民事上の示談と刑事手続きの関係
死亡事故の加害者は刑事裁判で「過失運転致死罪」や「危険運転致死罪」などの罪に問われる可能性があります。
刑事裁判と、民事上の損害賠償請求(示談交渉や民事裁判など)は別々の手続きですが、刑事手続きよりも先に示談が成立している場合、検察官が起訴・不起訴を判断する際や、裁判官が判決を下す際に、加害者に有利な事情(情状)として考慮されることがあります。
加害者が任意保険に加入している場合には、最終的には保険金で損害が填補される可能性が高いので、「示談がいつ成立したか」ということにかかわらず、情状の一要素となる可能性があります。
示談で過失割合を争う場合、刑事裁判の結果を参考にすることも
このように、示談が刑事裁判に影響を与えることもあれば、反対に、刑事裁判の結果が示談に影響することもあります。
たとえば、示談交渉で「過失割合」について争いがある場合です。
過失割合とは、「加害者と被害者のどちらにどれだけの落ち度があったか」を示す割合のことです。
たとえば、加害者の過失が90%、被害者の過失が10%、賠償額が1000万円の場合、加害者が被害者に支払う賠償金は900万円となります。
このように過失割合に応じて賠償額を減額することを「過失相殺」といいます。
死亡事故の被害者でも、たとえば赤信号無視や脇見運転など、過失があったとされる場合には、加害者よりも過失割合を多く取られることがあります。
過失割合に納得がいかない場合には、刑事裁判の判決や、不起訴の場合には実況見分調書など警察や検察が作成した記録(刑事記録)を手に入れて、それらに示された事故状況を参考にしながら交渉を進めていくことが考えられます。
刑事裁判では、裁判官は、「どのような事故状況だったのか」という事実について、証拠などをもとに厳密に認定します。
加害者が争えば、民事の場合でも事故状況について保険会社の調査が入りますが、捜査機関の調査と比べると限界があります。
そのため、認定された事実が遺族の主張に沿うものであれば、遺族の主張を裏付ける強力な証拠になります。
加害者が不起訴となり刑事裁判にならなかった場合でも、実況見分調書などの記録には、警察や検察が捜査した結果が書かれているので、やはり強力な証拠になります。
刑事記録を手に入れたい場合には、検察官が不起訴処分をするか、刑事裁判になった場合には判決が確定するまで待ちましょう。
事故状況に争いがあり、刑事記録が証拠として必要になるような紛争では、交渉の過程で専門的な知識が必要となることも少なくありません。保険会社と交渉を進めていくことに不安がある方は、刑事記録の入手も含めて紛争の解決を弁護士に依頼することを検討してもよいでしょう。
刑事手続きがどのように進んでいるかを知る方法
このように刑事裁判が示談交渉に影響を与えることがあるため、遺族としては刑事手続きの進行状況を知りたい場合もあるでしょう。
死亡事故の遺族が刑事裁判の進行状況をチェックするために、次のような制度を利用することができます。
被害者等通知制度
被害者等通知制度とは、被害者やその遺族が加害者の刑事裁判の情報などについて、通知を受け取ることができる制度です。 被害者等通知制度を利用して知ることができる情報は次のとおりです。
通知内容 | 具体例 |
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検察官が下した処分の内容 | ・起訴して裁判にかける ・裁判はせず罰金のみを科す ・不起訴にする |
裁判を行う裁判所 裁判が行われる日 |
・裁判所名 ・日時 |
裁判の結果 | ・判決で言い渡された刑罰の内容 ・控訴されているかどうか など |
犯人の身柄の状況 起訴事実 不起訴の理由 |
・加害者が逮捕や勾留されている状況 ・裁判で罪に問われる原因となる事実 ・不起訴の理由 |
加害者が刑務所に入る場合の情報 | ・刑務所の名前、所在地 ・刑務所から釈放される予定の年月 ・刑務所でどのような作業をさせられているか ・釈放された場合の年月日 など |
被害者等通知制度を利用して通知を受けたい場合は、検察官、検察事務官、被害者支援員に対して、通知を受けたい旨を伝えます。電話での口頭や書面で通知されます。
優先的に裁判を傍聴できる
裁判の傍聴は原則として誰でも自由にできます。しかし、社会の関心が集まる事件の裁判で、見学者(傍聴人)が多くて法廷に入りきらない場合には、抽選となることがあります。 このような場合でも、遺族は、他の人より優先的に傍聴することができます。 裁判所や検察官、検察事務官、被害者支援員に、優先的に傍聴させてほしい旨を事前に伝えることで、優先的に傍聴できるよう配慮してもらうことができます。
裁判記録の取寄せ
遺族は、刑事裁判が行われている期間中に、裁判の記録を閲覧・コピーすることが認められています。 裁判の記録を見たい、コピーしたい場合には、担当する検察官、検察事務官、被害者支援員に問い合わせましょう。