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新型コロナで困窮する「性風俗の女性」たち テレワークと休校が与えた意外な影響
安井飛鳥弁護士(オンライン通話)

新型コロナで困窮する「性風俗の女性」たち テレワークと休校が与えた意外な影響

新型コロナウイルスの感染拡大は日本人の生活を一変させた。特にコロナの影響を大きく受けていると言われているのが性風俗業界だ。まさに「濃厚接触」の最前線の産業だけに、コロナによる「風俗離れ」の話もまことしやかに伝え聞かれる。性風俗で働く女性キャストを長らく支援してきた安井飛鳥弁護士は「減収の相談が増えている」と危機感を強める。

●「新型コロナで風俗離れ」は本当なのか

厚労省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」では、「濃厚接触」の定義を「必要な感染予防策をせずに手で触れること、または対面で互いに手を伸ばしたら届く距離(目安として2メートル)で一定時間以上接触があった場合に濃厚接触者と考えられます」としている。

性風俗の現場こそ「近距離」「対面」でまさに濃厚接触の最前線であろう。本能的に感染リスクを警戒した男性客の「風俗離れ」もメディアで取り上げられるようになった。

弁護士とソーシャルワーカー(社会福祉士・精神保健福祉士)による性風俗で働く女性向けの生活・法律相談サービス「風テラス」でも、コロナ騒動が始まってから相談が増えているという。新型コロナが性風俗で働く女性キャストに及ぼした影響について、風テラスで活動する安井弁護士が語った(インタビューはオンライン会議で実施)。

●風俗業界で大きく「減収」

ーー性風俗の相談内容にコロナの影響を感じますか

はい。変化が起きたのを感じたのは、コロナの自粛ムードが本格化した2月の下旬くらいから。端的に言って、どこの店も経営が苦しくなり、キャストの仕事がすごく減ってしまっている。収入激減の状況が顕著になってきた。統計を取れるほどのデータはまだないが「また、コロナ関連の相談か」と感じるようになってきた。相談の内容は特にお金の問題に偏っている。

ーー減収の最大の原因は、コロナの感染リスクを考えた客の「風俗離れ」ですか

それは大きいと思う。在宅勤務の普及で会社勤めの人が街から減り、営業や接待で飲食店を使わなくなった。接待からの流れで夜の店に流れていた人も減る。安全の意識が高い人からすれば、風俗店は濃厚接触中の濃厚接触であり、足を運ばなくなった。

店舗型の店も儲けにならないので、営業を短縮している。無店舗型のデリヘルなどでもスタッフやキャストを待機させるだけでも人件費は発生してしまう。多くの店舗が経営を維持できずに潰れるかもしれない。

ーーどんなキャストが相談に訪れるのでしょうか

年齢層は20〜50代まで様々。元々、女性キャストは歳を重ねるほど稼げにくくなる傾向にあるが、最近は高級ソープなど、比較的稼げていた若い年齢層のかたからもコロナの影響で稼げなくなってきたという相談が増えている。

風俗業界は元々、コロナ以前から楽に稼げる業界ではなくなっている。デリヘルなどの業態は特にそうだ。店は客を取るのに苦労しているし、個々のキャストも指名を維持するのに苦労しているのが実情だ。

私への相談内容はお金のトラブルや「稼げない」というものが多かったが、最近は輪をかけてその傾向が顕著になった。以前から稼げていなかった層はいよいよ全く稼げなくなり、「生活していくお金が全くない」と相談にくる。

一方で、比較的稼げていた人たちの相談内容の「質」も変化した。従前は稼げる人はお金には困っていないが、男女間のトラブルやネット掲示板の誹謗中傷、セカンドキャリアについて悩んでいるという相談が主だった。しかし、コロナの感染が拡大してからは、高収入層のキャストからも「今月の家賃が払えなくなる。どうしよう」という相談比率が増えたことが特徴だ。

ーーどれくらいの減収なのか

キャストの収入は日によって月によってバラバラ。月に10万円という人もいれば、100万〜200万円の人もいる。その日その日の稼ぎで生活しているので、固定の給料という概念ではない。ソープで働いている人は月に100万円〜200万円を稼いでいる一方で、高級マンションの家賃や自分自身へのメンテナンス代としての化粧品や洋服代などの支出も多い。客が減ると、生活があっという間に破綻してしまうレベルの減収になりうる。

●減収による影響「非合法な方法で稼ごうとする人も」

ーー減収によって、店から「クビ」にされることは?

キャストは基本的には個人事業主として考えられている。風俗の業種でも違いはあるが、店とキャストは個人事業主同士の業務委託契約という関係にある。「クビ=解雇」という概念はないが、客が来なければ出勤して待っていても「お茶をひいてしまう」(仕事がない)状態になる。そうすると、稼ぎはない。なんなら交通費だけでもマイナス。

仕事がないキャストの中には、より危険な方法で稼ごうとする人もいる。個人売春やパパ活等の非合法な手段に手を出してトラブルに巻き込まれている人の相談が最近増えた。

性風俗店では、キャストはお店によってある程度は守られている。しかし、個人と個人のやりとりになれば、完全に自己責任であり危険性が飛躍的に高まる。行った先で詐欺被害に遭うとか、避妊なしの性行為をされて妊娠したなどの相談も増えている。

ーー今後、増加しそうな相談は?

住む家をなくしてホームレス状態になる風俗嬢の相談はこれまでにもあったが、今後はそれが増えると思う。

貯蓄もない。借金が増える。家賃を滞納して家から追い出されて漫画喫茶に寝泊まりする。キャストは職業を履歴書に書けないので、家を一度失うと、改めて賃貸契約するハードルが非常に高い。

家についてサポートする店舗もあるが、そうしたサポートもないとキャストが自力で家を用意できずにさまようことになる。そうして生活困窮状態が極まれば、最悪の場合は自殺などに至るケースも起きえると思う。

ーーコロナへの感染を心配するキャストもいますか

現状の相談はお金にまつわるものだが、これだけ全国的にコロナが流行していけば、コロナに感染して困っているなどの相談が出てくるかもしれない。風俗業界では性感染症になると仕事として命取りになるので、店舗や高収入のキャストは感染症対策をしっかり行なっている。コロナに対しても意識が高い。

一方で、キャストの中にはそうした感染症対策に関する情報が十分に行き渡っていない人もいる。中には知的に障害を抱えているとみられるかたもいて、そもそも「コロナって何?」という人もいる。

風俗店においても新型コロナ対策の情報をわかるように示すのが大事だ。風テラスでも、わかりやすい情報をポスターにして店舗に配布する取り組みをやろうとしている。

●子ども、家族の話題

ーーキャストにはシングルマザーも多いようですが、「コロナ休校」の余波は?

シングルマザーのキャストは保育園を活用したり、託児所のある風俗店を使ったりと子育てへの意識が高い人が多い。シングルマザーや妊婦のニーズもある業界なので、託児スペースを設けたりしてキャストの福利厚生サービスを充実させている店舗もある。

ただ、この状況が長引けば、小学校年齢の子どもを持つシングルマザーのキャストが仕事を続けていくことにも限界があると思う。小学生をお店にまで連れていくわけにはいかない。自身の親との折り合いが悪いとか、親を介護している境遇のキャストもいて、子どもの預け先として親を頼りにもできない。この他にも家庭においては他の問題が生じると思う。

●「奥さん風俗嬢」の稼ぎで家計をまかなっていた家庭に打撃

ーーどんな問題でしょうか

身内バレの問題だ。実は家計を補うために家族に内緒で風俗で働いている女性もけっこういる。旦那さんの勤め先が休業したり、テレワークで家にいるようになれば、女性はこっそりと風俗に働きにいけなくなる。身内バレによるトラブルや家計を補うことができず、窮していく問題が増えるかもしれない。

ーー相談者に対してどんなアドバイスを行なっていますか

法的な話であれば、借金の債務整理や自己破産に関してアドバイスをしている。福祉的な話では、活用できる福祉の公的制度の紹介もしている。風俗を辞めさせることを目的にしているわけではないので風俗を続けたい人にはどうすれば続けられるかという支援もする。一方で、もともと風俗でほとんど稼げなくなっていてコロナの影響でどうにも生活が維持できなくなった人には「ふんぎりをつけてみては」と引退をすすめることもある。

性風俗がキャストのセーフティーネットになっているのは否定できない事実だ。性風俗について「風俗業界は根絶すればいい」という意見と、「仕事として存在して生計を立てている人が存在する以上、そこには仕事としての支援が必要」という意見がある。私は後者の立場だ。

ーーコロナで困窮した風俗業界への補償という話は現実的でしょうか

コロナの影響によって、企業で働く会社員への補償や、フリーランスの補償という話は多少議論されるようになってきた。しかし、風俗店、風俗嬢への補償の話は絶対に公に出てこない。

風俗業は、風営法で規定されているものの、政策上はグレーな存在として曖昧な扱われ方をされ続けてきた。風俗嬢も世間の偏見を気にして負い目を感じながら働いている人が少なくなく、自分たちから「補償をください」と声をあげにくい。

中には、税金を一切申告してこなかったキャストもいる。職業差別するなと言いたくても、税金を納めていないことから公的補償を求めずらい。

かといって税金を納めていなかったことを責めるのも酷です。10代の頃から税務申告の仕組みをよくわからないまま働いていたり、店から代わりに支払いをすると騙されていたため結果的に無申告状態になってしまっている人も多い。

コロナの影響が明るみになりにくいし、声を上げにくい業界だ。職種や業種に紐づけた補償だけではこうした方々がこぼれてしまうので、本流の福祉政策として国民一人ひとりへの生活補償が充実されるべきだ。

プロフィール

安井 飛鳥
安井 飛鳥(やすい あすか)弁護士
社会福祉士・精神保健福祉士。法律と福祉の知見を活かして子どもや若者、障害者、依存症患者等の福祉的援助を必要とする方の相談支援に従事。法律職と福祉職の普遍的協働を目的とする団体『弁護士とソーシャルワーカーの協働を考える会』のメンバーとして、制度の狭間にあり困難な状況にある方々のための権利擁護や啓発活動に注力している。

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