逸失利益の計算方法
裁判基準で定められている逸失利益の金額は、次の順序で計算します。
- 被害者の年収を計算する
- 労働能力喪失率を確認する
- 労働能力喪失期間を調べる
- ライプニッツ係数を係数表で調べる
- 次の計算式に当てはめて計算する
逸失利益の計算式逸失利益=年収×労働能力喪失率×ライプニッツ係数
被害者が給与所得者の場合にはどのような計算になるのか、順に見ていきましょう。 被害者の年収が平均賃金を超える場合には、こちらの記事で詳しく解説しています。
被害者が30歳未満の場合には、こちらの記事で詳しく解説しています。
事故にあう前の年収で計算することが原則だが、平均賃金をもとにすることも
給与所得者の年収は、原則として事故にあう前の収入をもとに計算しますが、実際の年収が平均賃金以下の場合には、平均賃金をもとに逸失利益を計算することがあります。
平成28年の賃金センサスによる男女別の平均賃金は、次の表のとおりです。
男性 | 年収額(単位:万円) |
---|---|
〜19歳 | 251.45 |
20〜24歳 | 325.83 |
25〜29歳 | 414.69 |
30〜34歳 | 486.28 |
35〜39歳 | 542.87 |
40〜44歳 | 599.52 |
45〜49歳 | 666.29 |
50〜54歳 | 698.59 |
55〜59歳 | 664.46 |
60〜64歳 | 437.03 |
65〜69歳 | 374.96 |
70歳〜 | 356.34 |
女性 | 年収額(単位:万円) |
---|---|
〜19歳 | 226.23 |
20〜24歳 | 291.22 |
25〜29歳 | 352.96 |
30〜34歳 | 379.67 |
35〜39歳 | 392.92 |
40〜44歳 | 407.86 |
45〜49歳 | 418.50 |
50〜54歳 | 417.65 |
55〜59歳 | 397.59 |
60〜64歳 | 313.84 |
65〜69歳 | 293.92 |
70歳〜 | 301.48 |
平均賃金をもとに逸失利益を計算するには、「働き続けていれば平均賃金を得られる確率が高かった」ということを証明することが必要です。 働き続けていれば平均賃金を得られる確率が高いといえるかどうかは、主に次のような事情が考慮されます。
- 職場での人事評価の方法
- 被害者が技術を習得する可能性
- 転職や開業をしたばかりである
「働き続けていれば平均賃金を得られた確率が高い」ということは、容易に認められるわけではありません。個別の事情がある場合には、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
労働能力喪失率を確認する
労働能力喪失率とは、「後遺障害によって仕事がどのくらいできなくなったか」を割合で示したものです。
労働能力喪失率が高いほど、仕事が全くできない状態に近くなります。
労働能力喪失率は、一応の目安が定められています(昭和32年に定められた「労働省労働基準局長通牒・別表労働能力喪失表」という基準です)。この基準が、後遺障害の等級別の労働力喪失率の一応の目安としても利用されています。
等級 | 労働能力喪失率(単位:万円) |
---|---|
要介護第1級 | 100% |
要介護第2級 | 100% |
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
※平成22年6月10日以降に発生した事故に適用します。 ただし、同じ等級でも、後遺障害の症状は目に関するもの、歯に関するもの、耳に関するものなど様々なものがあり、仕事に及ぼす影響も様々です。 そこで、単純に上記の表にあてはめるのではなく、次のような事情なども考慮して労働能力喪失率を決めることとされています。
- 被害者の職業
- 年齢
- 性別
- 後遺症の部位、程度
- 事故前後の稼働状況
この他、特に事故の前後で収入がどのように変化したかという点も重視されます。そもそも「後遺障害は残っているけれど、収入は減っていない(減収がない)」ような場合、逸失利益が認められるか、裁判で争われることも少なくありません。
後遺障害の場合は、個別のケースごとに症状や仕事への影響などが異なるため、同じような等級や収入の場合でも逸失利益の金額が異なることがあります。具体的な金額を正確に知りたい方は弁護士に相談することを検討してみてもよいでしょう。
労働能力喪失期間を調べる
労働能力喪失期間とは、後遺障害が残ったことによって仕事ができなくなった期間、つまり後遺障害を負わなければ仕事をすることができた期間のことをいいます。
原則として症状固定日から67歳まで
労働能力喪失期間は、原則として症状固定日(これ以上治療を続けても症状が改善しないと医学的に判断された時点)から67歳までの期間です。 たとえば、症状固定日に30歳の場合、労働能力喪失期間は次の計算式により、37年となります。
67歳ー30歳=37年
ただし、労働能力喪失期間の終わりの時期は、職種、地位、健康状態、能力などにより、異なる判断がされる場合があります。
むち打ち症の場合には、労働能力喪失期間を短くする裁判例が少なくないようです。 後遺障害等級が12級の場合には10年程度、14級の場合には5年程度にする裁判例があります。
被害者の年齢が67歳を超えていた場合
被害者の年齢が症状固定時に67歳を超えていた場合には、「簡易生命表」という表を使います。 簡易生命表で、被害者の事故当時の年齢に対応する「平均余命」を調べます。 その平均余命を2で割った数値が就労可能年数として、裁判例でも参考にされています。 平成28年度の簡易生命表(男) 平成28年度の簡易生命表(女) たとえば、70歳の男性の場合、簡易生命表(平成28年)の平均余命は「15.72」年です。 労働能力喪失期間は、「15.72」を2で割った「7.86」年となります。
ライプニッツ係数を係数表で調べる
逸失利益は、もし後遺障害にならなければ、本来は長い時間をかけて手に入るはずだったものです。
しかし、実際の損害賠償の場面では、一括払いになることがほとんどです。
そこで、一括払いで受け取る分だけ金額を減額することで、金額の調整をします(中間利息の控除)。
具体的には、「ライプニッツ係数」を用います。
ライプニッツ係数表(年金現価表)を見て、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を調べましょう。
たとえば、労働能力喪失期間が37年の場合のライプニッツ係数は、「16.7113」です。
就労可能年数 | ライプニッツ係数 | 就労可能年数 | ライプニッツ係数 |
---|---|---|---|
1 | 0.9524 | 44 | 17.6628 |
2 | 1.8594 | 45 | 17.7741 |
3 | 2.7232 | 46 | 17.8801 |
4 | 3.5460 | 47 | 17.9810 |
5 | 4.3295 | 48 | 18.0772 |
6 | 5.0757 | 49 | 18.1687 |
7 | 5.7864 | 50 | 18.2559 |
8 | 6.4632 | 51 | 18.3390 |
9 | 7.1078 | 52 | 18.4181 |
10 | 7.7217 | 53 | 18.4934 |
11 | 8.3064 | 54 | 18.5651 |
12 | 8.8633 | 55 | 18.6335 |
13 | 9.3936 | 56 | 18.6985 |
14 | 9.8986 | 57 | 18.7605 |
15 | 10.3797 | 58 | 18.8195 |
16 | 10.8378 | 59 | 18.8758 |
17 | 11.2741 | 60 | 18.9293 |
18 | 11.6896 | 61 | 18.9803 |
19 | 12.0853 | 62 | 19.0288 |
20 | 12.4622 | 63 | 19.0751 |
21 | 12.8212 | 64 | 19.1191 |
22 | 13.1630 | 65 | 19.1611 |
23 | 13.4886 | 66 | 19.2010 |
24 | 13.7986 | 67 | 19.2391 |
25 | 14.0939 | 68 | 19.2753 |
26 | 14.3752 | 69 | 19.3098 |
27 | 14.6430 | 70 | 19.3427 |
28 | 14.8981 | 71 | 19.3740 |
29 | 15.1411 | 72 | 19.4038 |
30 | 15.3725 | 73 | 19.4322 |
31 | 15.5928 | 74 | 19.4592 |
32 | 15.8027 | 75 | 19.4850 |
33 | 16.0025 | 76 | 19.5095 |
34 | 16.1929 | 77 | 19.5329 |
35 | 16.3742 | 78 | 19.5551 |
36 | 16.5469 | 79 | 19.5763 |
37 | 16.7113 | 80 | 19.5965 |
38 | 16.8679 | 81 | 19.6157 |
39 | 17.0170 | 82 | 19.6340 |
40 | 17.1591 | 83 | 19.6514 |
41 | 17.2944 | 84 | 19.6680 |
42 | 17.4232 | 85 | 19.6838 |
43 | 17.5459 | 86 | 19.6989 |
計算式に当てはめて計算する
ここまで、次の値を確認してきました。
- 被害者の年収
- 労働能力喪失率
- 労働能力喪失期間
- ライプニッツ係数
最後に、これらの値を次の計算式に当てはめて計算すれば、逸失利益の金額が求められます。
逸失利益の計算式逸失利益=年収×労働能力喪失率×ライプニッツ係数
計算例たとえば、被害者が次のような場合の逸失利益を計算してみましょう。
・男性
・症状固定日に30歳
・後遺障害等級が12級
この場合、男性30〜34歳の平均賃金は486万2800円です。労働能力喪失率は14%が目安となります。
労働能力喪失期間は、原則として30歳から67歳までの37年です。37年に対応するライプニッツ係数は16.7113です。
以上を踏まえ、次のように計算します。
486万2800円×0.14×16.7113=1137万6919円
この1137万6919円が逸失利益となります。