新築した家について「宝くじが当たったお金で買った」と嘘を言いふらされた――。こんな悩みが、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。相談者によると、宝くじに当たったお金で家を建てたなんて、全くの事実無根なのだという。
ところが、噂が広まってから、PTAや近所の人たちの態度が冷たくなり、興味本位で家を見にくる人もいる。いつか空き巣に入られるのではないかという不安も増している。そんな中、嘘を言いふらした「犯人」が、息子の同級生の母親であることがわかった。
相談者は、その母親に慰謝料を請求する考えはもっていない。しかし、嘘であることを周知させ、嘘を広めた本人に、謝罪させたいと考えているようだ。はたして、相談者の希望は認められるだろうか。石井龍一弁護士に聞いた。
●ポイントは、社会的評価を下げたかどうか
「名誉毀損は、(1)不特定または多数の人に一定の事実を示して、(2)人の社会的評価を害するおそれがある状態を発生させた場合に、成立します。
今回の事例では、『宝くじが当たったお金で買った家だ』との発言が、周囲に対して、相談者の『社会的評価を害するおそれ』がある状態を発生させたと言えるかどうかが、ポイントです。
結論から言えば、『宝くじが当たったお金で買った家だ』という発言だけで、相談者の『社会的評価を害するおそれ』があるとまで、認めさせるのは難しいかもしれません」
なぜだろうか。
「家が買えるほどの大金が宝くじで当たる確率は極めて低いといえます。そのような発言を聞いても、『そんな話は嘘だ』『信用できない噂だ』と思うのが、常識的なところではないでしょうか。
名誉毀損が成立する可能性が出てくるのは、ことさらに相談者の評価を下げるような発言の一環として、『宝くじが当たったお金で買った家だ』という発言があった場合です。
たとえば『あの一家は宝くじが当たって、働きもせず遊んでばかりいる』といった発言の流れの中で、『新築した家も、宝くじの金で買った』と発言したような場合です。
そこまでに至らない場合は、名誉毀損としての法的な責任追及は難しいと思います」
●仮に認められたとしても・・・
相談者には気の毒だが、名誉毀損と認められるのは難しい事例のようだ。
では仮に、名誉毀損と認められたら、どんな賠償を求めることができたのだろうか。石井弁護士は、金銭的な賠償以外を求めるのは難しいだろうと指摘する。
「たしかに、裁判所は名誉を毀損した人に対して、謝罪広告など、名誉回復のための『適当な処分』を命じることができます。
しかし、近隣に噂を広めた程度では、金銭的な賠償は認められても、名誉回復の手段として、相談者の方が求める“謝罪”は、現実的には困難かもしれません」