東京ミネルヴァ法律事務所の破産事件に見る非弁提携の問題点と対策【後編】

6月24日に、約51億円という法律事務所としては大きな負債を抱えて破産した「東京ミネルヴァ法律事務所」について、広告業者による非弁提携の疑いが指摘されている。 東京ミネルヴァ法律事務所の破産事件における被害者の状況や法曹界への影響、同様の事件を起こさないための対策などについて、福岡県弁護士会非弁活動監視等委員会委員であり、九州弁護士会連合会業際非弁対策に関する連絡協議会委員長である向原栄大朗弁護士(福岡県弁護士会)に聞いた。(インタビュー日:2020年7月21日)
インタビューの前編はこちら

目次

  1. 懲戒制度について、考える時に来ているのではないか
  2. 弁護士同士の横の繋がりが、問題を起こして被害を出してしまうのを防ぐ手立てになる
  3. 非弁業者に入り込まれているかもしれない場合は、早めに業者を切り離す

懲戒制度について、考える時に来ているのではないか


ーーなぜ51億もの巨額の負債になる前に、引き返せなかったのでしょうか。

弁護士会に相談すると、「どこが、どのように対応するのか(わからない)」という悩みがあるのだと思います。 恐らくですが、今回のケースで相談すると、(懲戒になる可能性が高いため、負債が膨れ上がるよりも)懲戒される恐怖の方が大きくて、言えなかったのではないでしょうか。

ーー懲戒制度については、どのように考えていますか。

現在、弁護士会にもよりますが、重大事件の場合、懲戒処分が申し立てられた段階で、実名まで含めたプレスリリースが出ることがあります。当然、報道されて、ネットにも掲載されることになります。

今回東京ミネルヴァのケースでは、被害拡散防止を第一義とする観点から、実名公開は必要だったと考えています。福岡県弁護士会でも、事前公表として、「懲戒請求がされた」というプレスリリースを出しますが、懲戒処分前の公表は、慎重であるべきだと思っています。

とはいえ、影響の大きい業務停止処分が、近年散見されるようになりました。かつては、懲戒制度は、一罰百戒の観点から運用していればよかったのかもしれません。しかし、懲戒処分、とくに業務停止処分が顧客に大きな影響を与えるケースが、これだけ散見されるようになると、一罰百戒的に処分を下すことが、顧客に迷惑をかけることになります。それが、「弁護士」という職業に対する不信感・不安感を増大させるのではないかと懸念しています。

同時に、我々弁護士は、「名前で商売していること」「インフラをもっていること」から、懲戒で仕事が止まることに大きな恐怖感を抱きます。一罰百戒的な懲戒制度では、業務滞留・預り金の不足などを早めに申告するデメリットが大きすぎるため、SOS発信が遅れ、被害の拡大に繋がる要因になっているように思います。東京ミネルヴァも、そういう状況にあったのではないかと想像します。

業務停止になると、全く仕事ができなくなります。しかし、弁護士は、それでも従業員の給与や家賃などは払わなければなりません。刑罰で言えば、「死刑」しかない状態です。早い段階で弁護士会に言いにくい理由は、ここにあるのでは、とも思います。 サラリーマンが出勤停止になるのとはわけが違うということを、弁護士会にも理解してほしいと考えています。

この点は、非弁業者が弁護士を支配しやすくする要因にもなっています。弁護士が、一旦非弁提携に関与すると、その先には懲戒処分しかなく、逃げられないことを知っていて、そこに付け込んでいるのです。

懲戒制度は、依頼者の被害という観点から、今後、方法やあり方を考えるべきではないでしょうか。事件を起こした弁護士にはやった事への償いをしてもらわないといけませんが、懲戒処分は被害者に対する償いにはなりません。依頼者がいる以上、ただ懲戒するのではなく、せめて被害を軽減できるような工夫をするべきですし、また、場合によっては、後戻りできるような「黄金の橋」も必要だと思います。

弁護士同士の横の繋がりが、問題を起こして被害を出してしまうのを防ぐ手立てになる


ーー問題を起こして大きな被害を出してしまう事態になる前に、防ぐ手立てはないのでしょうか。

福岡県弁護士会では、「同じ弁護士に苦情が5件、または、一年間で3件あったら、呼び出す」というルールがあり、呼び出しがあまりにも多い弁護士にしっかり対応していく制度があります。もちろん、こういった制度も大事ですが、一番大事なのは「弁護士同士の横の繋がり」だと考えています。問題を起こしてしまう弁護士は、ほぼ孤立していて、相談できる相手がいない状況にあることが多いです。

福岡は、地方都市ということもあってか、狭い世界で、弁護士同士が顔見知りなので、「最近、(あなたについて)こんな話を聞いたけれど、大丈夫?」などと直接声をかける事もできます。ただ、弁護士人口の多い東京や大阪では難しいかもしれません。また、福岡県弁護士会では、「新人ゼミ」という制度で、新人弁護士に師匠のような先輩弁護士をつけて、様々なレクチャーをする取り組みを行なっています。弁護士同士の繋がりを何かしら持っておいた方が、SOSが出しやすいと思います。

私も後輩弁護士から相談を受けますし、悩んだら先輩弁護士に相談したりしています。悩まない弁護士はいません。事件処理に関する悩みだけでなく、ただの愚痴などを話せる同業者がいるだけで、とても楽になります。

また、自分の(弁護士としての)感覚が間違っていないかどうかの確認もできます。間違っているか不安になったら、他の弁護士に「私はこう考えるが、あなたはどう思うか」と聞きます。同じ意見だったら「弁護士がふたりとも同じ意見なら、ほぼ間違っていないだろう」と思うことができます。

東京ミネルヴァ法律事務所のような大規模かつ特殊な事務所だと、共有や相談はしにくいかもしれません。また、「自分のやっていることが違法かもしれない」という感覚があると、特に親しく、また、口が固い人物でないと相談できませんよね。「(センシティブな事案について)どこに相談すればいいのかわからない」という問題がありますので、難しいかもしれません。

ーー弁護士が気軽に相談できる窓口はないのですか。

福岡県弁護士会でも設けていますが、弁護士会会員向けの相談窓口があるので、そこに相談してもらえたら、そんなに悪いようにはされないと思います。本当は、公益通報のような、秘密をある程度のところまで守ってくれて、かつ、弁護士が対応する窓口があるといいのですが。私も非弁について相談を受ける時は、秘密厳守の上で、(非弁)提携になるかならないか、私なりの意見を伝えています。

ーー非弁かどうかを判断する上で、参考になる書籍や冊子などはありますか。

深澤諭史先生の「これって非弁提携?弁護士のための非弁対策Q&A」や、「条解弁護士法」の27条、72条、73条、74条の部分、「職務規定基本コンメンタール」の懲戒事例部分などがおすすめです。

非弁業者に入り込まれているかもしれない場合は、早めに業者を切り離す


ーーもし非弁業者に取り込まれてしまったら、どのようにして抜け出せばいいのですか。

なるべく早く、非弁業者との関係を切り捨てることが重要です。「非弁業者から従業員まで派遣されているパターン」「非弁業者に、すべてのインフラを丸抱えされているパターン」で、非弁業者に人員などを引き上げられたらたちまち仕事が止まる状況の場合は、非弁業者の切り離しまでの計画を慎重に考えておく必要があります。切り離せるかどうかの境目は、「弁護士サイドにたった従業員を確保するなどの対抗策を講じられるかどうか」です。それができないところまで入り込まれていると、抜け出すのは厳しいと思います。

非弁業者を切り離す上で、一番問題になるのは、依頼者から受任した事件が多数あることなので、現在抱えている事件を、事務所内外の別の弁護士に移して、事件数を徐々に減らしていくことが有効です。

私が過去に非弁案件の後始末を担当したケースでは、50件ほど事件が残っていたので、十数人の弁護士に集まってもらい、その人たちに引き継いでもらいました。着手金未受領や報酬金未受領の事件であればまだいいのですが、それらが受領済みだと、後始末を引き受ける弁護士側がボランティアになってしまうので、難しいですね。その場合、「非弁提携をした弁護士が自腹を切れるかどうか」が重要になります。酷な話ではありますが、非弁提携から抜け出そうと思ったら、お金を使うことになるのは仕方がないのではないでしょうか。

一度、非弁業者に取り込まれてしまうと抜け出すのは非常に困難なので、とにかく非弁業者や人物には「関わらない」「事務所に入りこませない」ことが重要です。

そして、非弁業者の多くは、顧客の紹介など、弁護士の「欲しいもの」をエサに近づいてきます。もちろん顧客の紹介はありがたいですが、そもそも、見ず知らずの人や団体がいきなり顧客紹介を装って近づいてくるのは、その紹介を業にしようとしている可能性があると考えてように思います。業にならないのに、見ず知らずの弁護士に顧客紹介する者などいるはずがないからです。 したがって、見ず知らずの人や団体からの顧客紹介には、裏がある蓋然性が非常に高いので、注意してください。

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