
物損事故から人身事故に切り替えられたら刑事責任を問われる?
物損事故として処理されていたのに、後から被害者が人身事故に切り替えた場合、加害者は刑事責任を問われる可能性が出てくるのでしょうか。 このような疑問について「みんなの法律相談」に寄せられた実際の相談事例と、弁護士の回答をもとに解説します。
物損事故を人身事故に切り替えられたら刑事責任に問われる?
事故が起きた当初は、物損事故として処理されたのに、後日被害者が人身事故に切り替えた場合、加害者は刑事責任に問われる可能性が出てくるのでしょうか。
相談者の疑問
10日前に大学生の息子が信号待ちで追突事故を起こしてしまいました。息子が100%悪いです。
事故当時はどこもケガがありませんと当方で確認して別れて、被害者の方はそのまま旅行に出かけられましたので、当初物損扱いでしたが、先日相手が首や背中が痛いということで診察され警察署に届け出、人身事故になりますと警察から連絡がありました。
その時その電話の担当警察官の方が、「人身になったので犯罪です。前科がつきます」と言われ息子が憔悴しきってしまい、見ていられません。
相手の方へ謝罪の電話も当初から息子、主人、私としていますが、つながりません。本当に息子は犯罪者になって、前科がついてしまうのでしょうか?
弁護士の回答川面 武弁護士
追突事故を起こして、被害者に傷害結果を発生させた場合、現在の法律では過失運転致傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)が成立します(なお、自動車運転過失傷害罪という言葉は、一昨年5月19日までの旧称です)。
正確な数字は不案内ですが、過失運転致傷罪で前科を有する者は非常に多く、前科を有する者の総数の過半数を大きく超えて断トツの1位です。
本件で、前科がついてしまうことを可及的に避けるためには、対人無制限の任意保険に加入していることは当然の前提として、すべて保険会社任せではいけません。
質問者自身で、早急に私選弁護人を選任することが不可欠と考えます(加害者及びその家族が直接再三にわたって被害者にコンタクトを試みるのは好ましくありません)。
あくまで弁護人が被害者と交渉して、任意保険とは別個にお見舞金を支払うなどの対策を講じ、被害者に処罰意思がないとの一筆をもらうことが望ましいです(さらに示談までできればより良いですが保険会社との関係もありこの点は不可欠ではありません)。
人身事故に切り替えられても起訴されないケースは?
被害者に物損事故を人身事故に切り替えられても、必ずしも起訴されるわけではないようです。どのような場合なのでしょうか。
相談者の疑問
先月、追突事故(100:0)を起こした加害者です。
事故の内容は、被害者が黄色信号から赤信号に変わった瞬間に急ブレーキをかけたことで、ブレーキが間に合わず追突しました。被害者の方は前の車を追い抜かそうとして、右車線にずれたため、被害者の左後ろ側と私の右前の接触でした。
修理代もレンタカー代も治療費もきちんと保証しています。被害者の方からは新車で返せと言われたみたいです。修理代はかかっても、15万円ほどなので無理だと言っていますが、今でも新車にしてほしいといい続けているらしいです。
被害者の方が一度、警察に人身事故届けを出しに行ったんですが、また持ち帰ってそうです。保険会社の方は、軽症だと思いますと言っていました。警察の方からも連絡がきました。
人身事故に切り替えてもらった方がいいですか?
弁護士の回答井上 祐司弁護士
あなたの保険会社が交渉をしているけれど、被害者の方から種々の過大ともとれる要求がなされているということなのですね。
人身事故として届け出るかどうかは被害者次第です。
人身事故に切り替えることを交渉のカードのように使い無理な要求をされるくらいであれば、人身事故として警察に捜査してもらうことを促すことも一案だと考えます。
もっとも、実況見分調書が作成されるくらいのことであり、軽傷の人身事故ではよほどの前科や交通違反歴がない限り不起訴処分で終わることが多いです。
人身事故の損害は届出の有無に関わらず、最終的には医学的な所見がどのようなものかによって賠償額が左右されることが多いので、あまり現時点で心配されない方がよいと思います。