会社役員の休業損害
休業損害とは、交通事故の賠償金の費目のひとつで、交通事故でケガが治るまでの間、または症状固定(これ以上治療を続けても症状が改善しないと医学的に判断されたこと)までの間、仕事を休むことによって減ってしまった分の収入のことをいいます。
休業損害の計算方法は、次のようになります。
- 事故前の給与から1日あたりの収入を計算する
- 仕事を休んだ日数を数える
- 次の計算式に当てはめて計算する
休業損害の計算式1日あたりの収入×仕事を休んだ日数
1日あたりの収入は次のように計算します。
1日あたりの収入の計算式事故にあう前の一定期間の収入÷その期間の日数
会社役員の役員報酬が、サラリーマン(給与所得者)の給与と異なるのは、役員報酬の中に、役員の働きへの対価として支払われる部分と、それ以外の部分があるという点です。 それ以外の部分というのは、たとえば次のような部分です。
- 利益が出た場合に株主へ支払う配当金を役員報酬という形で支払った部分
- 親族のよしみで通常より多めに支払われる部分
- 法人税対策として経費となる役員報酬が多めに設定されている部分
これらのうち休業損害の計算のもとになる被害者の収入は、役員の働きへの対価として支払われる部分に限られます。
役員報酬のうち役員の働きへの対価として支払われる部分がどのくらいなのかは、次のような事情をふまえて、何パーセントという形で、事案ごとに判断されます。
- 会社の規模、利益状況
- 役員の地位、職務内容
- 役員報酬の額
この他、他の役員や従業員の職務内容・報酬額・給与額などの事情も判断要素になります。
グループ企業の社長などのいわゆる「雇われ社長」のように、役員でありながらオーナーの指示を受けて働いたり、裁量が少なかったりする場合には、収入の全額が役員の働きへの対価であると認められることが多いようです。
それぞれの事情について簡単に説明します。
会社の規模、利益状況
一般的には、次のような事情は、役員の働きへの対価部分が多いと判断される事情になります。
- グループ企業の雇われ社長の場合
- 役員が経営者と親族関係になく、長年勤務して取締役になったような場合
- 会社の業績が良い場合
- 事故後に会社の利益が減少した場合
逆に、次のような事情は、役員の働きへの対価部分が少ないと判断される事情になる場合があります。
- 会社が小規模で、役員が会社経営者である場合
- 役員が経営者の親族の場合
役員の地位、職務内容
次のような事情は、役員の働きへの対価部分が多いと判断される事情になります。
- 役員の職務内容や報酬の額が他の従業員とそれほど変わらない場合
- 小さな会社で、役員が1人で会社の利益をあげている場合
逆に、次のような事情は、役員の働きへの対価部分が少ないと判断される事情になります。
- 役員の職務内容が他の従業員と変わりないのに、報酬が高額な場合
- 役職は「取締役」などの役員だが、実際には役員としての仕事をしていない場合
役員報酬の額
次のような事情は、役員の働きへの対価部分が少ないと判断される事情になります。
- 役員が経営者の親族で、若くて経験が浅いにもかかわらず報酬が高額な場合
- 業績が伸びていないのに、報酬額が急に増えた場合
- 業績が低迷しているのに、報酬が高額な場合
具体的な計算例
たとえば、役員報酬(年収)が1200万円、役員の働きへの対価部分が80%の場合、次のように計算します。
1200万円×0.8=960万円
この960万円をもとに休業損害を計算していくことになります。
まず、1日あたりの収入を計算します。
1日あたりの収入の計算式事故にあう前の一定期間の収入÷その期間の日数
この場合は年収なので、365日で割ります。 960万円÷365日=約2万6301円が1日あたりの収入となります。 次に、仕事を休んだ日数を計算します。今回は30日(1か月)で計算してみます。 最後に1日あたりの収入と仕事を休んだ日数を掛けます。
休業損害の計算式1日あたりの収入×仕事を休んだ日数
2万6301円×30日=78万9030円が休業損害となります。