検索サイトで自分の名前を検索すると、逮捕歴が分かってしまう――。40代の男性が名誉を傷つけられたとして、「ヤフー」に対し、検索結果の表示中止や慰謝料などを求めた裁判で、京都地裁は8月上旬、「公共の利害に関する事実であり不法行為は成立しない」として請求を棄却した。
報道によると、この男性は2012年、女性のスカートの中を盗撮した疑いで逮捕され、13年4月には有罪判決が確定した。この事件の報道記事が転載されたサイトが複数あり、この男性の名前で検索すると表示される。
男性は、軽微な犯罪を表示し続けることは名誉毀損にあたることや、再就職の妨げになることを理由に、検索結果の削除を要求。一方、ヤフーは「検索結果は、キーワードに関するウェブの存在や所在を示し、ヤフーの意思内容は反映されていない。削除要請は元記事の発信者にすべきだ」と反論していた。
欧州では、個人情報が分かる検索結果の削除を求めたスペイン人の訴えについて、「検索サイト企業は一定の条件下でリンクを削除する義務がある」と認める判決も出ている。「忘れられる権利」という新しい概念も注目される中、今回の判決をどう見ればいいのだろうか。佃克彦弁護士に聞いた。
●「公共の利害に関する事実」なので、名誉毀損にはあたらない
「検索サイトで表示される内容が名誉毀損にあたるとして、運営会社が訴えられた場合、問題点は大きく分けて2つあります。
1つ目は、表示された内容がそもそも名誉毀損にあたるのか、2つ目は、仮に内容的に名誉毀損にあたるとしても、その責任が検索サイトの運営会社にあるのかということです」
佃弁護士はこう切り出す。では、今回のケースをどう見ればいいのだろうか。
「今回の判決の場合、表示された内容が『公共の利害に関する事実』にあたるとして請求が棄却されたそうですから、そもそも名誉毀損が成立しないと判断したものと思われます。
仮に名誉毀損が成立する場合でも、検索サイトは、名誉毀損にあたる記事へのアクセスを媒介しているだけであって、その掲載内容について責任はないのではないかという問題があります」
●検索サイトの責任論、まだ見解が定まっていない
責任の有無は、どう判断されることになるのだろうか。
「現在は裁判例の蓄積の過程にあって、まだ判例上、定まった見解があるとはいえません。この問題は、検索サイトがどういうシステムで運営されているのかという個別的事情によって、判断が変わってくるものだと、私は思っています」
日本では過去に、グーグルのサジェスト(検索予測)機能をめぐる訴訟も起きたことがある。個別の状況によって結論が変わる可能性があるのだろう。
「ヨーロッパでは『忘れられる権利』という概念が認められたという報道もありますが、日本でも以前から、古い前科はプライバシーとして守られると判断される傾向があります。
この『忘れられる権利』は、日本ではプライバシー権のひとつとして考えることができますね」
「忘れられる権利」はどういう形で実現が可能なのか。ネット上に消し去りたい情報が残っている人にとっては、切実な問題になってくるだろう。