死亡事故

弁護士監修記事 2018年03月28日

通勤中の交通事故で死亡した場合の労災保険の手続き

通勤中や仕事中の交通事故で死亡してしまった場合、労災として労災保険を使うことができます。また、通常の交通事故と同じように自賠責保険や任意保険を使うこともできます。 どちらの保険を先に使うのかは遺族が自由に決められるので、補償内容を確認して検討しましょう。 この記事では労災保険で受けられる補償の内容、自賠責保険や任意保険との関係、手続きの進め方などについて詳しく解説します。

目次

  1. 通勤中・仕事中の事故では「労災保険」が使える
  2. 労災保険で受けられる補償の内容
    1. 葬式の費用
    2. 被害者が亡くなったことに対するお金が支払われる
  3. 労災保険と自賠責保険(任意保険)の補償内容の違い
    1. 同じ内容の補償は二重取りできない
    2. 違う内容の補償はそれぞれの保険から受け取ることができる
  4. 労災保険と自賠責保険・任意保険の手続きの進め方
    1. 労災保険と自賠責保険・任意保険の関係
    2. 一般的な手続きの進め方(加害者が任意保険に加入している場合)
    3. 加害者が任意保険に加入しておらず、自賠責保険のみに加入している場合
    4. 加害者が自賠責保険にも任意保険にも加入していない場合
  5. 労災保険と自賠責保険・任意保険のどちらを先に使うべきか?
    1. 労災保険からの支払いを先に受けた方がよいケース
    2. 自賠責保険からの支払いを先に受けた方がよいケース
  6. 労災保険を先に使う場合の手続きの流れ
    1. 労基署に労災保険を申請する
    2. 労災保険を先に使いたいことを任意保険の担当者に伝える
  7. 自賠責保険・任意保険を先に使う場合の手続きの流れ

通勤中・仕事中の事故では「労災保険」が使える

交通事故の被害にあうと、保険を利用して治療費や慰謝料などの支払いを受けることができます。 通勤中や仕事中に交通事故にあい、労働災害(労災)と認められた場合、「労災保険」を使って治療費などの支払いを受けることができます。 労災保険は、雇用形態を問わず、原則として全ての事業主(会社)が加入している保険です。 会社が労災保険の届出や保険料の支払いをしていないこともありますが、そのような場合でも被害者は労災保険から治療費などの支払いを受けることができます。

労災保険で受けられる補償の内容

労災保険を使うと、次のような補償を受けることができます。 alt 詳しい内容を見ていきましょう。 ケガをした場合の補償については、こちらの記事で詳しく解説しています。

後遺障害が残った場合の補償については、こちらの記事で詳しく解説しています。

葬式の費用

被害者が亡くなった場合には、葬式の費用として「葬祭給付」(仕事中の事故の場合には「葬祭料」)が支払われます。

被害者が亡くなったことに対するお金が支払われる

被害者が亡くなった場合、遺族に年金などが支払われます。遺族年金(仕事中の事故の場合には「遺族補償年金」)といいます。 被害者の給料をもとに計算した「遺族年金」(仕事中の事故の場合は「遺族補償年金」)のほか、ボーナスをもとに計算した「遺族特別年金」、一時金として支払われる「遺族特別支給金」があります。

労災保険と自賠責保険(任意保険)の補償内容の違い

通勤中や仕事中に交通事故にあった場合、労災保険だけでなく、通常の交通事故と同じように、加害者が加入している「自賠責保険」や「任意保険」も使うことができます。 自賠責保険は、法律で全ての自動車に加入が義務づけられている保険です。ただし、自賠責保険の補償には限度額があります。 任意保険は、自賠責保険で支払いきれない賠償に備えて、ドライバーが任意で加入する損害保険です。事故の損害が自賠責保険の限度額を超える場合に、その超える部分の賠償金が任意保険から支払われます。 労災保険と自賠責保険の補償には同じような補償と、異なる補償があります。それぞれの補償の主な違いをまとめると、以下のようになります。 任意保険は実際の損害額が自賠責保険の限度額を超える場合に支払われる保険なので、補償内容は自賠責保険とほぼ同じように考えることができます。

補償の対象 労災保険 自賠責保険
葬式の費用
被害者が亡くなったこと
※「遺族特別年金」と「遺族特別支給金」は自賠責の支払いを受けた場合でも請求できる。
慰謝料 ×

また、自賠責保険に独自の制度として、「過失相殺」(過失割合に応じて保険金が減額される制度)、「仮渡金制度」(すぐにお金が必要なときに費目を特定しないで一定の金額を支払ってもらえる制度)、支払い限度額があります。

補償の対象 労災保険 自賠責保険
過失相殺
(過失割合に応じて保険金が減額される制度)
ほぼなし あり
(被害者の過失割合が7割以上の場合、保険金が減額される)
仮渡金制度
(すぐにお金が必要なときに費目を特定しないで一定の金額を支払ってもらえる制度)
×
支払い限度額 ×
(3000万円)

任意保険にも過失相殺の制度があります。任意保険の場合には、被害者の過失割合が1割など少しの場合でも、過失割合に応じて保険金が減額されます。

同じ内容の補償は二重取りできない

労災保険と自賠責保険で内容が同じ補償として、葬式の費用と、被害者が亡くなったことに対する補償があります。 このように同じ内容の補償は、労災保険と自賠責保険の両方から二重取りをすることができず、どちらかのみから支払いを受けることになります。 ただし、同じ補償内容の場合でも、片方の保険から受け取った保険金よりも、もう一方の保険で補償される金額の方が多い場合には、その多い部分だけをもう一方からも受け取ることができます。

二重取りを防ぐ制度「支給調整」

自賠責保険と労災保険との二重取りを防ぐ制度として「支給調整」という制度があります。 先に自賠責保険から支払いを受け取った場合には、自賠責保険で受け取った金額を差し引いた金額が労災保険から支払われます。 先に労災保険から支払いを受け取った場合には、労災保険から全額の支払いを受け取ることができますが、二重取りになる部分を労災保険が自賠責保険に請求します。そのため、自賠責保険からは二重取りになる金額を差し引いた金額のみを受け取ることができます。

被害者が亡くなったことに対する補償のうち、労災保険の「遺族年金」(「遺族補償年金」)については、二重取りとして支給調整されるのは最初の7年間のみで、8年目以降は受け取ることができます。

「遺族特別年金」と「遺族特別支給金」は自賠責保険から保険金を受け取った場合でも労災保険に請求できる

alt 被害者が亡くなったことに対して労災保険から支払われる補償には、「遺族年金」(仕事中の事故の場合には「遺族補償年金」)と「遺族特別年金」「遺族特別支給金」があります。 このうち、自賠責保険との二重取りが許されない部分は遺族年金(遺族補償年金)に限られ、「遺族特別年金」「遺族特別支給金」は、自賠責保険から保険金を受け取ったとしても、労災保険から受け取ることができます。 先に自賠責保険から支払いを受けた場合でも、労災保険に「遺族特別年金」「遺族特別支給金」だけを請求することができるので、労災保険を使うことができる場合は忘れずに請求しましょう。

違う内容の補償はそれぞれの保険から受け取ることができる

自賠責保険では「慰謝料」が補償されますが、労災保険では補償されません。 このように労災保険と自賠責保険とで違う内容の補償については、それぞれの保険から支払いを受けることができます。

労災保険と自賠責保険・任意保険の手続きの進め方

労災保険と自賠責保険・任意保険の関係

alt 通常の交通事故の場合、自賠責保険で支払いきれない賠償金を任意保険から受け取ることができます。 通勤中や仕事中の交通事故の場合、まず労災保険と自賠責保険で補償内容が同じ部分があります。 同じ補償の部分は、労災保険と自賠責保険の両方から二重取りをすることができず、どちらかのみから支払いを受けることになります。 ただし、同じ補償内容の場合でも、受け取った保険の金額よりも、もう一方の保険で補償される金額の方が多い場合には、その多い部分だけをもう一方からも受け取ることができます。 労災保険と自賠責保険で補償内容が異なる部分は、それぞれから支払いを受けることができます。 このように労災保険と自賠責保険から支払いを受けても全体の損害額に届かない場合に、任意保険から支払いを受けることになります。

一般的な手続きの進め方(加害者が任意保険に加入している場合)

alt 労災保険を請求するには自分で手続きを行いますが、会社が手続きを代わりにやってくれることも多いようです。 加害者が任意保険に加入している場合には、任意保険会社の示談代行制度によって、任意保険会社の担当者が加害者の代わりにあなたと示談交渉をします。 任意保険からは、自賠責保険から支払われる賠償金も含めた保険金が支払われます。任意保険会社は、先にまとめて被害者に支払いをしてから、後で自賠責保険の分を自賠責保険会社に請求します。このような任意保険会社の対応を「一括対応」といいます。

加害者が任意保険に加入しておらず、自賠責保険のみに加入している場合

加害者が任意保険に加入しておらず、自賠責保険のみに加入している場合には、任意保険が使えないので、労災保険と自賠責保険を使うことになります。 労災保険の手続きは、加害者が任意保険に加入している場合と同じです。 自賠責保険の手続きは、加害者が手続きをして保険金を被害者に支払う方法(加害者請求)と、被害者が手続きをして被害者に直接保険金が支払われる方法(被害者請求)があります。 被害者請求の方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

加害者が自賠責保険にも任意保険にも加入していない場合

加害者が自賠責保険にも任意保険にも加入していない場合には、自賠責保険も任意保険も使えませんが、政府が運営する「政府補償事業」に賠償を請求することができます。 また、被害者自身が「人身傷害保険」や「無保険車傷害保険」に加入している場合には、これらの保険も使うことができます。 労災保険は加害者が任意保険に加入している場合と同じように使うことができます。 「政府補償事業」や「人身傷害保険」「無保険車傷害保険」については、こちらの記事で詳しく解説しています。

労災保険と自賠責保険・任意保険のどちらを先に使うべきか?

労災保険と自賠責保険のどちらから先に支払いを受けるべきかは、特に決まっていません。 どちらの保険から先に支払いを受けるかは、自分で決めることができます。 厚生労働省は「原則として自賠責保険の支払を労災保険の給付に先行させるよう取り扱うこと」という通達(基発第1305号)を出していますが、通達は厚生労働省内部での取扱いを定めるものなので、被害者は必ずしも従う必要はありません。 労災保険の手続きと自賠責保険・任意保険の手続きを併行して進めることもできます。

労災保険からの支払いを先に受けた方がよいケース

事故の状況によっては、労災保険からの支払いを先に受けた方がよいケースがあります。 たとえば、被害者にも過失がある場合です。 被害者にも過失がある場合、任意保険や自賠責保険では、被害者の過失割合(事故を引き起こした落ち度)によって保険金を減額する「過失相殺」という制度があります。 自賠責保険では、被害者に過失割合が7割以上ある場合、支払われる金額が減ってしまいます。 任意保険の場合には、被害者の過失割合が少しの場合でも、過失割合に応じて支払われる金額が減ってしまいます。たとえば、被害者の過失割合が1割の場合には保険金が1割減ります。 労災保険では、過失割合に応じて支払われる金額が減ることはほとんどありません。 被害者にも過失がある場合は、労災保険からの支払いを先に受けて、補えなかった分を自賠責保険や任意保険会社からの賠償金でカバーするという方法がよいでしょう。

自賠責保険からの支払いを先に受けた方がよいケース

自賠責保険を先に使った方がよいケースもあります。 たとえば、次のような場合が挙げられます。

  • 先に多くのお金を受け取りたい場合
  • すぐにお金を受け取りたい場合

どのような場合なのか詳しく見ていきましょう。

先に多くのお金を受け取りたい場合

自賠責保険では、労災保険とは異なり、「慰謝料」を受け取ることができ、補償の範囲が広いです。 先に多くのお金を受け取りたい場合には、自賠責保険を先に使うとよいでしょう。

すぐにお金を受け取りたい場合

自賠責保険には、「仮渡金制度」といって、すぐにお金を受け取りたい場合に、費目を定めないで一定のお金を受け取ることのできる制度があります。 被害者が死亡した場合には、290万円を受け取ることができます。

仮渡金制度を利用する場合には、自賠責保険の手続きだけを先に進めることになるので、任意保険会社の一括対応は受けられないことになります。

仮渡金制度の内容や手続きについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

労災保険を先に使う場合の手続きの流れ

労災保険を請求するには自分で手続きを行いますが、会社が手続きを代わりにやってくれることも多いようです。 会社に手続きをやってもらえないか、総務部などに確認しましょう。

労基署に労災保険を申請する

自分で手続きをする場合には、労働基準監督署に労災保険の給付を申請します。 労災保険の申請先は、所轄の労働基準監督署です。労働基準監督署は厚生労働省のホームページから探すことができます。 必要な書類は補償される給付によって異なります。交通事故の場合は、「第三者行為災害届」も提出します。 書類は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。労働基準監督署に行って手に入れることもできます。

労災保険を先に使いたいことを任意保険の担当者に伝える

任意保険会社の担当者から連絡がきたら、労災保険を先に使いたいことを任意保険の担当者に伝えましょう。 労災保険を先に使いたいことを伝えると、「労災保険や病院に提出した書類を任意保険会社も見ることに同意する」という内容の同意書を書くように言われます。任意保険会社が労災保険や病院に提出した書類を確認して、労災保険ではカバーされない損害(慰謝料や病院への交通費など)について手続きを進めるためです。 サインをすると、任意保険会社が労災保険や病院の書類を見ることができるようになり、手続きを進めてもらうことができます。 「慰謝料」は労災保険からは受け取れず、自賠責保険・任意保険からのみ受け取ることができます。労災保険だけでなく、自賠責保険・任意保険の手続きも忘れずにしましょう。

自賠責保険・任意保険を先に使う場合の手続きの流れ

自賠責保険・任意保険を先に使う場合には、通常の交通事故と同じように任意保険会社の担当者が自賠責保険から支払われる保険金も含めた保険金を支払うための手続きを進めます(一括対応)。 任意保険会社から保険金を受け取った後に、労災保険の手続きを進めることになります。 「遺族特別年金」「遺族特別支給金」は労災保険からのみ受け取れる補償です。「遺族特別年金」「遺族特別支給金」のみを請求することができるので、労災保険の手続きも忘れずにしましょう。

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