逸失利益の計算方法
裁判基準で定められている逸失利益の金額は、次の順序で計算します。
- 被害者の年収を計算する
- 労働能力喪失率を確認する
- 労働能力喪失期間を調べる
- ライプニッツ係数を係数表で調べる
- 次の計算式に当てはめて計算する
逸失利益の計算式逸失利益=年収×労働能力喪失率×ライプニッツ係数
被害者が子どもや学生の場合にはどのような計算になるのか、順に見ていきましょう。 子どもでも、働いている場合には、仕事の収入をもとに計算します。 給与所得者の場合はこちらの記事で詳しく解説しています。
子ども・学生の年収の計算方法
無職者のうち、子どもや学生の場合には、一般的に平均賃金をもとに計算します。
この場合に用いる平均賃金は、年齢別の平均ではなく、男女別の全ての年齢の平均です。
平成28年の賃金センサスによる平均賃金(全年齢平均)は、次の表のとおりです。
全年齢平均 | 年収額(単位:万円) |
---|---|
男性 | 549.43 |
女性 | 376.23 |
年少の女性の場合
年少の女性の場合には、女性の平均賃金ではなく、男女共通の平均賃金を用いるのが最近の裁判所の傾向です。 平成28年の賃金センサスによる平均賃金(男女共通)は次のとおりです。
全年齢平均 | 年収額(単位:万円) |
---|---|
男女共通 | 489.86 |
大卒の平均賃金を用いる場合
上の表の平均賃金は、学歴共通のものです。 被害者が大学生の場合には、大卒の平均賃金を用いる場合もあります。 平成28年の賃金センサスによる平均賃金(大卒、男女別全年齢平均)は、次の表のとおりです。
大卒 | 年収額(単位:万円) |
---|---|
男性 | 662.61 |
女性 | 457.23 |
また、高校生など、まだ大学生になっていない場合でも、大学に進学する確率が高いと認められる場合には、大卒の平均賃金を用いることが認められる場合もあります。 大学に進学する確率が高いといえるかは、次のような事情などをふまえて判断されます。
- 進学校へ通っていた
- 本人や両親が大学進学を希望していた
大卒の平均賃金を用いる場合、就職の時期が遅くなるため、学歴共通の平均賃金を用いる場合よりも損害額が減ることがあるので、注意が必要です。
労働能力喪失率を確認する
労働能力喪失率とは、「後遺障害によって仕事がどのくらいできなくなったか」を割合で示したものです。
労働能力喪失率が高いほど、仕事が全くできない状態に近くなります。
労働能力喪失率は、一応の目安が定められています(昭和32年に定められた「労働省労働基準局長通牒・別表労働能力喪失表」という基準です)。この基準が、後遺障害の等級別の労働力喪失率の一応の目安としても利用されています。
等級 | 労働能力喪失率(単位:万円) |
---|---|
要介護第1級 | 100% |
要介護第2級 | 100% |
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
※平成22年6月10日以降に発生した事故に適用します。 ただし、同じ等級でも、後遺障害の症状は目に関するもの、歯に関するもの、耳に関するものなど様々で、仕事に及ぼす影響も多岐にわたります。 そこで、単純に上記の表にあてはめるのではなく、次のような事情なども考慮して労働能力喪失率を決めることとされています。
- 被害者の職業
- 年齢
- 性別
- 後遺症の部位、程度
- 事故前後の稼働状況
この他、特に事故の前後で収入がどのように変化したかという点も重視されます。そもそも「後遺障害は残っているけれど、収入は減っていない(減収がない)」ような場合、逸失利益が認められるか、裁判で争われることも少なくありません。
後遺障害の場合は、個別のケースごとに症状や仕事への影響などが異なるため、同じような等級や収入の場合でも逸失利益の金額が異なることがあります。具体的な金額を正確に知りたい方は弁護士に相談することを検討してみてもよいでしょう。
労働能力喪失期間を調べる
労働能力喪失期間とは、後遺障害が残ったことによって仕事ができなくなった期間、つまり後遺障害を負わなければ仕事をすることができた期間のことをいいます。
原則として症状固定日から67歳まで
労働能力喪失期間は、原則として症状固定日(これ以上治療を続けても症状が改善しないと医学的に判断された時点)から67歳までの期間です。 たとえば、症状固定日に30歳の場合、労働能力喪失期間は次の計算式により、37年となります。
67歳ー30歳=37年
ただし、労働能力喪失期間の終わりの時期は、職種、地位、健康状態、能力などにより、異なる判断がされる場合があります。
むち打ち症の場合には、労働能力喪失期間を短くする裁判例が少なくないようです。 後遺障害等級が12級の場合には10年程度、14級の場合には5年程度にする裁判例があります。
症状固定時に18歳未満で働いていない場合
症状固定時に18歳未満で働いていない場合、労働能力喪失期間は、原則として18歳の時から始まります。 ただし、大学卒業を前提とする場合には、大学を卒業する予定の時期からとなります。
計算例たとえば、被害者の年齢が15歳の場合、次のように計算します。
労働能力喪失期間は18歳から始まります。
終わりの時期は67歳までです。
67歳ー18歳=49年
この49年が労働能力喪失期間となります。
ライプニッツ係数を係数表で調べる
逸失利益は、もし後遺障害にならなければ、本来は長い時間をかけて手に入るはずだったものです。
しかし、実際の損害賠償の場面では、一括払いになることがほとんどです。
そこで、一括払いで受け取る分だけ金額を減額することで、金額の調整をします(中間利息の控除)。
具体的には、「ライプニッツ係数」を用います。
ライプニッツ係数表(年金現価表)を見て、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を調べましょう。
たとえば、労働能力喪失期間が37年の場合のライプニッツ係数は、「16.7113」です。
就労可能年数 | ライプニッツ係数 | 就労可能年数 | ライプニッツ係数 |
---|---|---|---|
1 | 0.9524 | 44 | 17.6628 |
2 | 1.8594 | 45 | 17.7741 |
3 | 2.7232 | 46 | 17.8801 |
4 | 3.5460 | 47 | 17.9810 |
5 | 4.3295 | 48 | 18.0772 |
6 | 5.0757 | 49 | 18.1687 |
7 | 5.7864 | 50 | 18.2559 |
8 | 6.4632 | 51 | 18.3390 |
9 | 7.1078 | 52 | 18.4181 |
10 | 7.7217 | 53 | 18.4934 |
11 | 8.3064 | 54 | 18.5651 |
12 | 8.8633 | 55 | 18.6335 |
13 | 9.3936 | 56 | 18.6985 |
14 | 9.8986 | 57 | 18.7605 |
15 | 10.3797 | 58 | 18.8195 |
16 | 10.8378 | 59 | 18.8758 |
17 | 11.2741 | 60 | 18.9293 |
18 | 11.6896 | 61 | 18.9803 |
19 | 12.0853 | 62 | 19.0288 |
20 | 12.4622 | 63 | 19.0751 |
21 | 12.8212 | 64 | 19.1191 |
22 | 13.1630 | 65 | 19.1611 |
23 | 13.4886 | 66 | 19.2010 |
24 | 13.7986 | 67 | 19.2391 |
25 | 14.0939 | 68 | 19.2753 |
26 | 14.3752 | 69 | 19.3098 |
27 | 14.6430 | 70 | 19.3427 |
28 | 14.8981 | 71 | 19.3740 |
29 | 15.1411 | 72 | 19.4038 |
30 | 15.3725 | 73 | 19.4322 |
31 | 15.5928 | 74 | 19.4592 |
32 | 15.8027 | 75 | 19.4850 |
33 | 16.0025 | 76 | 19.5095 |
34 | 16.1929 | 77 | 19.5329 |
35 | 16.3742 | 78 | 19.5551 |
36 | 16.5469 | 79 | 19.5763 |
37 | 16.7113 | 80 | 19.5965 |
38 | 16.8679 | 81 | 19.6157 |
39 | 17.0170 | 82 | 19.6340 |
40 | 17.1591 | 83 | 19.6514 |
41 | 17.2944 | 84 | 19.6680 |
42 | 17.4232 | 85 | 19.6838 |
43 | 17.5459 | 86 | 19.6989 |
症状固定時に18歳未満で働いていない場合
被害者が18歳未満で働いていない場合には、労働能力喪失期間を原則として18歳から67歳までとして計算するため、症状固定時の年齢から18歳までの間のライプニッツ係数を差し引く必要があります。
計算例たとえば、被害者の年齢が15歳の場合、次のように計算します。
まず、15歳から67歳までの年数を計算します。
67歳ー15歳=52年
52年に対応するライプニッツ係数は、「18.4181」です。
次に、15歳から18歳までの年数を計算します。
18歳ー15歳=3年
3年に対応するライプニッツ係数は、「2.7232」です。
これらのライプニッツ係数を差し引きます。
18.4181ー2.7232=15.6949
この「15.6949」が、この場合に用いるライプニッツ係数となります。
このような計算をした結果をまとめた表が、18歳未満の者に適用する表です。
年齢 | ライプニッツ係数 |
---|---|
0 | 7.5495 |
1 | 7.9269 |
2 | 8.3233 |
3 | 8.7394 |
4 | 9.1765 |
5 | 9.6352 |
6 | 10.1170 |
7 | 10.6229 |
8 | 11.1541 |
9 | 11.7117 |
10 | 12.2973 |
11 | 12.9121 |
12 | 13.5578 |
13 | 14.2356 |
14 | 14.9474 |
15 | 15.6949 |
16 | 16.4796 |
17 | 17.3035 |
被害者が18歳未満で働いていない場合には、この表を見て、年齢に対応するライプニッツ係数を用いてください。
計算式に当てはめて計算する
ここまで、次の値を確認してきました。
- 被害者の年収
- 労働能力喪失率
- 労働能力喪失期間
- ライプニッツ係数
最後に、これらの値を次の計算式に当てはめて計算すれば、逸失利益の金額が求められます。
逸失利益の計算式逸失利益=年収×労働能力喪失率×ライプニッツ係数
計算例たとえば、被害者が次のような場合の逸失利益を計算してみましょう。
・男性
・症状固定日に15歳
・後遺障害等級が12級
この場合、男性の平均賃金(549万4300円)をもとに計算します。労働能力喪失率は14%が目安となります。
労働能力喪失期間は、原則として18歳から67歳までの49年です。18歳未満の者に適用する表で見た15歳に対応するライプニッツ係数は15.6949です。
以上を踏まえ、次のように計算します。
549万4300円×0.14×15.6949=1207万2548円
この1207万2548円が逸失利益となります。