=4352万9590円となる。

●年金形式は毎年の税負担がかさむ

それでは、年金形式ならどうだろうか。給付利率1.5%、支給期間10年、毎年の退職年金は265万円で試算する。公的年金による収入は年間240万円なので足し合わせ、公的年金の雑所得の計算式に当てはめると、505万円×85%-(公的年金等控除額78万5000円+基礎控除38万円+配偶者控除38万円)=274万7500円が課税対象。所得税と住民税は以下のとおりだ。

所得税:公的年金等274万7500円×10%-9万7500円=17万7250円

住民税:公的年金等274万7500円×10%=27万4750円  

合計:45万2000円

次に保険料を計算する。旧ただし書き所得は505万円-120万円-33万円=352万円で、年間43万936円の保険料がかかる。年金の手取り(年間)は505万-税金45万2000円-保険料43万936円=416万7064円で、10年間の手取り総額は4167万640円となった。

今回のケースでは、退職金を一時金としてもらった方が、手取りが185万8950円も多い結果となった。おおまかな試算ではあるが、豪華なプランで海外旅行を満喫できそうな金額だ。

●どちらが有利か徹底比較を

社会保険料は一定の上限までは、原則として所得が多ければ、その分、多くなるため、毎年の収入が多い年金形式の方が税負担が重くなった形だ。しかも社会保障の財源不足はますます深刻になっている。社会保険料はいずれ引き上げられることも考えられ、そうすると、税負担はさらに増しかねない。

注意したいのは、年金の給付利率や受取期間によっては年金形式の方が有利になる場合もあるということだ。どちらが有利なのか時間をかけて徹底して比較し、退職後の「第2の人生」で不本意な税負担がかからないようにするのが有意義ではないだろうか。

●企業年金が減額される恐れもゼロでない

蝦名和広税理士は、「退職金を年金形式で受け取る場合、特に自社年金の場合などは将来の会社の経営状況によって年金減額の可能性もゼロではありません。しっかりと検討して判断することが大切ですね」と話している。

※以下は参考

「基礎(医療)分保険料」とは国保財政の基礎財源のことで、「支援金分保険料」は後期高齢者医療制度の支援金。40歳ー64歳だと「介護分保険料」も払う必要がある。計算する際に使う保険料率は自治体によって変動がある。

<一時金の場合>

基礎(医療)分保険料:87万円×7.47%+3万8400円×2人=14万1789円

支援金分保険料:87万円×1.96%+1万1100円×2人=3万9252円

合計:18万1041円

年金手取り(年間):240万-税金6万6000円-保険料18万1041円=215万2959円

<年金形式の場合>

基礎(医療)分保険料:352万円×7.47%+3万8400円×2人=33万9744円

支援金分保険料:352万円×1.96%+1万1100円×2人=9万1192円

合計:43万936円

年金手取り(年間):505万-税金45万2000円-保険料43万936円=416万7064円

【監修】

蝦名 和広(えびな・かずひろ)税理士・特定社会保険労務士・特定行政書士・海事代理士

北海学園大学経済学部卒業。税務、労務、新設法人支援まで、幅広くクライアントをサポート。趣味は旅行、1児のパパ。

事務所名 : 税理士・社会保険労務士・行政書士 蝦名事務所

事務所URL:http://office-ebina.com

(弁護士ドットコムニュース)

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする