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依存症で苦しみ「死んで詫びるしかない」と自殺未遂…命をつないでくれた「居場所」
依存症オンラインルームの運営メンバーとイベントの参加者たち(11月3日開催のイベントより、NPO法人ASK提供)

依存症で苦しみ「死んで詫びるしかない」と自殺未遂…命をつないでくれた「居場所」

コロナ禍で始まったオンライン上の自助グループ「依存症オンラインルーム」の活動を報告するイベントが11月3日に開催された。

アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症で悩む当事者や家族が参加し、オンラインルームに救われた経験を語った。育児や介護、近くに自助グループがないなどの事情があっても「どこからでも参加できる」こと、地方にいても各地の仲間と出会えること、顔出しが必須ではなく安心感があることなど、オンラインだからこそのメリットがあるとの声が複数あがった。

イベントには全国から定員の500人を上回るアクセスがあった。主催したNPO法人ASKは今後もこうした需要を受け、オンラインルームを継続するという。

●仲間からのことば「よくつながったね」

「依存症オンラインルーム」は、自助グループの対面開催が難しくなったことをきっかけに、2020年4月に発足。NPO法人ASKが認定する依存症予防教育アドバイザーの当事者や家族などが運営している。

入院中に、アルコール依存症のオンラインルームにつながったという男性は「オンラインミーティングがなければ、今もまだお酒を飲んでいると思う」と語った。

男性は、これまでもアルコールの問題で入退院を繰り返していたが、解毒のために入院したのみで、アルコールに関する治療はおこなっていなかった。飲酒運転をしたこともある。アルコールのおそろしさに気づいたのは、酒をやめてからのことだという。

オンラインルームにつながったのは、2020年のこと。専門医療機関に入院中だった男性は、朝6時ごろにスマホを持って病室を出ていく人をみかけ、不思議に思って話しかけた。

「話を聞くと、アルコール依存症の人たちが集まり、ミーティングをしていることがわかりました。当時は『自助グループ』ということばも知りませんでしたが、僕も参加するようになったんです。はじめのうちは、顔も出さずに聞くだけの参加をしていましたが、仲間の話を聞いているうちに共感できることなどもあり、僕も喋りたくなってしまって」(男性)

画像タイトル 男性が参加しているオンラインルームは、匿名で参加することができる(Luce / PIXTA)

徐々に、音声やチャットで参加するようになった男性。同じ失敗をしてきた「仲間」に対しては、医師や家族、友人には吐露できなかった「苦しい気持ち」を話すことができた。仲間は男性に「よくつながったね」と声をかけてくれたという。

「オンラインルームは、ほんの小さなきっかけ、小さな入口ですが、大きな可能性になると思います。ただ、つながればよいというわけではなく、つながり続けることが必要です。もちろん、(アルコールを)やめるための希望がなければ、人生はつまらない。でも、自助グループには希望をみつけるためのヒントがたくさんあり、仲間と話すことでみえてくるものがあります」(男性)

●自助グループは「支援者」の救いにも

男性が参加しているオンラインルームでは、アルコール依存症で入院中の人を対象に「回復の架け橋」とよばれるミーティングを毎朝6時30分から30分間おこなっている。目的は、リアルで開催されている自助グループにつなぐことだ。

男性は、アルコール依存症の自助グループ「AA(アルコホーリスク・アノニマス)」につながった。現在はリアルなミーティングにたまに顔を出しつつ、オンラインルームにも参加し続けているという。10月には、ASK認定依存症予防教育アドバイザーの資格も取得。依存症の正しい知識や回復の実感などを伝えていく役割として、今後の活動が期待されている。

イベントには、東京の昭和大学附属烏山病院でアディクション外来で診療をおこなっている精神科医・常岡俊昭医師も参加した。常岡医師によると、強制入院となった患者の場合、自助グループにつながってもらえないこともあるという。

常岡俊昭医師 精神科医の常岡俊昭医師(11月3日撮影、NPO法人ASK提供)

「入院中に自助グループにつながり、仲間ができていると、その後に『ひとりではいけない』『仲間をつくったほうがいい』という概念を理解してくれる人が少なくありません」(常岡医師)

このルームには、当事者のみではなく、医療関係者をはじめとする支援者も参加できる。常岡医師は「僕は支援者も入ったほうがよいと言い続けています。支援者も病むことがあるためです。僕自身も自助グループで自分の話をすることで救われている」と語った。

当事者やその家族のみを受け付けるクローズドなルームもある。たとえば、薬物依存症家族のためのルームの場合、支援者からの問い合わせはあるものの、参加は受け付けていないという。

薬物依存症家族のためのルームを運営する近藤京子さん(「オンブレ・ジャパン」代表理事)によると、ルームには、市販薬・処方薬以外に「犯罪」とされる違法薬物の問題に悩んでいる家族もいる。そのため、参加すること自体に慎重になる人も少なくない。過去に支援者のことばに傷つき、孤立してしまった経験をもつ家族もいるという。

●画面の奥には涙を流しながら話を聞く「仲間」がいた

イベントでは、家族の立場からの体験談も語られた。

アルコール依存症の夫がいる女性は、夫の暴言・暴力がひどくなり、警察が何度も家に来たことがあると話した。警察には「夫婦喧嘩はやめなさい」「ほどほどにしなさい」と言われたが、女性は「警察には手を貸してほしかった。治療に結びつけることばを言ってほしかった」と当時を振り返った。

女性の夫は焼酎を飲みながら仕事し、帰宅後の夜も酒を飲むなど、アルコールの飲み方に問題がみられた。女性の財布から金をとったり、ツケで焼酎を買ったりしたこともある。

女性が「飲まないで」と言うと、夫は酒をゴミ捨て場や公園の茂みなどに隠した。女性は酒の中身を水に差し替えて、置いていた。

「雨の日は傘をさし、片手には虫除けスプレーを持って、外からオンラインルームに参加していました。夫に飲まれてしまうとイヤなので、家が見える場所にいました」(女性)

画像タイトル 女性は「どのようにして家族が回復したのかを知りたい」一心で仲間の話を聞いた(YUMIK / PIXTA)

なかなか変わらない現状に、もどかしさを感じたこともある。そんな中、夫が生死を彷徨う病気を発症した。当初は「生きていてくれるだけで十分」と思っていたが、元気に退院した夫をみると「酒をやめてほしい」という思いが出てきた。仲間につなげたいと思い、夫をオンラインルームに誘った。

オンラインルームに参加し、笑顔になっていく女性の姿をみていた夫は、ある日から自らも発言するようになった。画面の奥には、涙を流しながら、話を聞く仲間の姿があった。

「今でも、明日飲んで帰ってくるのではないかという不安な日々が続いていますし、暴力があったころのフラッシュバックが起きることもあります。でも、ようやく自分の回復についてみつめることができるようになりました。『私には仲間がついている』と思いながら、今も語らせてもらっています」(女性)

●オンラインルームに「命をつないでもらった」

ほかにも、実際にオンラインルームにつながったことで、「今日1日」を生き延びた当事者たちがそれぞれ体験談を語った。その一部を紹介する。

「どこからでも参加できるオンラインだったからこそ参加しやすかった。リアルなミーティングに出向く際に市販薬を買えるため、薬を買える環境に身を置かずにいられた。名前を変えて、ビデオオフにすることで、自分の情報を明らかにせずに分かち合いができる。つらいときは、仲間とのつながりを断ちたいと思ってしまうときもあるが、参加したいときに参加できるオンラインルームに救われている」 (大量服薬の経験がある薬物依存症当事者)

「うつ病で働けなくなり、妻が育児・仕事をする中、焦りの感情が募り、FXに手を出してハマってしまった。失敗を繰り返し、借金もした。『死んで詫びるしかない』と自殺未遂もした。まだ1週間前に退院したばかりで焦りや戸惑いはあるが、入院中にオンラインルームにつながったことで、全国の仲間と出会えた。回復を信じてくれた親や妻はもちろん、仲間や医療関係者など『命をつないでもらった』ことに感謝したい人たちがたくさんいる」 (ギャンブル依存症当事者)
「動画依存を病院で相談しても『そんなに動画が好きならば、極めてブログを書いたら』『ほどほどにしたら』などと言われた。スマホやパソコンは日常から切り離せない。いろいろ探すうちに、オンラインルームにたどりついたが、ここでは『ほどほど』にしようとしてもできないつらさを分かってもらえる」 (ネット依存症当事者)
「誰にも言えなかった窃盗した良心の呵責と自己嫌悪、疎外感、不安、死にたくなる気持ちを吐き出せている」「死を思い描くほど押しつぶされそうだった孤独感が和らいだ」 (クレプトマニア当事者)
「食べることは、やめたら死んでしまうため、やめられない依存。やめて済むものではない自分の病気とどう付き合っていけばいいのかという迷いがあった。自助グループにつながり、アルコールは止まったものの、喉から血が出るまで食べ吐きを繰り返した。アルコールの自助グループでは、なかなか摂食障害の話をできなかったが、心置きなく話せる場があり、自分がことばにできなかったことを仲間がことばにしてくれた」 (摂食障害、アルコール依存症当事者)

NPO法人ASK「依存症オンラインルーム」のポスター NPO法人ASK「依存症オンラインルーム」のポスター

ミーティングは、Zoomなどで開催される場合がほとんどだが、LINEチャットによる文字のみのミーティングをおこなうAC(アダルトチルドレン)のオンラインルームもある。

リアルでの活動をおこなってきた自助グループでも、対面でのミーティングが再開しつつある。しかし、どこからでも集まれること、コロナの時代をともに生きるためにオンラインでつながる場を確保する必要があることなどから、今後もオンラインルームは継続していくという。

【各オンラインルームの問い合わせ先】 
https://www.ask.or.jp/adviser/online-room.html

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